ハイイロガン Anser anser

野鳥 > カモ目 > カモ科 > マガン属

新潟県佐渡島 2018/1/4
※分布図は目安です。

分布1):稀な冬鳥として全国各地で散発的に記録がある。国外ではユーラシア大陸に広く分布。

稀な冬鳥として日本に飛来するガンの仲間。ガチョウの原種としても知られている。マガンの幼鳥と間違われる場合もあるので、嘴が大きいことや足の色を確認するとよい。

ハイイロガンの概要

希少度★★★★(稀)
全長2)84㎝
生息環境2)湖沼、河川、水田
英名Greylag Goose「灰色のガン」

ハイイロガンの形態

成鳥

新潟県佐渡島 2018/1/4

腹部の黒斑は成鳥の特徴。
背、脇は成鳥ではこのように縞模様になる。

新潟県佐渡島 2018/1/4

同一個体。
雨覆は先端が平らな成羽。

新潟県佐渡島 2018/1/4

同一個体の羽ばたき。
翼の上側の青白さが特徴的である。
一方で風切は黒っぽく、飛翔時にもコントラストが目立つ。
腰は灰色。

新潟県佐渡島 2018/1/4

同一個体。
尾羽は先が白く、外側尾羽ではほぼ全体が白い。
下腹~下尾筒も白い。

年齢の識別

成鳥では上記のように腹部に黒斑が見られ、背や脇が縞模様に見える。
一方の幼羽~第1回冬羽では腹部に黒斑はなく、背や脇も縞模様に見えない。
ただし換羽の早い幼鳥では年明けにはほぼ成鳥と変わらない見た目のものもいるようで4)(黒斑は出ない)、その場合には中雨覆の確認が有効である(下図参照)。

第2回冬羽は成鳥とよく似るが、中雨覆に一部旧羽を残す個体も見られる4)
また、一見成鳥に見えるが腹部に黒斑のない個体は第2回冬羽の可能性がある(全個体に当てはまるかは不明)4)

ハイイロガンの中雨覆

静止時の中雨覆の位置。
成鳥では写真のように先が平らとなる。

ハイイロガンの中雨覆

翼を開いた際の中雨覆(同じ個体)。
幼羽では写真とは異なり、幅が狭く、先細りとなるためかなり印象が異なる。

識別

一見して区別できるような特徴に乏しいため、慣れるまで注意が必要。
特にマガン幼鳥と間違える例が多いと思われる。

ハイイロガンとマガンの見わけかた

  • ハイイロガンのほうが一回り大きい。嘴も大きい3)
  • ハイイロガンの足はピンク色、マガンの足はオレンジ色。
  • ハイイロガンの翼には青白い部分がある。(羽ばたき写真参照)
  • ハイイロガンの嘴基部はふつう白くないが(例外あり)、マガン成鳥では幅広く白い。

幼鳥では両種とも嘴基部は白くなく、また足の色も場合によっては分かりにくいので、嘴の大きさや翼のコントラストの有無に注目するのがよいと考えられる。

ハイイロガンとヒシクイの見わけかた

ヒシクイ(およびオオヒシクイ)も体の色が似ているが、ヒシクイの嘴は黒くて先端が黄色であるため区別は容易。(ハイイロガンは全体がピンク)
またオオヒシクイはハイイロガンよりも一回り大きい。

亜種について

亜種ハイイロガンrubrirostrisと基亜種キバシハイイロガンanserの2亜種がある5)
国内で記録のある個体は東側の亜種ハイイロガンとされているが6)、交雑帯もあると考えられ見分けは難しい7)

特徴としては、亜種キバシハイイロガンのほうが全体に褐色みが強く、体サイズは小さく、嘴はオレンジ色みが強いとされる7)

亜種名繁殖分布越冬分布
キバシハイイロガンA. a. anserヨーロッパ中部、北部ヨーロッパ南部、アフリカ北部
ハイイロガンA. a. rubrirostrisヨーロッパ中東部~中国小アジア、南アジア
分布はIOC5)より引用。
スペインDelta del Llobregat 2019/3/19

キバシハイイロガンと考えられる個体(海外)。
確かに嘴の黄色みが強いように感じられる。

ガチョウ

大分県金鱗湖 2019/12/21

ガチョウと呼ばれる家禽のうち、シナガチョウはサカツラガン由来であるが、ツールズ種(褐色)やエムデン種(白色)はハイイロガンが家禽化されたものである。
野生のハイイロガンよりもぼってりとした体型をしている。
白色のシナガチョウはエムデン種と似るが、シナガチョウにはこぶがあるため区別可能。

ギャラリー

新潟県佐渡島 2018/1/4

上記と同一個体。
ギシギシの仲間を食べている。

新潟県佐渡島 2018/1/4

同一個体。
休んでいる様子。

文献

1)吉田敬太郎 2011. 長崎県におけるハイイロガン12羽の観察記録. Strix 27:125–128.
2)真木広造・大西敏一・五百澤日丸 2014. 『決定版 日本の野鳥650』平凡社.
3)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
4)Jeff Baker 2016. Identification of European Non-Passerines. Second Edition. British Trust for Ornithology.
5)Gill F, D Donsker & P Rasmussen  (Eds). 2022. IOC World Bird List (v12.1). doi :  10.14344/IOC.ML.12.1.
6)日本鳥学会 2012. 『日本鳥類目録 改訂第7版』 掲載鳥類リスト.
7)Lars Svensson, Killian Mullarney, Dan Zetterström 2009. Collins Bird Guide 2nd Edition. HarperCollins Publishers.

編集履歴

2022/3/3 公開
2024/3/3 分布図を差し替え