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緑色の花序をつけるテンナンショウの仲間。ホソバの名があるが、小葉が細いとは限らない。地域によってはかなり普通に見られるが、識別に注意が必要な種の一つである。
ホソバテンナンショウの概要

花期2) | : | 4-5月ごろ |
希少度 | : | ★★(普通) |
生活形 | : | 多年草 |
生育環境1) | : | 低山地~山地の林下、林縁 |
学名3) | : | angustatum「狭い」 |
ホソバテンナンショウの形態
花
葉・全草
果実
果実は10-11月ごろに熟す2)。
識別
本種はマムシグサ群では形態が比較的安定しているほうだが、仏炎苞が緑色の他種との識別はしばしば難しい。
以下にいくつかの類似種の特徴を挙げるが、必ずしも図鑑の記載通りにならないのが本属の難しいところである。
なお、和名にホソバとあるが、必ずしも小葉の幅が狭いわけではない。
コウライテンナンショウは北海道・本州・九州の広い範囲に分布し、仏炎苞の展開が葉身より遅い傾向、仏炎苞口部の張り出しは狭いか全くなく、舷部内面に隆起する細脈がある1,2)。
カントウマムシグサは形態的にきわめて多様な分類群で、仏炎苞は紫褐色~緑色、付属体が根棒状に太くなる(細いものもある)。舷部内面に隆起する細脈が著しい1,2)。トウゴクマムシグサと呼ばれるものを含む。
ウメガシマテンナンショウは静岡県・山梨県から山口県にかけての本州に分布し、全体ホソバテンナンショウによく似ているが、仏炎苞がより明るい緑色で白条が目立たず、口部の張り出しが狭い。特に中部地方のものは花序付属体が太い2)。
ミヤママムシグサ(基変種)は中部地方と中国地方東部に分布し、仏炎苞は緑色だがやや半透明で開花後期には青白色、葉身よりも遅く展開する。舷部は筒部とほぼ同長。小葉間の葉軸の発達がやや悪い2)。
アマギミヤママムシグサはミヤママムシグサの変種で、伊豆半島に分布し、仏炎苞舷部の幅が狭く、舷部内面や辺縁に乳頭状突起が密生し白っぽくなる2)。仏炎苞は葉身よりも遅く展開する。
ホソバテンナンショウの生態
性転換
雌雄偽異株で、株の成長に伴い雄株から雌株に性転換する2)。
送粉昆虫(ポリネーター)
Suetsugu et al. (2021)5)は兵庫県において同所的に生育する本種とアオオニテンナンショウ(論文中で学名はA. peninsulaeとされている)の訪花昆虫の調査を行い、両種間で訪花キノコバエ相が顕著に異なっていることを見出した。
また、両種の花序から見つかった主たるキノコバエはほぼ全てがオスであり、さらに花序付属体の切除によって訪花数が著しく減少したことから、本種やアオオニテンナンショウが付属体から出る物質によって特定のキノコバエを誘引している(性フェロモン擬態)可能性が示唆されている。
Matsumoto st al. (2021)6)も岡山県において本種を含む5種(ホソバテンナンショウ、ウメガシマテンナンショウ、コウライテンナンショウ、ミヤママムシグサ、ヒロハテンナンショウ)のテンナンショウの訪花昆虫を調べており、各種の主たる訪花キノコバエが属レベルで異なることを示している。
なお、ホソバテンナンショウで優占していたキノコバエはSuetsugu et al. (2021)と同様にCordyla属であった。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)邑田仁・大野順一・小林禧樹・東馬哲雄 2018. 『日本産テンナンショウ属図鑑』北隆館.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)松本哲也, & 高杉茂雄. (2022). 中国山地東部におけるホソバテンナンショウ (サトイモ科) の分布. 植物研究雑誌, 97(5), 290-297.
5)Suetsugu, K., Sato, R., Kakishima, S., Okuyama, Y., & Sueyoshi, M. (2021). The sterile appendix of two sympatric Arisaema species lures each specific pollinator into deadly trap flowers. Ecology, 102(2), 1-5.
6)Matsumoto, T. K., Hirobe, M., Sueyoshi, M., & Miyazaki, Y. (2021). Selective pollination by fungus gnats potentially functions as an alternative reproductive isolation among five Arisaema species. Annals of Botany, 127(5), 633-644.
編集履歴
2025/1/6 公開