マガモ Anas platyrhynchos

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三重県津市 2024/2/12
※分布図は目安です。

分布3,4,6,7,8):主に冬鳥として全国に飛来する。北海道や本州の一部では繁殖する。近年ではアイガモとの交雑でより南方でも繁殖が見られ、純粋な野生個体との判別が困難。国外では北半球中緯度地域で広く繁殖し、北米にも分布する。

日本で越冬するカモの中で最も個体数の多い種として知られる。アヒルやアイガモはマガモを家禽化したものであり、野生個体と交雑して雑種となる。北日本では繁殖するが、南の地域においても主に家禽と交雑した個体が繁殖している様子をよく見かける。カルガモともごく近縁で、しばしば雑種が観察される。

マガモの概要

希少度★(ごく普通)
全長1)50-65㎝
生息環境4)池、湖、河川、港湾など
学名2)platyrhynchos…ギリシャ語platus「広い」+rhunkhos「嘴」
英名5)Mallard「マガモ」

マガモの形態

※この項の記述は少ない観察経験に基づいており、誤りや不正確な表現を含む可能性があります。
その点ご了承の上ご覧ください。

オス生殖羽

北海道根室市 2019/2/25

オス生殖羽。
オスは嘴のほぼ全体が黄色く、白い首輪が目立つ。

仙台市若林区 2023/12/9

オス生殖羽(別個体)。
頭部は緑色の光沢がある。
中央尾羽は上方に反り返る。

名古屋市西区 2016/2/13

オス生殖羽(別個体)。
頭部は角度によっては藍色にも輝いて見える。

大阪府摂津市 2015/2/12

オス生殖羽(別個体)。
嘴は先端の嘴爪のみ黒い。

京都市左京区 2017/4/1

オス生殖羽(別個体)。
翼鏡は雌雄ともに青色。
この個体は首輪が薄く体も大きく、家禽の血が入っていると考えられる。

京都市左京区 2017/4/1

同一個体。
翼のパターンは雌雄、年齢によらずほぼ同じ。
雨覆の羽縁はオスのほうが目立たない傾向。
繰り返しだが本個体は家禽が入っている。

オス成鳥

オスエクリプス→生殖羽移行中

大阪府茨木市 2014/10/11

オスエクリプス→生殖羽移行中。
完全なエクリプスではメスに似るが、オスの嘴は年中ほぼ全体が黄色い。

オス生殖羽→エクリプス移行中

北海道苫小牧市 2017/6/18

オス生殖羽→エクリプス移行中(初期)。
マガモでは6月から9月ごろにかけてエクリプスとなる。

メス

名古屋市西区 2016/2/13

メス。
メスの嘴は橙色で、中央付近に黒色部を伴う。
三列風切は非生殖羽。

長野県松本市 2018/7/22

メス(別個体)。
生殖羽に近いと考えられる個体。
生殖羽では全体に明るい羽衣になり、三列風切に非生殖羽には無い橙褐色斑が出る。
生殖羽の嘴は非生殖羽よりもパターンが不明瞭となる。

三重県津市 2024/2/12

メス(別個体)。

三重県津市 2017/12/8

メス(別個体)。
翼のパターンはオスとほぼ同じ。

幼鳥

京都市左京区 2017/6/8

まだ幼く飛べない段階の幼鳥。
もう少し成長すると嘴の色彩で雌雄が分かるようになる。
この場所は家禽との雑種が多く見られる場所で、この個体も家禽の血が入っている可能性が高い。

年齢・雌雄の識別

オスのエクリプスはメスに似るが、嘴の特徴から雌雄の識別は容易。
一方で年齢や、幼羽の雌雄識別には注意が必要。

幼羽の特徴

幼羽は①脇や肩の羽(特に脇の最上列)がV字状に尖り、②胸~腹に小斑が整然と並ぶ4)
ただし①は分かりづらいことも多く、また早い段階で換羽が進み成鳥と区別が難しくなることもある。

