植物 > 被子植物 > オモダカ目 > サトイモ科 > テンナンショウ属
分布1,2):九州(主に熊本県)。日本固有種。
熊本県周辺に分布するテンナンショウの仲間。特徴的で認識しやすい種だが、マムシグサなどとの交雑個体も少なくない。仏炎苞が赤紫褐色で外面が白みを帯びる独特の美しさを持った種である。
ヒトヨシテンナンショウの概要
花期2) | : | 5月ごろ |
希少度 | : | ★★★(やや稀) |
生活形 | : | 多年草 |
生育環境1,2) | : | 火山堆積物を覆う明るい林の林床など。多数がまとまって生えることが多い。 |
学名3) | : | mayebarae…熊本の植物研究家・前原勘次郎への献名 |
ヒトヨシテンナンショウの形態
花
仏炎苞は全体赤紫褐色(濃赤紫色~紫褐色)1,2)。
普通白条は目立たず、筒部外面はしばしば白粉を帯びる2)。
花序付属体は棒状で直立し、紫黒色ときに乳白色1,2)。
舷部中央はドーム状に盛り上がる2)。
葉・全草
花序柄は葉柄部と同長または長い2)。
偽茎部は葉柄部より長い。
偽茎部の斑は目立たない2)。
葉は通常2個、小葉間には葉軸が発達する。
小葉は9-17個、しばしば細鋸歯がある2)。
花序は葉身よりも早く展開する1)。
この早咲きという特徴は、九州で広く見られる最狭義マムシグサ種と共通する。
葉身の展開前に花序が展開した株。
果実
果実は10月ごろに熟す2)。
識別
本種は分布が九州(熊本県とその周辺)に限られ、仏炎苞の形態も特徴的であることから比較的認識しやすい。
特に仏炎苞が赤紫褐色で外面が白粉を帯びるような種は他になく、典型的なものは花序を見れば識別可能である。
しかしマムシグサなどとの間に交雑に由来すると思われる個体が見られることがあり、識別には注意が必要。
マムシグサ種との識別
マムシグサ(最狭義、四国と九州に分布するもの)は形態的に多様な種で、花序が葉身より早く展開する(早咲き)という点が本種と共通する。
また遺伝的にも近縁であると考えられ、交雑によると思われる個体が各所で見られるため注意が必要である1,2)。
典型的なヒトヨシテンナンショウでは仏炎苞が濃い赤紫褐色で白条が目立たないのに対し、マムシグサでは淡緑褐色~紫褐色で白条が目立つ。
また、マムシグサでは偽茎部の赤紫褐色の斑が目立つ傾向。
花期はヒトヨシテンナンショウのほうが1か月ほど遅いとされる(本ページに掲載した株は3-4月撮影だが)。
ヒトヨシテンナンショウの生態
性転換
雌雄偽異株で、株の成長に伴い雄株から雌株に性転換する2)。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)邑田仁・大野順一・小林禧樹・東馬哲雄 2018. 『日本産テンナンショウ属図鑑』北隆館.
3)国立科学博物館『前原勘次郎と球磨地方の植物研究』https://www.kahaku.go.jp/userguide/hotnews/theme.php?id=0001614920966306&p=1 2025/1/6閲覧.
編集履歴
2025/1/6 公開