カリガネ Anser erythropus

野鳥 > カモ目 > カモ科 > マガン属

宮城県登米市 2023/12/10
※分布図は目安です。

分布1,3,4,5,8):数少ない冬鳥として渡来。宮城県ではまとまった数が越冬するほか、全国各地で記録がある。北海道では旅鳥で、サロベツでは毎年群れが観察される5)。スカンジナビアからロシア東北部のツンドラ地帯で繁殖し、ヨーロッパから東アジアにかけての地域で越冬する。

日本に渡来するガン類の中で最も小さな種で、黄色いアイリングと短い嘴が特徴的。近年国内では越冬数が増加しているが、中国では激減していることが報告されている。

カリガネの概要

希少度★★★(やや稀)
全長1)53-66㎝
生息環境湖沼、農耕地1)。牧草地を好む傾向がある7)
学名2)eruthros「赤い」+pous「足の」
英名Lesser White-fronted Goose「小さいほうの、額の白いガン」

カリガネの形態

成鳥

宮城県登米市 2023/12/10

マガン(奥)より一回り小さい。
成鳥は額の白色、腹部の黒い紋が目立つ(幼羽にはいずれもない)。

宮城県登米市 2023/12/10

カリガネ(左)とマガン(右)との比較。
カリガネは黄色いアイリングが目立ち、嘴が短く、額の白色部がより広い。
ただし細いアイリングのあるマガンもいるため注意(下記「識別」の項参照)。

幼鳥

兵庫県稲美町 2018/12/15

ほぼ幼羽に覆われた分かりやすい幼鳥。
単独で見られた個体。
肩羽や雨覆の先が尖り気味なことや、胸~腹にかけての羽が細かいうろこ状に見える点に注目。

兵庫県稲美町 2018/11/17

同一個体。
額に白色部はまだほとんどなく、腹に黒い羽もない。
尾羽も幼羽と考えられる。

兵庫県稲美町 2018/12/15

同一個体の飛翔。

兵庫県稲美町 2018/11/17

同一個体。カルガモと並んだ。
本種の小ささが分かる。

年齢の識別

上述の通り、幼鳥は①額が白くなく、②腹に黒い羽がなく、③肩羽や雨覆は幼羽で先がやや尖り、④胸~腹も幼羽でうろこ状に見える。(いずれもマガンと共通。)
ただし、これらの特徴はすべて春にかけて換羽が進むにつれ分かりづらくなり、注意深い観察が必要となる。

ヨーロッパの文献によれば、カリガネの幼鳥の換羽はほぼマガンと同様で、越冬中に徐々に成羽に生え変わるものの、特に雨覆については幼羽が遅くまで残るとされる6)
また、春までに多くの幼鳥は額の白色部が出現するが、腹部の黒い帯は出現しないという6)
なお、一部の個体は2回目の冬の時期まで中雨覆に幼羽を残すことがあるらしい6)

識別

マガンとカリガネの識別

カリガネはマガンの群れの中に混じって見られる場合が多い。
マガンよりも一回り小さく、額の白色部が広い傾向がある。
最も分かりやすい違いは嘴の形状で、マガンよりもカリガネのほうが短い。
また嘴の色についても、個体差はあるもののカリガネのほうがピンク色味が強いことが多いようである。
なおマガンの中にも細いアイリングのある個体がしばしば見られ、アイリングのみを手掛かりに識別すると間違えやすい。

宮城県登米市 2023/12/10

中央手前とその右隣の2個体がカリガネ(いずれも成鳥)で、残りはマガン。
体サイズ、アイリング、嘴の色と形、額の白色部の広さに注目。

個体数と保全について

カリガネはかつて国内では極めて稀な鳥であり、1970年代まではほとんど見られなかった。
それが近年になって越冬数が急激に増えており、2019-2020年のシーズンには307羽を数えるまでになった4)
しかし世界的には減少が報告されており、中国では1990年代に65,000羽近かったカリガネの越冬カウント数が2019-2020年には4,020羽にまで減少している4)
これは東アジアにおける主要な越冬地であった長江流域の洞庭湖の一部において、ハスの生育やチュウゴクモクズガニの養殖のためにダムが建設され、浅い湿地環境が失われたためと考えられている4,7)
日本における近年の越冬数の増加はこうした本来の越冬地からの分散の結果とも考えられる4,7)

宮城県登米市 2023/12/10

マガンと混じって見られたカリガネの群れ。
近年では国内では比較的観察しやすい鳥となった。
この写真にマガンは4羽しか写っていない。

越冬地での生態

宮城県における研究では、調査時期による違いはあるものの、本種は水田よりも牧草地のような環境を好むことが示されている7)
そうした場所ではイタリアンライグラスやシロツメクサ、アゼナ、スズメノカタビラといった牧草や雑草を中心に食べているようである7)

文献

1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)Ao, P. R., Wang, X., Solovyeva, D., Meng, F. J., Ikeuchi, T., Shimada, T., … & Fox, A. D. (2020). Rapid decline of the geographically restricted and globally threatened Eastern Palearctic Lesser White-fronted Goose Anser erythropus. Wildfowl9, 206-43.
5)Ikawa, M. J., & Ikawa, H. (2009). Lesser White-fronted Goose Anser erythropus at Sarobetsu in northern Hokkaido, Japan: a preliminary report on numbers in autumn. Ornithological Science, 8(2), 131-138.
6)Jeff Baker 2016. Identification of European Non-Passerines. Second Edition. British Trust for Ornithology.
7)Sawa, Y., Hall, C., Tamura, C., & Nakamura, N. (2021). Seasonal changes of roosting and foraging areas for Lesser White-fronted Geese Anser erythropus wintering in Japan. Wildfowl71(71), 108-119.
8)環境省自然環境局生物多様性センター 2023. 第53回ガンカモ類の生息調査報告書.

編集履歴

2023/12/14 公開
2024/3/3 分布図を更新