マガン Anser albifrons

野鳥 > カモ目 > カモ科 > マガン属

宮城県伊豆沼 2023/1/29
※分布図は目安です。

分布1,3,4,5):局所的に冬鳥として渡来。北海道では旅鳥で、主に東北地方と本州日本海側で越冬する。安定した集団越冬地の西限は島根県。日本で越冬するものはロシア東部で繁殖しているとされる(本文参照)。

日本に最も多く飛来するガンの仲間。特に宮城県で越冬する個体が多く、伊豆沼周辺は本種をはじめとするガン類の観察地として有名である。

マガンの概要

希少度★★(やや普通)
全長1)65-86㎝
生息環境1,4)湖沼、農耕地。
学名2)albus「白い」+frons「額」
英名Greater White-fronted Goose「大きいほうの、額の白いガン」

マガンの形態

成鳥

宮城県伊豆沼 2023/1/29

成鳥は額の白色、腹部の黒い帯状の紋が目立つ。
ただしこれらの発達程度には個体差がある。

宮城県伊豆沼 2023/1/29

成鳥の肩羽や雨覆は先端が幅広い形状をしており、また新鮮なうちは淡色の羽縁が目立つ。
胸~腹の体羽も幅広く、幼羽とは明らかに形状が異なる。

宮城県伊豆沼 2023/1/29

細いアイリングのある成鳥。
このような個体はカリガネと誤認されることが多い。
嘴の形状を注意して比較すれば間違えることはないと考えられる。

宮城県伊豆沼 2023/1/29

体色の濃さが目を引いた成鳥。
嘴の色にもピンクに近いものからオレンジに近いものまで個体差が見られる。

島根県出雲市 2016/12/24

成鳥の翼上面。
灰色部分と黒色部分のコントラストが目立つ。

宮城県伊豆沼 2023/1/29

成鳥。
翼下面は一様に暗色。

福井県坂井市 2017/12/30

腹部の黒色部が非常に広い成鳥。

幼鳥

宮城県登米市 2023/11/4

ほぼ幼羽に覆われた分かりやすい幼鳥。
秋の渡来当初にはこのような分かりやすい幼鳥が多い。
肩羽や雨覆の先が尖り気味なことや、胸~腹にかけての羽が細かいうろこ状に見える点に注目。

宮城県登米市 2023/11/4

分かりやすい幼鳥(別個体)。
額に白色部はなく、各部位の羽の形状も特徴的。

宮城県登米市 2023/12/10

やや換羽の進んだ幼鳥。
胸~腹にかけてはまだ幼羽が目立つ。
幼鳥の羽は大部分が越冬中に成羽に生え変わり、春先にはほとんど成鳥と変わらない個体も見受けられる。

宮城県伊豆沼 2023/1/29

幼鳥。
雨覆や腹に幼羽が目立つ。

宮城県伊豆沼 2023/1/29

幼鳥。
雨覆や胸~腹に幼羽が目立つ。

宮城県伊豆沼 2023/1/29

幼鳥。
雨覆は幼羽。

宮城県伊豆沼 2023/1/29

腹に黒い羽が出始めた幼鳥。

宮城県伊豆沼 2023/1/29

換羽の進んだ幼鳥。
中雨覆は成羽と幼羽のコントラストが分かりやすい。

島根県出雲市 2016/12/24

幼鳥。

島根県出雲市 2016/12/24

前と同一個体の幼鳥の雨覆周辺。
摩耗して退色した先のやや尖る幼羽と、先の幅広い新羽との差が分かりやすい。

年齢の識別

上述の通り、幼鳥は①額が白くなく、②腹に黒い羽がなく、③肩羽や雨覆は幼羽で先がやや尖り、④胸~腹も幼羽でうろこ状に見える。
ただし、これらの特徴はすべて春にかけて換羽が進むにつれ分かりづらくなり、注意深い観察が必要となる。

ヨーロッパの文献によれば、マガンの幼鳥は越冬中に徐々に成羽に生え変わるものの、特に雨覆については幼羽が遅くまで残る傾向がある6)
また、春までに多くの幼鳥は額の白色部や体前面の黒い羽が出現するが、腹部の黒い帯はふつう出現しないという6)
なお、ごく少数の個体は2回目の冬の時期まで中雨覆に幼羽を残すことがあるらしい6)
日本においてどこまで当てはまるかは不明。

識別

マガンとヒシクイの識別

ヒシクイは①ふつう嘴の先端付近のみ黄色で、②腹部に黒い羽はなく、③額は白くない。
マガン幼鳥とヒシクイ幼鳥は一見似て見えるかもしれないが、嘴の色を見ると識別しやすい。
また、亜種ヒシクイはマガンよりやや大きい程度であるが、亜種オオヒシクイはマガンより顕著に大きく、そのサイズ差は明瞭である。

