野鳥 > カモ目 > カモ科 > Sibirionetta属
分布1,3,5,6):冬鳥として東北~九州に渡来する。北海道では主に旅鳥5,6)。県によって、また年によって渡来数に大きな差がある。海外では東シベリアからカムチャツカで繁殖し、中国東部・朝鮮半島で越冬する3)。韓国の越冬数が非常に多い7)。
オス生殖羽頭部の巴模様が特徴的なカモの仲間。近年国内で越冬個体数が急増しており、全国で16万羽を超える数が記録されている。しかし大群が見られる場所は局所的で、どこでも普通にいるというカモではない。
トモエガモの概要
希少度 | : | ★★(普通) |
全長1) | : | 39-43㎝ |
生息環境3) | : | 湖沼や河川などの淡水環境 |
学名2) | : | formosa…ラテン語”formosus”(美しい)から |
英名5) | : | Baikal Teal「バイカル湖のカモ」 |
トモエガモの形態
※この項の記述は少ない観察経験に基づいており、誤りや不正確な表現を含む可能性があります。
その点ご了承の上ご覧ください。
オス成鳥生殖羽
オス生殖羽は頭部の色彩や長く伸びる肩羽など、非常に特徴的。
本種は脇羽上部に旧羽を遅くまで残すため、この部分を見ることで成鳥と幼鳥の識別ができる4)。
本種は通常警戒心が強めで至近距離の観察が難しいが、この個体は例外的に人に餌付いており足元まで寄ってきた。
メス
メスは一見ほかのカモと似るが、嘴基部の白斑が分かりやすい特徴。
コガモより若干大きい程度で、水面採餌ガモとしては体サイズが小さいのもポイントになる。
オスと同様、早い時期には脇羽を見ることで成鳥と幼鳥の区別が可能であるが、脇の換羽が完了した個体は年齢の識別が困難4)。
メス成鳥も冬の間に換羽を行う。
生殖羽では全体に橙褐色みが強くなる4)。
三列風切は非生殖羽と生殖羽の違いが分かりやすく、生殖羽は明らかに黒っぽい4)。
年齢の識別
幼羽は①脇羽が三角形状に尖り、②胸~腹にかけて小斑が整然と並ぶ4)。
幼鳥は最初の冬のうちに第1回生殖羽に換羽する。
換羽が完了すると成鳥と幼鳥の区別はつかなくなる4)。
幼鳥においても脇羽に遅くまで旧羽を残すことが多いため、残っていればその形状で成鳥と識別可能。
雌雄の識別
成鳥幼鳥を問わず、大雨覆の橙褐色帯の太さで雌雄を識別することができる4)。
すなわち、橙褐色帯が太く明瞭であればオス、細く不明瞭であればメスである。
他種との識別
オス生殖羽について、特に似た種はいない。
ただしカモの仲間は稀に種間雑種を作り、頭部の色彩パターンがトモエガモに似る場合があるため注意。
メスや幼鳥は慣れるまで見分けにくいが、嘴基部の白斑が分かりやすい特徴。
サイズや体色が似るコガモと間違うことがあるかもしれないが、コガモのように個体によって嘴に黄色みが入ることはない。
顔つきや体色も異なるため、慣れれば種の識別は容易である。
分類
亜種はない(単型種)。
本種はマガモ属Anasに分類されてきたが、最近の分類ではAnas属を細分化する説があり(例えば8))、本サイトではこれに従っている。
その場合、Sibirionettaはトモエガモ1種のみからなる属となる。
生態
大群での行動と食性
本種は一時期世界的にかなり減少したものの、近年になって数万単位の群れが各地で観察されるようになった。
これらの群れは日中は休息地である水面上で過ごし、日の出前と日没後の1日2回一斉に移動して採餌に向かい、短時間で採餌を完了させ休息地に戻ってくる10,11)。
近年の研究で、宍道湖においてはこれらの群れが丘陵地に降り立ってカシ類の堅果(どんぐり)を群れで一斉に食べていたことが明らかになった10)。
栄養価の高い食事を短時間で済ませ、できるだけ長い時間を安全な水面上で過ごそうとしている可能性が指摘されている11)。
なお本種の主要な越冬地である韓国の過去の研究では、休息地を離れたトモエガモは水田に向かい、200-1000羽の単位で行動し、1ヶ所の圃場に20分ととどまらずにすばやく移動しながら専らイネの種子(米)を摂食していたという9)。
個体数の急増
トモエガモは元々個体数の多いカモだったが、1970年ごろから世界的に激減した6,11)。
その後韓国の越冬個体数は回復したが、2004年時点での日本国内の調査では2,129羽が記録されたに過ぎなかった6,11)。
しかしその後、2010年代後半より急激に国内の越冬個体数が増加し、数万羽の群れが観察されるようになった11)。
2022-23年に行われた全国一斉調査では12月にシーズン最多の167,757羽を数え、過去にない記録となった6)。
特に13万羽を超える数が諫早湾では12月、印旛沼では1月にカウントされているが、これらの群れが同一かどうかは不明6)。
文献
1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)氏原巨雄・氏原道昭 2015. 『決定版 日本のカモ識別図鑑』誠文堂新光社.
5)環境省自然環境局生物多様性センター 2023. 第 53 回ガンカモ類の生息調査報告書.
6)加賀市鴨池観察館・バードリサーチ. トモエガモ全国調査2022. https://kamoike.kagashi-ss.com/tomoe_count2022.html 2024/3/3閲覧.
7)Yu, J. P., Han, S. W., Paik, I. H., Jin, S. D., & Paek, W. K. (2014). Status of wintering populations of the baikal teal (Anas formosa) in Geumgang River, Korea. Journal of Asia-Pacific Biodiversity, 7(2), e213-e217.
8)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2023. IOC World Bird List (v13.2). doi : 10.14344/IOC.ML.13.2.
9)Allport, G. A., Poole, C. M., Park, E. M., Jo, S. R., & Eldridge, M. I. (1991). The feeding ecology, requirements and distribution of Baikal Teal Anas formosa in the Republic of Korea. Wildfowl, 42(42), 98-107.
10)森茂晃, 星野由美子, 豊田暁, & 田尻浩伸. (2023). 宍道湖に大量飛来したトモエガモ Anas formosa の飛行行動と採食地. 日本鳥学会誌, 72(2), 223-233.
11)バードリサーチ トモエガモ国際シンポジウム https://www.bird-research.jp/1_event/gankamo_shukai/tomoegamo2024_03.html 2024/3/2視聴・閲覧.
編集履歴
2024/3/4 公開