植物 > 被子植物 > オモダカ目 > サトイモ科 > テンナンショウ属
分布1,2):四国、九州の広い範囲。日本固有種。
四国と九州に分布するとされる「真の」マムシグサ。仏炎苞の色は変化に富むが、花序が葉よりも先に開くことが非常に重要な特徴である。テンナンショウ属の他の種も総称的に「マムシグサ」と呼ばれることが多いため大変ややこしい状況になっている。
マムシグサの概要
花期2) | : | 3-4月ごろ |
希少度 | : | ★★(普通) |
生活形 | : | 多年草 |
生育環境1) | : | 山地~山地の林下、林縁 |
学名3) | : | japonicum「日本の」 |
マムシグサの形態
花
仏炎苞は淡緑褐色~紫褐色、時に緑色2)。
葉身より明らかに早く展開する2)。
仏炎苞の色は四国では大部分が黄緑色だが、九州では変化が大きい。
付属体は棒状~太棒状で直立する。
紫褐色の仏炎苞。
口部はやや開出する。
ヒトヨシテンナンショウとも分布が重なるが、本種は仏炎苞に白筋が目立つ。
ただし交雑もある。
仏炎苞の色の個体差。
葉・全草
花序が葉身よりも明らかに早く展開するのが顕著な特徴。
花序柄は葉柄部とほぼ同長または長い。
偽茎部は葉柄部よりはるかに長い。
偽茎部の斑は赤紫褐色のことが多い2)。
葉は通常2個、小葉間には葉軸が発達する。
小葉は9-17個、全縁のことが多いが稀に細鋸歯がある2)。
花序の展開は葉よりも早い(早咲き)。
別個体。
果実
果実は9月後半-11月ごろに熟す2)。
識別
本種の種名「マムシグサ」は様々な使われ方をするため注意。
過去の分類の変遷の経緯もあり、総称的に使われることも多いため、様々な種が特に区別されず「マムシグサ」と呼ばれているのを多く目にする。
本ページでいうマムシグサは邑田ほか(2018)2)における最狭義マムシグサであり、四国・九州に分布するものである。
本種の最も重要な特徴は、葉よりも花序が先に展開する(早咲き)という点である。
ヒトヨシテンナンショウは九州の熊本県周辺に分布し、仏炎苞が赤紫褐色、筒部外面はしばしば白粉を帯び、白条が目立たない。マムシグサと同じく早咲きの特徴を有しており、交雑個体もしばしば見られるため注意が必要2)。
カントウマムシグサは四国や九州にも分布しており、花序は葉と同時またはやや遅れて開く。本種(マムシグサ)よりもより明るい林床を好み、花期は2週間ほど遅い1,2)。
コウライテンナンショウは四国にはないが九州には分布すると考えられ、花序は葉より遅く展開し緑色。舷部内面に隆起する細脈がある。
ヒガンマムシグサは四国で分布が重複し、本種と同様に早咲きである。染色体数や胚珠数が異なるものの、よく似て見える場合がある。仏炎苞の口部はより広く開出し、仏炎苞の色は通常紫褐色~黄褐色。葉軸は本種(マムシグサ)ほど発達しない。
九州のカントウマムシグサやコウライテンナンショウに関しては研究が進んでいないため、実態がよく分かっていないというのが実情のようである。
マムシグサの生態
性転換
雌雄偽異株で、株の成長に伴い雄株から雌株に性転換する2)。
分類
テンナンショウ属マムシグサ節のうち、現在マムシグサ群(広義のマムシグサ)と呼ばれている14前後の種がかつてマムシグサA. serratum(この学名は現在カントウマムシグサにあてられている)として1種にまとめられた経緯がある4)。
これらはその後再度細分化されたが、現在でも一般人の間でテンナンショウ属に対して総称的に「マムシグサ」と呼称する例が多く見受けられる。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)邑田仁・大野順一・小林禧樹・東馬哲雄 2018. 『日本産テンナンショウ属図鑑』北隆館.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)邑田仁. (1995). マムシグサ群の多様性. 植物分類, 地理, 46(2), 185-208.
編集履歴
2025/1/10 公開