植物 > 被子植物 > コショウ目 > ウマノスズクサ科 > カンアオイ属
分布:中部地方、関東地方南部から中国地方、佐渡島、対馬1,5)。国外では中国、ロシアの一部や朝鮮半島3)。
分布図は5,6,7,8,9)より作成。
落葉性のカンアオイの仲間で、ウスバサイシン節を代表する種。生薬名「細辛」として漢方に用いられる。東北など本州の北寄りに分布するものはトウゴクサイシンとして近年別種とされた。ヒメギフチョウの食草としても有名。
ウスバサイシンの概要
花期1) | : | 4-5月 |
希少度 | : | ★★★(やや稀) |
生活形 | : | 落葉性の多年草 |
生育環境1) | : | 山地の林下の湿ったところ |
学名4) | : | sieboldii:シーボルトへの献名 |
利用1) | : | 生薬名「細辛」として漢方で鎮痛、鎮咳、去痰。 |
ウスバサイシンの形態
葉
葉は落葉性で長さ3.5-13㎝1)。
基部は深い心形となり、葉先は急に尖る。
表面にはふつうフタバアオイほどの光沢はない。
花
花は葉の基部につき、筒状となる。
内壁側面は全体が暗紫色。
雄しべは12個、花柱は6個。
萼口は広く開き、萼片は平開する。
茎の先端に葉が2枚付き、その付け根に花が1個つく。
開花初期の個体。
識別
葉が落葉性であることで、他の大部分のカンアオイの仲間と識別できる。
他に国内の落葉性のカンアオイ属はフタバアオイと、本種と同じウスバサイシン節の残り6種のみ。
フタバアオイとウスバサイシンの識別
フタバアオイの花は3つある萼片が完全には合着せず、不完全な筒型となる。
(=互いに接合はしているが、境界がはっきり確認できる。)
また、フタバアオイの花は淡紅色で、ふつう萼片が大きく反り返って萼筒に密着するため一見して区別できる。
また、葉はフタバアオイのほうが小型で丸みが強く、表面の光沢も目立つ。
ウスバサイシン節の他種との識別
ウスバサイシン節の他6種(一覧はこちら)はいずれもウスバサイシンと葉がよく似ており、花の確認が必要である。
本種と分布が重なるのはミクニサイシン、クロフネサイシン、トウゴクサイシン、イズモサイシンの4種。
なお、本節の分類および各種の分布についてはYamaji et al. (2007)5)に詳しい。
オクエゾサイシンは北海道~東北に分布し、本種と分布が重ならない。萼筒の内壁側面が淡色で、萼筒の入口(萼口)が狭く、萼片の先が反り返る(ウスバサイシンは側面が暗紫色、萼口が広く、萼片は平開する)。
ミクニサイシンは群馬・栃木・長野・新潟県境付近の狭い範囲に分布し、オクエゾサイシンに似て萼筒内側は淡色、萼口が狭い。オクエゾサイシンとは萼片が平開することが違い。
クロフネサイシンは奈良県、広島県、四国、九州に分布する。形態的にはウスバサイシンとよく似るが、雄しべが6個、花柱が3個とウスバサイシンの半分しかないことが特徴。ただしこの個数には変異があり、ウスバサイシンと同数のものも見られる。詳細はクロフネサイシンの変異の項を参照。
アソサイシンは九州の阿蘇山地に分布し、萼片の先が強く反り返る。
トウゴクサイシンは従来ウスバサイシンと同一とされていたもので、東北、中部地方北部、関東東部、佐渡島に分布する。ウスバサイシンとよく似るが、萼筒内壁側面全体が暗紫色にはならない(ウスバサイシンは全体暗紫色)。
イズモサイシンは島根県に分布し、萼筒上部がくびれて萼口が狭くなる。
以上のことより、以下が確認できれば産地によらずウスバサイシン(またはクロフネサイシン)と判断できる。
・落葉性のカンアオイ属である。
・萼片は完全に合着して筒状となる。
・萼片先端は反り返らず平開する。
・萼口は狭くならず、萼筒の半分以上の直径を持つ。
・萼筒内壁側面は全体が暗紫色となる。
ウスバサイシンとヒメギフチョウ、ギフチョウ
ウスバサイシンはアゲハチョウの仲間のヒメギフチョウの食草として有名である。
ヒメギフチョウはギフチョウよりも北寄りに分布し、オクエゾサイシン、トウゴクサイシン、ウスバサイシンを食べて育つ。
ウスバサイシンの葉裏に産み付けられたギフチョウの卵。
ギフチョウはより南方に分布し、常緑性のカンアオイ類を主に食草とするが、ウスバサイシンの仲間で発生する地域もある。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編)2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)Okuyama Y., Goto N., Nagano A. J., Yasugi M., Kokubugata G., Kudoh H., Qi Z., Ito T., Kakishima S., Sugawara T. 2020. Radiation history of Asian Asarum (sect. Heterotropa, Aristolochiaceae) resolved using a phylogenomic approach based on double-digested RAD-seq data. Annals of Botany 126(2): 245-260.
3)GBIF Secretariat: GBIF Backbone Taxonomy. https://doi.org/10.15468/39omei Accessed via https://www.gbif.org/species/7313629. 2021年8月10日閲覧.
4)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
5)Yamaji H., Nakamura T., Yokoyama J., Kondo K. 2007. A taxonomic study of Asarum sect. Asiasarum (Aristolochiaceae) in Japan. Journal of Japanese Botany 82(2):79-105.
6)福井県 2004. 『福井県レッドデータブック(植物編)』http://www.erc.pref.fukui.jp/gbank/RDBplant/index.htm 2021年8月12日閲覧.
7)岡山県 2020. 『岡山県版レッドデータブック2020』 https://www.pref.okayama.jp/page/656841.html 2021年8月12日閲覧.
8)静岡県 2020. 『静岡県版 植物レッドリスト 2020』 http://www.pref.shizuoka.jp/kankyou/ka-070/wild/red_replace.html 2021年8月12日閲覧.
9)奈良県 2016. 『レッドデータブック2016改訂版 選定種目録(奈良県レッドリスト)』 http://www.pref.nara.jp/dd.aspx?menuid=46865 2021年8月12日閲覧.
編集履歴
2021/8/11 公開
2021/8/12 分布図を都道府県別に変更