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落葉性のカンアオイの仲間で、ウスバサイシン節を代表する種。生薬名「細辛」として漢方に用いられる。東北など本州の北寄りに分布するものはトウゴクサイシンとして近年別種とされた。ヒメギフチョウの食草としても有名。
ウスバサイシンの概要

花期1) | : | 4-5月 |
希少度 | : | ★★★(やや稀) |
生活形 | : | 落葉性の多年草 |
生育環境1) | : | 山地の林下の湿ったところ |
学名4) | : | sieboldii:シーボルトへの献名 |
利用1) | : | 生薬名「細辛」として漢方で鎮痛、鎮咳、去痰。 |
ウスバサイシンの形態
葉
花
識別
葉が落葉性であることで、他の大部分のカンアオイの仲間と識別できる。
他に国内の落葉性のカンアオイ属はフタバアオイと、本種と同じウスバサイシン節の残り6種のみ。
フタバアオイとウスバサイシンの識別
フタバアオイの花は3つある萼片が完全には合着せず、不完全な筒型となる。
(=互いに接合はしているが、境界がはっきり確認できる。)
また、フタバアオイの花は淡紅色で、ふつう萼片が大きく反り返って萼筒に密着するため一見して区別できる。
また、葉はフタバアオイのほうが小型で丸みが強く、表面の光沢も目立つ。
ウスバサイシン節の他種との識別
ウスバサイシン節の他6種はいずれもウスバサイシンと葉がよく似ており、花の確認が必要である。
なお、本節の分類および各種の分布についてはYamaji et al. (2007)5)に詳しい。
和名 | 学名 | 国内分布 |
---|---|---|
オクエゾサイシン | A. heterotropoides | 北海道、東北 |
トウゴクサイシン | A. tohokuense | 東北、中部地方北部、関東東部、佐渡島 |
ミクニサイシン | A. mikuniense | 群馬・栃木・長野・新潟県境付近 |
ウスバサイシン | A. sieboldii | 中部、関東南部~中国、佐渡島、対馬 |
イズモサイシン | A. maruyamae | 島根県 |
クロフネサイシン | A. dimidiatum | 奈良、広島、四国、九州 |
アソサイシン | A. misandrum | 九州(阿蘇山地) |
和名 | 萼筒内側 | 萼口 | 萼片 |
---|---|---|---|
オクエゾサイシン | 淡色~部分的に暗紫色 | 狭い | 反り返る |
トウゴクサイシン | 部分的に暗紫色 | 広い | 平開する |
ミクニサイシン | 淡色 | 狭い | 平開する |
ウスバサイシン | 全体暗紫色 | 広い | 平開する |
イズモサイシン | 全体暗紫色 | 狭い | 平開する |
クロフネサイシン | 全体暗紫色 | 広い | 平開する |
アソサイシン | 部分的に暗紫色 | 広い | 反り返る |
本種(ウスバサイシン)と分布が重なるのはミクニサイシン、クロフネサイシン、トウゴクサイシン、イズモサイシンの4種である。
クロフネサイシンは最もよく似ているが、雄しべが6個、花柱が3個とウスバサイシンの半分しかない。ただしこの個数には変異があり、ウスバサイシンと同数のものも見られる。詳細はクロフネサイシンの変異の項を参照。
トウゴクサイシンは従来ウスバサイシンと同一とされていたものでよく似るが、萼筒内壁側面全体が暗紫色にはならない(ウスバサイシンは全体暗紫色)。
ミクニサイシンは萼筒内側が淡色、萼口が狭いことでウスバサイシンと区別できる。
イズモサイシンも萼筒上部がくびれて萼口が狭くなることからウスバサイシンと区別可能。
ウスバサイシンとヒメギフチョウ、ギフチョウ
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編)2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)Okuyama Y., Goto N., Nagano A. J., Yasugi M., Kokubugata G., Kudoh H., Qi Z., Ito T., Kakishima S., Sugawara T. 2020. Radiation history of Asian Asarum (sect. Heterotropa, Aristolochiaceae) resolved using a phylogenomic approach based on double-digested RAD-seq data. Annals of Botany 126(2): 245-260.
3)GBIF Secretariat: GBIF Backbone Taxonomy. https://doi.org/10.15468/39omei Accessed via https://www.gbif.org/species/7313629. 2021年8月10日閲覧.
4)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
5)Yamaji H., Nakamura T., Yokoyama J., Kondo K. 2007. A taxonomic study of Asarum sect. Asiasarum (Aristolochiaceae) in Japan. Journal of Japanese Botany 82(2):79-105.
6)福井県 2004. 『福井県レッドデータブック(植物編)』http://www.erc.pref.fukui.jp/gbank/RDBplant/index.htm 2021年8月12日閲覧.
7)岡山県 2020. 『岡山県版レッドデータブック2020』 https://www.pref.okayama.jp/page/656841.html 2021年8月12日閲覧.
8)静岡県 2020. 『静岡県版 植物レッドリスト 2020』 http://www.pref.shizuoka.jp/kankyou/ka-070/wild/red_replace.html 2021年8月12日閲覧.
9)奈良県 2016. 『レッドデータブック2016改訂版 選定種目録(奈良県レッドリスト)』 http://www.pref.nara.jp/dd.aspx?menuid=46865 2021年8月12日閲覧.
編集履歴
2021/8/11 公開
2021/8/12 分布図を都道府県別に変更
2025/1/26 識別の項にウスバサイシン節の比較表を追加