タムシバ Magnolia salicifolia

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石川県白山市 2016/4/9
※分布図は目安です。

分布1,4):東北~九州。日本海側に多く、太平洋側では少ない。関東地方ではほとんど見られない。

コブシに似た花を咲かせるモクレンの仲間。分布にやや偏りがあるが、生育地では尾根筋などで多く見られる。花の下にはコブシに見られるような小さな葉はつかない。また、冬芽(葉芽)が無毛で細長い独特な形のため見分けやすい。

タムシバの概要

花期1)4-5月
希少度★★★(やや稀)
生活形落葉低木~高木
大きさ1)樹高10m程度まで
生育環境山地~丘陵3)。乾燥した斜面や尾根4)
学名2)salicifolius「ヤナギ(Salix)のような葉の」

タムシバの形態

兵庫県宝塚市 2014/9/12

葉は長さ6-12㎝3)、全縁で互生する。
やや細長い葉が多く、先は尖る。

大阪府高槻市 2014/7/21

葉裏はやや白みを帯びる。

大阪府千早赤阪村 2019/6/16

幼木の葉。

大阪府千早赤阪村 2019/6/16

同一個体の葉裏。
白みを帯びる。

枝と冬芽

大阪府高槻市 2014/7/21

葉柄の付け根には枝を一周する托葉痕がある(モクレン属共通)。
枝葉のもととなる冬芽(葉芽)は先の丸い独特な形で無毛。
コブシとは花よりも、葉や葉芽の形で見分ける方が簡単。

兵庫県宝塚市 2015/3/31

花は葉が展開するより先に開き、白く目立つ。
花弁は6枚あり、その外側に同じ色の小さな萼片が3枚つく。

兵庫県宝塚市 2015/3/31

コブシでは花の下に小さな葉が1枚付くが、タムシバにはない。
写真では花の基部に花芽の芽鱗が残っている。

樹皮

大阪府高槻市 2014/7/21

樹皮は灰色~灰褐色で平滑。縦に皮目が並ぶ5)

識別

モクレン属の他種との識別(自生種)

国内には本種を含めて8種のモクレン属が記録されている(一覧はこちら)。
特に葉のない状態でのコブシとの識別が問題となる。
オガタマノキタイワンオガタマノキは常緑樹。
オオヤマレンゲは花が葉の展開後に開く(タムシバは葉が出る前に開く)。葉はより幅広い。
ホオノキも花が葉の展開後に開く。葉も花も大型であり間違えることはない。
シデコブシは葉の形がやや似るが、葉先が尖らない。花被片は花弁と萼片の区別がなく、12枚以上とタムシバより多い。タムシバと交雑している地域がある(シデコブシの項参照)。
コブシは葉幅が広く、葉芽が有毛。花はタムシバとよく似るが、花の下にタムシバにはない小さな葉が1枚つく。
コブシモドキは徳島県で1個体のみ発見されている種で、野生絶滅状態。葉身は幅広く、13㎝以上と大きい。花弁の幅が5㎝以上と非常に幅広い。

モクレン属の他種との識別(外国産種)

ハクモクレンシモクレン、両者の雑種であるサラサモクレンなどがよく植栽されているが、タムシバより葉が幅広く葉芽が有毛であること、花が半開きで重量感があることなどから比較的容易に区別可能。

アオモジとの識別

クスノキ科のアオモジは葉の形や質感が似て見える場合がある。
アオモジには托葉痕がないほか、冬芽や樹皮も異なるため冷静に見れば難しくない。

文献

1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
3)林将之 2014.『山渓ハンディ図鑑14 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』山と渓谷社.
4)玉木一郎 2020. 日本の森林樹木の地理的遺伝構造(28)タムシバ(モクレン科モクレン属). 森林遺伝育種 9(3):105-109.
5)茂木透・勝山輝男・太田和夫・崎尾均・高橋秀男・石井英美・城川四郎・中川重年 2000. 『樹に咲く花―離弁花〈1〉 (山渓ハンディ図鑑) 改訂第3版』山と溪谷社.

編集履歴

2021/10/22 公開
2022/1/3 誤植を修正
2024/1/21 樹皮、幼木の葉の写真を追加