テンナンショウ属 Arisaema

植物 > 被子植物 > オモダカ目 > サトイモ科

テンナンショウ属の概要

春の林床や林縁などで特徴的な花を咲かせるサトイモ科の多年草。
その外見から本属の植物であることは容易に判断がつくが、それぞれの種は形態的変異に富み、しばしば種同定の難易度が高いことでも知られている。
性転換や送粉昆虫との関係など、多くの興味深い生態的知見が報告されている分類群でもある。

テンナンショウ属の分布と種数

世界に約180種あり1)、分布の中心はアジア地域である。
日本に3節53種、中国に14節80種、東南アジアに5節30種、インド・ヒマラヤに6節30種あるほか、アラビア・アフリカに2節9種、飛んで北米にも2節3種が分布する1)
日本はテンナンショウ属が最も多様化している地域の一つと言えるが、その多様性の大部分はマムシグサ節という1つの節の中で生じており、短期間のうちに分化が生じたという点も日本のテンナンショウ属の特徴と言える1,2)

テンナンショウ属掲載種一覧(五十音順)

ウラシマソウ節

ナンゴクウラシマソウ A. thunbergii subsp. thunbergii ★★★

ウラシマソウ A. thunbergii subsp. urashima ★★

ヒメウラシマソウ A. kiushianum ★★★

マイヅルテンナンショウ A. heterophyllum ★★★★

マムシグサ節

ハリママムシグサ A. minus ★★★★

ヒガンマムシグサ A. aequinoctiale ★★★

ミミガタテンナンショウ A. limbatum ★★

ユモトマムシグサ A. nikoense subsp. nikoense var. nikoense ★★★

ヒロハテンナンショウ A. ovale ★★

ミツバテンナンショウ A. ternatipartitum ★★

ムサシアブミ A. ringens ★★

ツクシマムシグサ A. maximowiczii ★★★

スルガテンナンショウ A. sugimotoi ★★

ムロウテンナンショウ A. yamatense ★★

コウライテンナンショウ A. peninsulae ★★

ヒトヨシテンナンショウ A. mayebarae ★★★

ホソバテンナンショウ A. angustatum ★★

マムシグサ A. japonicum ★★

ウンゼンマムシグサ A. unzenense ★★★

テンナンショウ属の分類と日本産種・変種一覧

テンナンショウ属は15節に分類され、日本にはこのうち3節53種が分布する1)
以下に日本産種を挙げる。
なお、節の配列は分類順、種の配列は五十音順。
分類は特に断りがない部分は邑田ほか(2018)1)に依っている。

ウラシマソウ節 sect. Flagellarisaema

中国、台湾、朝鮮半島、日本、アメリカ、メキシコに6種がある。
日本には次の3種が分布する。

種名国内分布
亜種ナンゴクウラシマソウ A. thunbergii subsp. thunbergii近畿、中国、四国、九州
亜種ウラシマソウ A. thunbergii subsp. urashima北海道南部~四国、(九州北部)
ヒメウラシマソウ A. kiushianum山口、九州
マイヅルテンナンショウ A. heterophyllum東北~九州

アマミテンナンショウ節 sect. Clavata

日本、台湾、中国に6種がある。
日本には次の2種が分布する。

種名国内分布
亜種アマミテンナンショウ A. heterocephalum subsp. heterocephalum奄美大島、徳之島
亜種オキナワテンナンショウ A. heterocephalum subsp. okinawense沖縄島
亜種オオアマミテンナンショウ A. heterocephalum subsp. majus徳之島
シマテンナンショウ A. negishii伊豆諸島

マムシグサ節 sect. Pistillata

中国、朝鮮半島、日本、ロシア、アメリカ合衆国に約53種がある1)
日本には48種が分布する1)
なお、以下に亜節および群に分けて記載するが、亜節の学名については裸名であるとされる1)
また、「群」はあくまで形態に基づいたグループ分けで3)、本節の種は遺伝的な分化が極めて浅いため類縁関係は明確でない1,2)

Pistillata亜節

発芽第1葉が単葉のグループ3)
胚珠数は相対的に多い3)

ヒガンマムシグサ群(ナガバマムシグサ群)1)
種名国内分布
タカハシテンナンショウ A. nambae岡山、広島
亜種ナガバマムシグサ A. undulatifolium subsp. undulatifolium伊豆半島
亜種ウワジマテンナンショウA. undulatifolium subsp. uwajimense愛媛、高知
ハリママムシグサ A. minus兵庫
ヒガンマムシグサ A. aequinoctiale関東~中部、広島、山口、四国
ミミガタテンナンショウ A. limbatum東北~中部、兵庫、高知、大分
セッピコテンナンショウ群1)
種名国内分布
セッピコテンナンショウ A. seppikoense兵庫
ホロテンナンショウ A. cucullatum奈良、和歌山、三重
ユモトマムシグサ群1)
種名国内分布
イシヅチテンナンショウ A. ishizuchiense四国
変種ユモトマムシグサ A. nikoense subsp. nikoense var. nikoense東北~中部
変種ヤマナシテンナンショウ A. nikoense subsp. nikoense var. kaimontanum山梨
亜種オオミネテンナンショウ A. nikoense subsp. australe静岡、紀伊半島
亜種カミコウチテンナンショウ A. nikoense subsp. brevicollum岐阜、長野、福井
亜種ハリノキテンナンショウ A. nikoense subsp. alpicola中部(日本海側)
ヒロハテンナンショウ群1)
種名国内分布
ナギヒロハテンナンショウ A. nagiense兵庫、鳥取、岡山
イナヒロハテンナンショウ A. inaense長野、岐阜
ヒロハテンナンショウ A. ovale北海道南部~中国、九州北部
群未定
種名国内分布
オガタテンナンショウ(ツクシテンナンショウ) A. ogatae宮崎、熊本、大分
シコクヒロハテンナンショウ A. longipedunculatum静岡、山梨、四国、九州
ミツバテンナンショウ A. ternatipartitum静岡、山口、四国、九州