幼羽の雌雄

幼羽の雌雄識別は嘴の特徴が分かりやすい。
オス幼羽では嘴が黄色で嘴峰(上辺)に黒色斑が出るのに対し、メスでは橙色。
ただしより幼い雛の段階ではこれらの特徴はまだ出ていない。

他種との識別

特に似た種はいないが、慣れないうちはオカヨシガモのメスとの識別に注意。
ただし、同種である家禽マガモ(アイガモ、アヒル)との交雑個体の存在に注意する必要がある。
またカルガモと非常に近縁で、様々なタイプの交雑個体(通称「マルガモ」)が観察される。
アイガモの絡む雑種が多く見られる地域では、野生マガモ・アイガモ・カルガモが複雑に交雑し混沌としている場合も多い。
京都の鴨川周辺はその一例である。

オカヨシガモとの識別

マガモのメスとオカヨシガモのメスは一見よく似ているが、慣れれば間違うことはない。
翼鏡はマガモでは青色だが、オカヨシガモでは白色。
三列風切はマガモの方が明らかに幅広い。
体型もオカヨシガモの方がスマートである。

カルガモとの雑種

カルガモとマガモの雑種(通称「マルガモ」)についてはカルガモのページを参照。

家禽マガモとその雑種

マガモは極めて古い時代から人類に利用されてきており、その過程で家禽としての品種改良が行われてきた。
現生人類によるマガモを対象とした狩猟の最古の記録は1万年以上前で、家禽化の歴史も2500年前後とされる15)
品種改良によって様々な品種が作り出され、中国においてはカルガモも含めて交配が行われた16)
こうした家禽化されたマガモや、家禽マガモと野生マガモを交配したもののことをアヒルアオクビアヒルアイガモ等と呼んでいる。
これらの家禽マガモの見た目は様々であり、全身が白いものから野生マガモと似たものまでいる。
野外に放たれた家禽マガモは野生のマガモやカルガモと容易に交雑し、また多くの場合十分な飛翔能力もあるため、純粋な野生との識別が現実的に困難な状況となっている。

なお、ガチョウシナガチョウはマガモではなく、それぞれハイイロガンサカツラガンを家禽化したものである。

兵庫県伊丹市 2010/10/10

家禽マガモ3羽。
体色は様々。全身が白いものもいる。

大阪市中央区 2023/12/30

家禽マガモオス。
体は野生のマガモより明らかに大きい。

台湾・台北植物園 2019/2/16

家禽マガモオス。

兵庫県伊丹市 2016/12/17

家禽マガモオス。

兵庫県伊丹市 2013/2/24

家禽マガモオス3羽。
このように野生個体と体色のパターンが似た個体も多いが、全体に体が大きくずんぐりしている点は共通している。
よく見ると首輪が目立たなかったり、嘴が黄色くなかったり、下尾筒がぼけた模様をしていたりする。

京都市左京区 2014/3/15

家禽マガモオス。
野生個体に見た目が近く、野生個体との交雑の影響が推測される。
野生個体より首輪が太い、首輪の後方付近の色が淡い、などの特徴に家禽の影響が現れていると考えられる。

京都市左京区 2017/6/8

家禽マガモオス。
エクリプスが目立ってきているが、野生個体に近い見た目。
体は純粋な野生個体より大きく、家禽の影響が考えられる。

京都市左京区 2016/2/28

家禽マガモとカルガモの関係した雑種。
嘴はカルガモに近い。
大きな体型が家禽を彷彿とさせる。

分類

亜種について

広く分布する基亜種のほか、グリーンランドに亜種conboschasが分布するとされる5)

マガモおよび近縁種との関係

マガモは新マガモ属(MarecaSpatulaSibirionettaを分離して残った群)に属し、カルガモと非常に近縁である5,9,10)
外見はカルガモと大きく異なるが、両者の鳴き声やディスプレイがほぼ同じであることからも近縁であることが伺える。
極東ロシアにおいてはカルガモの繁殖分布拡大に伴い、マガモとの交雑が進行しているとの報告がある11)
ロシアの同地においてはマガモの繁殖地に少数のカルガモ(主にオス)が侵入することで、カルガモのオスからマガモのメスへの方向で遺伝子流入が起こっていることを示すデータが得られている11)

