コハクチョウ Cygnus columbianus

野鳥 > カモ目 > カモ科 > ハクチョウ属

滋賀県長浜市 2016/1/31
※分布図は目安です。

分布1,3,5):冬鳥として本州に飛来。北海道では旅鳥。飛来南限は琵琶湖周辺と島根県。国外ではユーラシア大陸と北米のツンドラ地帯で繁殖し、ヨーロッパ西部・カスピ海周辺・朝鮮半島・中国東部・北米中部で越冬する(別亜種含む)。

冬鳥として本州に渡来するハクチョウの仲間。主に北日本で越冬するオオハクチョウと異なり、東北から中国地方までの範囲に越冬地がある。名前の通りオオハクチョウより小さいほか、嘴の黄色部もオオハクチョウより狭い。

コハクチョウの概要

希少度★★(普通)
全長1)115-150㎝
生息環境1)湖沼、内湾、農耕地、河川。
学名2)columbianus「コロンビアの」亜種アメリカコハクチョウの越冬地から。
英名5)Tundra Swan「ツンドラ地帯のハクチョウ」繁殖地から。

コハクチョウの形態

成鳥

仙台市 2023/12/9

成鳥は全身の羽毛が白い。

仙台市 2023/12/9

嘴の黄色部は黒色部より面積が狭く、オオハクチョウのように三角形状に突出することはない。

仙台市 2023/12/9

成鳥の飛翔。翼下面も含め白色。

仙台市 2023/12/9

着地態勢の成鳥。
脚は黒く、水かきがよく発達する。

幼鳥

仙台市 2023/12/9

幼羽は灰褐色のため、一見して成鳥と異なる。
越冬中に徐々に成鳥羽に近づいていく。

仙台市 2023/12/9

幼鳥の羽ばたき。

年齢の識別

幼羽は全身灰褐色のため、一見して成鳥と区別可能。
越冬地において、幼鳥は徐々に成鳥羽へと換羽するが、雨覆をはじめ多少なりとも幼羽を残すため成鳥と見間違うことは普通ないと考えられる。

第2回冬羽は多くの個体で成鳥と同じで、識別は困難4)
中には頭部や雨覆に幼羽を残す個体もいるという4)

識別

オオハクチョウ、コブハクチョウとの識別

コハクチョウ(本種)は東北~中国地方で越冬し、オオハクチョウより小さい。
オオハクチョウは一回り大きく、主に北日本で越冬し、嘴の色彩パターンが異なる。
コブハクチョウは外来種で一年中みられ、頭部の色彩が大きく異なる。
ナキハクチョウは最も大きく、嘴が全体黒色。極めて稀な迷鳥。

※コハクチョウの幼鳥ははじめ嘴の先端付近までピンク色をしており、のちにその部分が黒色となって淡色部が残る4)。上の識別画像はピンク色部が黒くなった後の個体である。
※コブハクチョウの幼鳥は全身の羽毛が褐色で、嘴の大部分が褐色みのあるピンク色4)。目先が黒い点は一貫している。上の識別画像は2年目以降の若鳥と考えられる。

仙台市 2023/12/9

コハクチョウ(左)とオオハクチョウ(右)。
体サイズの違いは並ぶと分かりやすい。

分類

亜種アメリカコハクチョウについて

亜種アメリカコハクチョウは北米に分布し、嘴の黄色部が極めて小さい1)

またアメリカコハクチョウと亜種コハクチョウの雑種と考えられる中間的な個体が時にみられ、嘴の黄色部の面積は様々。
純粋なものを含め、日本国内でもコハクチョウに混じって稀に観察される。
以下に中間的な個体の写真を掲載する。

島根県出雲市 2016/12/24

アメリカコハクチョウとコハクチョウの雑種と考えられる個体。
純粋はアメリカコハクチョウは嘴の黄色部が極めて小さく、一見して全体黒色に見えるほどである。

島根県出雲市 2016/12/24

同一個体。
他は亜種コハクチョウ。

亜種の分類について

次の2亜種を認める説が一般的である。

  • 基亜種アメリカコハクチョウCygnus columbianus columbianus
  • 亜種コハクチョウC. c. bewickii

これら2亜種は別種とされたこともあり、その場合の英名と学名は以下のようになる5)
(コハクチョウBewick’s Swan:C. bewickii)
(アメリカコハクチョウWhistling Swan:C. columbianus)
しかし現在では同種の亜種とされるのが一般的である5)
なお亜種コハクチョウについては、日本に飛来する極東の個体群がかつてC. c. jankowskyiとして別亜種とされたことがあるが(例えば1,6))、現在ではBewick’s Swanに含められるのが一般的である。

生態

食性

越冬地における主要な餌

渡辺ら(2008)7)は宮城県から滋賀県までの地域で、採餌行動の観察によりコハクチョウの餌について調査している。
その結果、以下の通り越冬地によって主要な餌の種類が異なっていた。

  • マコモの地下茎:茨城県菅生沼、群馬県多々良沼
  • ハスの地下茎:新潟県佐潟
  • 沈水植物(種不明):滋賀県琵琶湖

新潟県福島潟における食性

向井ら(2023)8)では糞のDNAメタバーコーディングと安定同位体比分析により下記の植物をコハクチョウの採餌対象として見出している。

・ハルタデ
・タネツケバナ
・ミズユキノシタ
・イネ
・スズメノテッポウ
・カズノコグサ
・スズメノカタビラ
・ムギクサ
・ライムギ

11月から1月にかけての調査であるが、11月にはイネが、12月から1月にかけてはイネに加えてスズメノテッポウやスズメノカタビラが主要な餌であったとされている。
一方、同時に調査されたオオヒシクイについてはシーズンを通してイネの寄与率が最も高かった。

コハクチョウの摂食とマコモの生育

コハクチョウがマコモの地下茎を食べることで、マコモのその後の生育が旺盛になるという現象(grazing optimization)が知られている。
実際に茨城県菅生沼における研究9)では、実験的にコハクチョウの採餌を妨害した区では2年目以降にマコモの地上部乾物重が有意に減少した。
grazing optimizationに対する仮説としては、
①植食者の排泄により土壌の生産性が高まる
②古い葉が食べられることで新しい葉に光が当たりやすくなる
③被食により植物ホルモンの分布が変わる
の3つが知られているが、マコモにおいて何がこの現象の要因となっているかは不明である。

文献

1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)Jeff Baker 2016. Identification of European Non-Passerines. Second Edition. British Trust for Ornithology.
5)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2023. IOC World Bird List (v13.2). doi : 10.14344/IOC.ML.13.2.
6)日本鳥学会 2012. 『日本鳥類目録 改訂第7版』 掲載鳥類リスト.http://ornithology.jp/katsudo/Publications/Checklist7.html
7)渡辺朝一, 渡辺央, 山本明, & 清水幸男. (2008). 池沼におけるガン・ハクチョウ類の食物としてのマコモの重要性と種による採食方法の違い. 日本鳥学会誌57(2), 97-107.
8)向井喜果, 布野隆之, 石庭寛子, & 関島恒夫. (2023). 新潟県福島潟で越冬する大型水禽類 2 種オオヒシクイ Anser fabalis middendorffii とコハクチョウ Cygnus columbianus の食性. 保全生態学研究28(2), 393-409.
9)渡辺朝一. (2012). 冬期におけるコハクチョウによる地下茎への採食圧が翌夏のマコモ群落地上部の成長に与える影響. 日本鳥学会誌61(2), 283-288.

編集履歴

2024/1/21 公開
2024/1/29 比較画像を追加