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春、葉が展開する前に白い花を多数咲かせるモクレンの仲間。タムシバと似ているが、花の下に小さな葉が1枚付くのが本種の特徴である。低地~山地に自生するほか、庭木や街路樹としても利用される。
コブシの概要

花期 | : | 3-5月 |
希少度 | : | ★★(普通) |
生活形 | : | 落葉高木 |
大きさ1) | : | 樹高15m以上、幹径50㎝以上に達する |
生育環境3) | : | 落葉樹林内や湿った場所。時に庭木や街路樹として植栽。 |
学名 | : | 和名の「コブシ」から |
コブシの形態
葉
枝と冬芽
花
果実
樹皮
識別
花のない時期には、次の特徴を確認することでコブシであると判断できる(ただし自生種に限る)。
- 直立する落葉樹である。
- 葉柄の基部に枝を一周する托葉痕がある。
- 花芽には白い長毛が密生する。
- 葉は先寄りで最大幅となり、葉先は突き出るように尖る。
- 葉裏は白みを帯びない。
花の時期にはモクレン属以外の他種と見間違うことはないと考えられる。
モクレン属内の識別については次項を参照。
モクレン属の他種との識別(自生種)
国内には本種を含めて8種のモクレン属が記録されている(一覧はこちら)。
オガタマノキ、タイワンオガタマノキは常緑樹。
オオヤマレンゲは葉の丸みが強い。花は葉の展開後に開き、花の形態も大きく異なる。分布は局所的。
ホオノキは葉がきわめて大型で葉裏が白い。花は葉の展開後に開き、大型でコブシと迷うことはない。
タムシバは花が本種と似るが、花の下にコブシにあるような小さな葉がない。また、葉はコブシより幅が狭い傾向があり、裏がやや白色を帯びる。枝葉に芳香がある。
シデコブシは1つの花の花被片の数が12枚以上と多い。葉はコブシよりやや幅が狭く小さく、先が尖らずに時に凹むことなどが特徴。自然分布が東海に限られるがよく植栽される。
コブシモドキは徳島県で1個体のみ発見されている種で、野生絶滅状態。葉身は13㎝以上と大きく、花弁の幅が5㎝以上と非常に幅広い。
モクレン属の他種との識別(外国産種)
ハクモクレンは庭や公園によく植栽される。花は花被片が9枚ですべて同じ長さ(コブシは6枚が花弁で長く、3枚が萼片で短い)。花の大きさはコブシより大きく、重量感があり、半開きになる(コブシは全開する)。葉はコブシより大きく、縁がコブシほど波打たず平面的で、葉先はより顕著に突き出る3)。
シモクレン(モクレン)も庭などによく植えられ、花は紅紫色で半開き。葉は中央付近で幅が最大となる傾向がある。樹形はふつう株立ち状。花芽は細く、表面の毛は伏毛3)。
サラサモクレンはハクモクレンとシモクレンの雑種で、栽培品種がしばしば植えられている。花は外側が紫色、内側が白色の傾向。樹形や葉形はハクモクレンに似るものが多い3)。
カラタネオガタマ、タイサンボク、ミヤマガンショウは常緑樹。
ヒメタイサンボクは半常緑樹で葉幅は中央で最大、葉裏は白く、花は葉の展開後に開く。
キタコブシとシバコブシ
コブシのうち、北海道、および本州中北部日本海側に分布するものはキタコブシvar. borealisとして区別する説がある。
キタコブシはコブシより葉が大きくやや薄く、花が大きい点が異なるとされる。
しかし、これらの形質の違いと遺伝構造とは必ずしも対応していないことが確認されており、遺伝的には本変種の存在は支持されないとされている2)。
また、タムシバとの間に種間雑種が形成される場合があり、シバコブシM. x kewensisと呼ばれる1)。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)Tamaki I., Kawashima N., Setsuko S., Lee J., Itaya A., Yukitoshi K. et al. 2019. Population genetic structure and demography of Magnolia kobus: variety borealis is not supported genetically. Journal of Plant Research 132:741-758.
3)林将之 2014.『山渓ハンディ図鑑14 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』山と渓谷社.
編集履歴
2021/9/8 公開