また、マガモやカルガモを含むマガモ種群(世界に13種とされる)の内部の系統関係は未だ結論を見ず、形態・ミトコンドリアDNA・核DNAのそれぞれで異なる系統樹が得られるとの結果が出ている9,10)
形態的に区別可能であっても、遺伝的分化が不十分な分類群であると考えられる。
北米のマダラガモ、アメリカガモ、メキシコガモともごく近縁である9,10)

マガモの生態

食性と採食行動

マガモは主に植物食で、穀類、植物の種子、水生植物、どんぐりなどを食べる4)
ただし、動物質もしばしば採食する。

マガモは水面採餌ガモであり、通常は潜水しないが、時に短時間の潜水採餌を行う。
オホーツク海潟湖における研究では、マガモが頻繁に潜水採餌を行って貝類を捕食していたことが報告されており、潜水時間は最長で12秒程度であった12)

また、伊豆沼においてはコガモやトモエガモとともにオオハクチョウの糞を採食した例が知られている13)

片野鴨池周辺における研究では、採食は主に夜間行われ、冬季の湛水水田を採食地として利用していることが報告されている14)
冬季におけるこうした湛水水田の存在が、本種の越冬に重要である可能性がある8,14)

個体数について

冬季のガンカモ調査におけるマガモの確認個体数は近年40万羽前後で推移している7)
2021年度のガンカモ調査においては426,378羽が確認されており、潜水採餌ガモを含めたカモ類の中で最も多い種となっている7)

また、繁殖分布は拡大傾向だが、家禽マガモとの交雑による例も多いと考えられる8)

文献

1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)氏原巨雄・氏原道昭 2015. 『決定版 日本のカモ識別図鑑』誠文堂新光社.
5)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2023. IOC World Bird List (v13.2). doi : 10.14344/IOC.ML.13.2.
6)バードリサーチ・日本野鳥の会 2023. 『全国鳥類越冬分布調査報告 2016-2022 年』
7)環境省自然環境局生物多様性センター 2023. 第 53 回ガンカモ類の生息調査報告書.
8)鳥類繁殖分布調査会 2021. 『全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう 2016-2021年』
9)Lavretsky, P., Hernández-Baños, B. E., & Peters, J. L. (2014). Rapid radiation and hybridization contribute to weak differentiation and hinder phylogenetic inferences in the New World Mallard complex (Anas spp.). The Auk: Ornithological Advances131(4), 524-538.
10)Lavretsky, P., McCracken, K. G., & Peters, J. L. (2014). Phylogenetics of a recent radiation in the mallards and allies (Aves: Anas): inferences from a genomic transect and the multispecies coalescent. Molecular Phylogenetics and Evolution70, 402-411.
11)Kulikova, I. V., Zhuravlev, Y. N., & McCracken, K. G. (2004). Asymmetric hybridization and sex-biased gene flow between Eastern Spot-billed Ducks (Anas zonorhyncha) and Mallards (A. platyrhynchos) in the Russian Far East. The Auk121(3), 930-949.
12)岡奈理子. (2010). オホーツク海潟湖で越冬するマガモの潜水採食行動. 日本鳥学会誌59(2), 161-167.
13)Shimada, T. E. T. S. U. O. (2012). Ducks foraging on swan faeces. Wildfowl62(62), 224-227.
14)田尻浩伸. (2022). 冬期湛水水田における夜間のマガモ Anas platyrhynchos の行動. 湿地研究12, 97-104.
15)Champagnon, J., Elmberg, J., Guillemain, M., Lavretsky, P., Clark, R. G., & Söderquist, P. (2023). Silent domestication of wildlife in the Anthropocene: The mallard as a case study. Biological Conservation288, 110354.
16)Zhang, Y., Bao, Q., Cao, Z., Bian, Y., Zhang, Y., Cao, Z., … & Xu, Q. (2023). Chinese domestic ducks evolved from mallard duck (Anas Platyrhynchos) and spot-billed duck (A. zonorhyncha). Animals13(7), 1156.

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2024/4/13 公開