クロフネサイシン Asarum dimidiatum

植物 > 被子植物 > コショウ目 > ウマノスズクサ科 > カンアオイ属

愛媛県東温市 2019/4/30
※分布図は目安です。

分布1):奈良県、広島県、四国、九州。日本固有種。
分布図は1,4)より作成。

ウスバサイシンとよく似た落葉性のカンアオイの仲間。雄しべや花柱の数がウスバサイシンから半減しているが、九州中部ではウスバサイシンと同数のものや中間のものも見られる。

クロフネサイシンの概要

花期1)4月下旬-5月
希少度★★★(やや稀)
生活形落葉性の多年草
生育環境1)落葉広葉樹林、針葉樹林および混交林の林床や林縁
学名2)dimidiatus「ふたつの異なるまたは等しくない部分に分かれた」

クロフネサイシンの形態

愛媛県東温市 2019/4/30

葉は落葉性で長さ2-10㎝1)。ウスバサイシンよりやや小型の傾向。
脈上のみ短毛が散生する。

愛媛県東温市 2019/4/30

ウスバサイシンとは葉では区別できない。
基部は深い心形となり、葉先は急に尖る。

愛媛県東温市 2019/4/30

花は葉の基部につき、筒状となる。内壁側面は全体が暗紫色1)
雄しべ、花柱の数を除き、ウスバサイシンと極めてよく似る。

愛媛県東温市 2019/4/30

雄しべはふつう6個、花柱はふつう3個でそれぞれウスバサイシンの半数。
しかし数には変異があり、ウスバサイシンと同じ数のものもある(下記参照)。

愛媛県東温市 2019/4/30

萼口は広く開き、萼片の先は平開する。

雄しべ・花柱の数の変異(ウスバサイシンとの連続)

通常、クロフネサイシンは雄しべが6個、花柱が3個で、近縁のウスバサイシンの半数である。
しかし、クロフネサイシンの分布南端付近にあたる九州中部では雄しべ・花柱の数がウスバサイシンと同じ、あるいは中間的な個体がかなり見られる(中村ら 1982)3)

このような個体はウスバサイシンと一見して区別できないが、これらの地域でウスバサイシンと分布が接していないことや、以下の点などからクロフネサイシンと判断されるという。
・葉がウスバサイシンよりやや小さく、葉先がウスバサイシンよりも鋭尖頭である。
・萼筒内上部の毛は3(4-7)細胞毛である(ウスバサイシンは単(2-3)細胞毛)。
・栽培すると雄しべや花柱の数が減少し、クロフネサイシンの典型に近くなる。

この変異は地理的に連続しており、ウスバサイシンからクロフネサイシンへの分化が様々な段階にあることを示唆しているものと考えられる。

典型的なクロフネサイシン 雄しべ6、花柱3
典型的なウスバサイシン 雄しべ12、花柱6

識別

葉が落葉性であることで、他の大部分のカンアオイの仲間と識別できる。
他に国内の落葉性のカンアオイ属はフタバアオイと、本種と同じウスバサイシン節の残り6種のみ。

フタバアオイとの識別

フタバアオイの花は3つある萼片が完全には合着せず、不完全な筒型となる。
(=互いに接合はしているが、境界がはっきり確認できる。)
また、フタバアオイの花は淡紅色で、ふつう萼片が大きく反り返って萼筒に密着するため一見して区別できる。

フタバアオイ
クロフネサイシン

また、葉はフタバアオイのほうが小型で丸みが強く、表面の光沢も目立つ。

フタバアオイ
クロフネサイシン

ウスバサイシン節の他種との識別

ウスバサイシン節の7種(一覧はこちら)はいずれも互いに葉がよく似ており、花の確認が必要である。
本種と分布が重なるのはウスバサイシンとアソサイシンの2種。
なお、本節の分類および各種の分布についてはYamaji et al. (2007)1)に詳しい。

ウスバサイシンとの識別については上記を参照。なお、ウスバサイシンは中部地方、関東地方南部から中国地方、佐渡島、対馬に分布し、基本的には分布から見当がつく(クロフネサイシンは奈良県、広島県、四国、九州)。
オクエゾサイシンは北海道~東北に分布する。萼筒の内壁側面が淡色で、萼筒の入口(萼口)が狭く、萼片の先が反り返る(クロフネサイシンは側面が暗紫色、萼口が広く、萼片は平開する)。
ミクニサイシンは群馬・栃木・長野・新潟県境付近の狭い範囲に分布し、オクエゾサイシンに似て萼筒内側は淡色、萼口が狭い。オクエゾサイシンとは萼片が平開することが違い。
アソサイシンは九州の阿蘇山地に分布し、萼片の先が強く反り返る。
トウゴクサイシンは東北、中部地方北部、関東東部、佐渡島に分布する。萼筒内壁側面全体が暗紫色にはならない(クロフネサイシンは全体暗紫色)。
イズモサイシンは島根県に分布し、萼筒上部がくびれて萼口が狭くなる。

文献

1)Yamaji H., Nakamura T., Yokoyama J., Kondo K. 2007. A taxonomic study of Asarum sect. Asiasarum (Aristolochiaceae) in Japan. Journal of Japanese Botany 82(2):79-105.
2)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
3)中村輝子・遠藤次郎・浜田善利 1982. クロフネサイシンの変異. 植物研究雑誌 57(12):366-375.
4)中西弘樹 2015. 『長崎県植物誌』長崎新聞社.

編集履歴

2021/8/12 公開