宮城県伊豆沼 2023/1/29

マガンとカリガネの識別

カリガネはマガンよりも渡来数が圧倒的に少ないガンで、マガンの群れの中に混じって見られる場合が多い。
マガンよりも一回り小さく、額の白色部が広い傾向がある。
最も分かりやすい違いは嘴の形状で、マガンよりもカリガネのほうが短い。
また嘴の色についても、個体差はあるもののカリガネのほうがピンク色味が強いことが多いようである。

宮城県登米市 2023/12/10

中央手前とその右隣の2個体がカリガネ(いずれも成鳥)で、残りはマガン。
体サイズ、アイリング、嘴の色と形、額の白色部の広さに注目。

分類と亜種について

日本に渡来する亜種はAnser albifrons frontalisとされることもあったが、IOC ver.13.2(2023)7)では本亜種を認めておらず、東アジアで越冬するものを基亜種A. a. albifronsに含めている。
日本鳥類目録第7版(2012)8)においても亜種マガンはA. a. albifronsとされている。

Banks(2011)における亜種区分

IOC ver.13.2はBanks(2011)9)に従い、次の5亜種を認めている。

A. a. flavirostris:グリーンランド西部で繁殖し、アイルランドやスコットランドで越冬する。
A. a. albifrons(マガン):ロシア北部で繁殖し、ヨーロッパ西部から東アジアにかけての地域で越冬する。
A. a. elgasi:アラスカ南部で繁殖し、カリフォルニア北部~中部で越冬する。
A. a. gambelli:アラスカやカナダ北西部~北中部で繁殖し、アメリカ南部やメキシコ北部で越冬する。本亜種はfrontalisと呼ばれることもある10)
A. a. sponsa:アラスカ西部で繁殖し、カリフォルニアやメキシコ西部で越冬する。

なお基亜種albifronsの分布域においては、東へ行くほど体サイズが大きい傾向があるという9)
各亜種の大まかな繁殖分布や渡り経路についてはWilson et al. (2022)10)の図を参照。

“オオマガン”について

国内では亜種マガンよりも明らかに大型の個体が稀に観察され、亜種オオマガンgambelliとして話題になることがある。
国内で観察されるこうした個体はアラスカで繁殖している亜種と考えられるが、上記3亜種(elgasi,gambelli,sponsa)のうちいずれに該当するかは現状不明であるため(3亜種とも亜種マガンより大きい9))、日本鳥類目録第8版においてはオオマガンは「検討種」となる見込みである11)

ギャラリー

宮城県蕪栗沼 2023/11/4

マガンのねぐら入り。
マガンは他のガン類と共に集団でねぐらを取る。
特に宮城県の蕪栗沼はガン類のねぐらとして有名で、万単位のガン類が次々とねぐら入りする様は圧巻である。

宮城県内沼 2016/12/27

マガンのねぐら立ち。
早朝一斉に沼を飛び立つ様子は一見の価値がある。

島根県出雲市 2016/12/23

頭を上げて警戒するマガンの群れ。

宮城県古川市 2023/2/4

飛翔するマガン。

文献

1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)環境省自然環境局生物多様性センター 2023. 第53回ガンカモ類の生息調査報告書. https://www.biodic.go.jp/gankamo/gankamo_top.html 2023/12/11閲覧.
5)Wilson, R. E., Sonsthagen, S. A., DaCosta, J. M., Sorenson, M. D., Fox, A. D., Weaver, M., … & Talbot, S. L. (2022). As the Goose Flies: Migration Routes and Timing Influence Patterns of Genetic Diversity in a Circumpolar Migratory Herbivore. Diversity, 14(12), 1067.
6)Jeff Baker 2016. Identification of European Non-Passerines. Second Edition. British Trust for Ornithology.
7)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2023. IOC World Bird List (v13.2). doi : 10.14344/IOC.ML.13.2.
8)日本鳥学会 2012. 『日本鳥類目録 改訂第7版』 掲載鳥類リスト.http://ornithology.jp/katsudo/Publications/Checklist7.html
9)Banks, R. C. (2011). Taxonomy of greater white-fronted geese (Aves: Anatidae). Proceedings of the Biological Society of Washington124(3), 226-233.
10)Wilson, R. E., Sonsthagen, S. A., DaCosta, J. M., Sorenson, M. D., Fox, A. D., Weaver, M., … & Talbot, S. L. (2022). As the Goose Flies: Migration Routes and Timing Influence Patterns of Genetic Diversity in a Circumpolar Migratory Herbivore. Diversity14(12), 1067.
11)日本鳥学会 2023. 日本鳥類目録改訂に向けた第一回パブリックコメント. https://ornithology.jp/iinkai/mokuroku/index.html 2023/12/12閲覧.

編集履歴

2023/12/12 公開
2024/3/3 分布図を差し替え