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分布1,4):愛知県、岐阜県、三重県。日本固有種。コブシとは分布が重ならない。
東海地方の3県のみに分布する希少なモクレンの仲間。暖温帯の湿地に生え、春に葉が出るより先に白い花を咲かせる。一部の地域でタムシバと交雑していることが知られている。
シデコブシの概要
花期1) | : | 3-4月 |
希少度 | : | ★★★★(稀) |
生活形 | : | 落葉低木~小高木 |
大きさ1) | : | 樹高5m程度まで |
生育環境 | : | 低地~丘陵の湿地周辺3)。標高700mまでの暖温帯4)。庭木などとして普通に植栽される。 |
学名2) | : | stellatus「星形の」 |
シデコブシの形態
葉
葉は長さ5-10㎝、全縁で互生する。
葉柄の付け根には枝を一周する托葉痕がある(モクレン属共通)。
コブシやタムシバなどの近縁種の葉の先が尖るのに対し、本種は丸いかやや凹む。
葉裏と花芽
花芽には白い毛が密生する。
若い葉の葉柄や葉裏脈上にはしばしば毛が生える。
識別
分布が限られ、自生のものを目にする機会が少ない樹木である。
花のない時期には、次の特徴を確認することでシデコブシであると判断できる(ただし自生種に限る)。
- 直立する落葉樹である。
- 葉柄の基部に枝を一周する托葉痕がある(モクレン属共通)。
- 花芽には白い毛が密生する。
- 葉は長楕円形~倒披針形で先が尖らず、時にやや凹む。
- 葉裏は白みを帯びず、若い葉の葉裏脈上にはしばしば毛が生える。
花の時期にはモクレン属以外の他種と見間違うことはないと考えられる。
花の特徴も含めたモクレン属内の識別については次項を参照。
モクレン属の他種との識別(自生種)
国内には本種を含めて8種のモクレン属が記録されている(一覧はこちら)。
いずれも花の時期・葉の時期問わず区別は容易。
オガタマノキ、タイワンオガタマノキは常緑樹。
オオヤマレンゲは花が葉の展開後に開く(シデコブシは葉が出る前に開く)。葉は先が尖り、より幅広く、裏は白みを帯びる。
ホオノキも花が葉の展開後に開く。葉も花も大型であり間違えることはない。
タムシバは葉の形が本種とやや似るが、葉先が尖る。花被片はシデコブシより少なく、花弁6枚に萼片3枚。
コブシは葉幅が広く葉先が尖る。花は花被片がシデコブシより少なく、花弁6枚に萼片3枚。分布は重ならない。
コブシモドキは徳島県で1個体のみ発見されている種で、野生絶滅状態。葉身は幅広く、13㎝以上と大きい。花弁の幅が5㎝以上と非常に幅広い。
モクレン属の他種との識別(外国産種)
よく植栽される落葉性のモクレン属として、ハクモクレンやシモクレン、両者の雑種であるサラサモクレンが挙げられる。
花が咲いている場合は、シデコブシの花被片が12枚以上と多いことで容易に区別可能(ハクモクレン、シモクレンは9枚)。
葉のみの場合は、シデコブシの葉は先が丸く時にやや凹むことで識別できる(ハクモクレン、シモクレンは葉先が突き出て尖る)。
シデコブシとタムシバの自然雑種形成について
シデコブシの分布北東部の集団においては、しばしばタムシバとの中間的な個体が見つかるという。
このような個体は山中の沢沿いを中心に見られ、遺伝分析の結果から両種のF1、F2やタムシバとの戻し交雑個体であることが確認されている4)。
この交雑はタムシバを母樹、シデコブシを父樹として起こり、逆は起こらないらしい。
すなわち、遺伝子浸透はシデコブシからタムシバへの一方向にのみ生じ、交雑によってシデコブシの遺伝的固有性が損なわれることはないと考えられている5)。
シデコブシの分類
シデコブシは中国浙江省に分布するMagnolia sinostellataと形態がよく似ており、かつて同種と考えられていた。
しかし近年の研究で、葉緑体DNAや染色体構造、形態を利用した解析から独立種とする説が支持されている6)。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
3)林将之 2014.『山渓ハンディ図鑑14 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』山と渓谷社.
4)玉木一郎 2016. シリーズ:日本の森林樹木の地理的遺伝構造(12)シデコブシ(モクレン科モクレン属). 森林遺伝育種 5(2):83-87.
5)谷早央理, 玉木一郎, 鈴木節子, 戸丸信弘 2014. シデコブシとタムシバの正逆種間交配間における種子形成と発芽率の差異. 日本森林学会誌 96(4):200-205.
6)Wang Y., Ejder E., Yang J., Liu R., Ye L., He Z. et al. 2013. Magnolia sinostellata and relatives (Magnoliaceae). Phytotaxa 154(1):47-58.
編集履歴
2021/9/9 公開