Ringentia亜節

発芽第1葉は単葉だが、胚珠数が極端に少ない3)

種名国内分布
ムサシアブミ A. ringens愛知・福井~八重山

Pedatisecta亜節

発芽第1葉が3小葉のグループ3)
胚珠数は相対的に少ない3)

ヒトツバテンナンショウ群(Murata and Kawahara 1995)2)
種名国内分布
亜種オモゴウテンナンショウ A. iyoanum subsp. iyoanum中国、四国
亜種シコクテンナンショウ A. iyoanum subsp. nakaianum四国
ヒトツバテンナンショウ A. monophyllum東北~中部
ツクシマムシグサ群(芹沢 1982)4)
種名国内分布
ツクシマムシグサ A. maximowiczii九州
ムロウテンナンショウ群(芹沢 1980)5)
種名国内分布
スルガテンナンショウ A. sugimotoi岐阜~静岡とその周辺
ツルギテンナンショウ A. abei四国
ムロウテンナンショウ A. yamatense近畿とその隣接地域
アオテンナンショウ群(Murata and Kawahara 1995)2)
種名国内分布
アオテンナンショウ A. tosaense兵庫、広島、岡山、四国、大分
エヒメテンナンショウ A. ehimense愛媛
キシダマムシグサ A. kishidae岐阜、愛知、近畿
狭義マムシグサ群(邑田 1995)6)

特に分類の難しいグループ。ここでは最狭義のマムシグサ群と考えられる種を示す。
また「マムシグサ群」の示す範囲は文献により異なり、より広義の意味で使われる場合もある2,3,6,7)

種名国内分布
ウメガシマテンナンショウ A. maekawae中部~中国
オオマムシグサ A. takedae北海道南部~中国
カントウマムシグサ A. serratum東北~九州
コウライテンナンショウ A. peninsulae北海道~九州
ハチジョウテンナンショウ A. hatizyoense八丈島
ヒトヨシテンナンショウ A. mayebarae九州
ホソバテンナンショウ A. angustatum関東~岡山
マムシグサ A. japonicum四国、九州
ミクニテンナンショウ A. planilaminum関東、中部
変種ミヤママムシグサ A. pseudoangustatum var. pseudoangustatum中部(太平洋側)、兵庫、岡山、鳥取
変種スズカマムシグサ A. pseudoangustatum var. suzukaense岐阜、滋賀、三重、石川、福井
変種アマギミヤママムシグサ A. pseudoangustatum var. amagiense静岡
ヤマグチテンナンショウ A. suwoense伊豆半島、山口
ヤマザトマムシグサ A. galeiforme関東、中部
ヤマジノテンナンショウ A. solenochlamys中部、北関東
ヤマトテンナンショウ A. longilaminum中部、三重、奈良
その他
種名国内分布
アマギテンナンショウ A. kuratae伊豆半島
ウンゼンマムシグサ A. unzenense長崎
オドリコテンナンショウ A. aprile静岡、神奈川
カラフトヒロハテンナンショウ A. sachalinense利尻、礼文
キリシマテンナンショウ A. sazensoo九州
タシロテンナンショウ(ツクシヒトツバテンナンショウ) A. tashiroi大分、宮崎、鹿児島
トクノシマテンナンショウ A. kawashimae徳之島
ヒュウガヒロハテンナンショウ A. minamitanii宮崎、鹿児島
ユキモチソウ A. sikokianum近畿、四国

文献

1)邑田仁・大野順一・小林禧樹・東馬哲雄 2018. 『日本産テンナンショウ属図鑑』北隆館.
2)邑田仁, & 河原孝行. (1995). Allozyme Differentiation in Arisaema (Araceae):(3) Arisaema serratum Group (Sect. Pedatisecta) (Doctoral dissertation, Kanazawa University).
3)小林禧樹. (2016). テンナンショウ属の研究ノート―発芽第一葉, 胚珠数, 染色体数と分類―. 植物研究雑誌91(suppl), 128-137.
4)芹沢俊介. (1982). 日本産テンナンショウ属の再検討 (6) ツクシマムシグサ群. 植物研究雑誌57(3), 85-90.
5)芹沢俊介. (1980). 日本産テンナンショウ属の再検討 (2) ムロウテンナンショウ群. 植物研究雑誌55(12), 353-357.
6)邑田仁. (1995). マムシグサ群の多様性. 植物分類, 地理46(2), 185-208.
7)松本哲也, 佐桒信也, & 邑田仁. (2018). 岡山県北部に産するマムシグサ群 (サトイモ科) の分類学的検討. 植物研究雑誌93(4), 253-268.

編集履歴

2024/12/6 公開