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分布1,2,4,5):九州中北部。ただし、宮崎4)・鹿児島5)にも記録がある。タシロテンナンショウと明確に区別できない可能性がある。三重県の記録は産地誤認とされる1,2,6)。日本固有種。
九州に分布するテンナンショウの仲間。仏炎苞の舷部が半透明に白く抜けており、先も長く伸びるなど、特徴的で美しい花序をつける。九州南部ではタシロテンナンショウ(ツクシヒトツバテンナンショウ)と入れ替わる。
ツクシマムシグサの概要
花期2) | : | 5月ごろ |
希少度 | : | ★★★(やや稀) |
生活形 | : | 多年草 |
生育環境1) | : | 山地の林下 |
学名3) | : | maximowiczii…ロシアの植物学者カール・ヨハン・マキシモヴィッチが採集した標本に基づいて記載されたことによる献名 |
ツクシマムシグサの形態
花・葉・全草
仏炎苞は緑色または紫色2)。
舷部が時に窓状に半透明(白色)となるが、その程度には個体差があり、写真のものよりも広いものや狭いものがある6)。
舷部の先が尾状に伸びることも大きな特徴。
仏炎苞が緑色の株。
仏炎苞は葉よりも後に展開する2)。
花序柄は葉柄部より短いか、ときにほぼ同長2)。
舷部の縁にはしばしば透明の細突起がある2)。
付属体が細い棒状なのが大きな特徴で、ときに前に曲がる6)。
口部の開出の程度には個体差がある6)。
葉は通常1個だが、大型の株では写真のように時に2個つく2)。
偽茎部は長い。
開花前の仏炎苞。
半透明の部分や尾状に伸びる舷部先端などに特徴が表れている。
葉は葉軸が発達し、小葉は7-17個2)。
小葉の縁にはしばしば鋸歯がある2)。
果実
果実は9月後半-10月に熟す2)。
識別
本種は花序の特徴が比較的はっきりしており、本属の中では見分けやすい。
ポイントは次の通り。
- 仏炎苞の舷部(花序の上部)がしばしば窓状に半透明(白色)になる
- 舷部の先が尾状に伸びる
- 花序付属体(仏炎苞の中から覗いている棒状の器官)が細いこと。
また、葉が通常1個(大きな株では時に2個)であることも参考になる。
なお、九州で他に花序付属体が細い種はタシロテンナンショウやウンゼンマムシグサくらい。
タシロテンナンショウ(ツクシヒトツバテンナンショウ)は本種によく似ており、大分・宮崎・鹿児島にあって、本種と入れ替わる形で南側に分布する。上記1.および3.の特徴が共通する6)など全体よく似るが、ほとんどの株で葉は2枚、仏炎苞舷部の先は長く伸びず、舷部の椀状の膨らみが強い。
ウンゼンマムシグサは長崎県の限られた地域に分布し、葉は通常2個、仏炎苞は緑色で、付属体はごく細く糸状でやや前に曲がる。
オガタテンナンショウ(ツクシテンナンショウ)は宮崎・熊本・大分各県に分布し、葉は2枚で葉軸はほとんど発達せず、仏炎苞は緑色で付属体が太い。むしろ名前(ツクシ~)がややこしいため注意。
九州には他にヒトヨシテンナンショウ(九州中部)、ヒュウガヒロハテンナンショウ(宮崎と鹿児島)、キリシマテンナンショウ(九州中南部)といった固有種があるが、本種とは似ていない。
広域分布種でもヒロハテンナンショウ、シコクヒロハテンナンショウ、マムシグサ、カントウマムシグサ、コウライテンナンショウなどが九州に分布しているが、上記の3つの識別点を確認すれば識別は難しくない。
分布は異なるが、ホソバテンナンショウと全体的にやや似る2)。
ツクシマムシグサの生態
性転換
雌雄偽異株で、株の成長に伴い雄株から雌株に性転換する2)。
分類
本種(ツクシマムシグサ)は分類が混乱してきた過去がある。
三重県産の標本をもとに記載されたシママムシグサA. simenseは形態的にはツクシマムシグサのシノニムとなるが、ツクシマムシグサは現状九州からしか知られておらず、産地の誤りである可能性が指摘されている。
また、タシロテンナンショウ(ツクシヒトツバテンナンショウ)を本種の亜種として扱う意見もあった6)。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)邑田仁・大野順一・小林禧樹・東馬哲雄 2018. 『日本産テンナンショウ属図鑑』北隆館.
3)原寛. (1954). ツクシマムシグサ. 植物研究雑誌, 29(6), 163-163.
4)小鈴木英治, 丸野勝敏, 田金秀一郎, 寺田竜太, 久保紘史郎, 平城達哉, & 大西亘. (2022). 鹿児島県の維管束植物分布図集―全県版―. 526p., 鹿児島, 鹿児島大学総合研究博物館.
5)宮崎県 2020. 『三訂・宮崎県版レッドデータブック』https://www.pref.miyazaki.lg.jp/shizen/kurashi/shizen/page00193.html 2024年10月31日閲覧.
6)芹沢俊介. (1982). 日本産テンナンショウ属の再検討 (6) ツクシマムシグサ群. 植物研究雑誌, 57(3), 85-90.
編集履歴
2024/12/27 公開