数少ない冬鳥として、ヒドリガモに混じって観察されるカモの仲間。本来の分布は北米で、国内ではヒドリガモとの交雑個体も多く見られる。系統的にはヒドリガモよりも南米のワキアカヒドリに近いことが報告されている。
アメリカヒドリの概要
希少度 | : | ★★★★(稀) |
全長1) | : | 45-56㎝ |
生息環境4) | : | 河川、湖沼、池、干潟、海岸など |
学名2) | : | americana…「アメリカの」 |
英名5) | : | American Wigeon「アメリカのヒドリガモ」 |
アメリカヒドリの形態
※この項の記述は少ない観察経験に基づいており、誤りや不正確な表現を含む可能性があります。
その点ご了承の上ご覧ください。
オス成鳥
オス成鳥生殖羽
年齢・雌雄の識別
オス成鳥はシーズンを通して雨覆が純白で、他と異なるため識別は容易。
また生殖羽が現れていれば雌雄の識別も容易。
その他の特徴もヒドリガモと共通した部分が多い。
幼羽の雌雄の識別
秋口にはほぼ完全な幼羽が観察されることもあり、雌雄の識別が問題となる。
オス幼羽の特徴は、
①雨覆の地色の白みが強く羽縁が不明瞭(メス幼羽は褐色で淡褐色の羽縁がある)
②肩羽最後端の羽の地色が白っぽい(メス幼羽は褐色で羽縁が白く目立つ)
③大雨覆は先端が黒く、基部外弁が白くて白色帯となる(メス幼羽は白色帯とならない)
など4,8)。
ただし、いずれも個体差があるため注意。
メスの年齢の識別
春に近づくと生殖羽に換羽が進み、メス成鳥とメス幼鳥の識別が難しくなる。
雨覆は越冬地ではほぼ換羽しないため、識別の大きな手掛かりとなる。
メス成鳥の特徴は、
①雨覆の羽縁が白い(メス幼羽は羽縁が褐色で白色部が少ない)
②大雨覆は先端が黒く、基部外弁が白くて白色帯となる(メス幼羽は白色帯とならない)
③三列雨覆(旧羽)は幅広くて先が丸く、白い羽縁が明瞭(幼羽は地色が褐色で羽縁が不明瞭な傾向)
など4,8)。
ただし個体差があり、条件により確認しづらいため注意。
他種との識別
オス生殖羽の識別は容易だが、ヒドリガモとの交雑により判断の難しい場合がある。
それ以外の羽衣でも特にヒドリガモとの識別が課題となる。
ヒドリガモとの識別
オス生殖羽であれば識別は容易。
ただし交雑により中間的な個体が比較的よく観察されるため注意。
詳細は画像を参照。

また、メス成鳥や幼羽においては両種の識別はより難しくなるが、アメリカヒドリにおいては
①頭が灰色の傾向
②脇羽はほぼ純白
③嘴基部にふつう黒斑がある
ことにより識別可能4)。
また、オス幼鳥やメス成鳥ではヒドリガモよりも雨覆の白化傾向が強く、大雨覆が明らかな白色帯を形成することも識別点となる。
ただしオス生殖羽と同様、交雑による中間個体の存在に注意する必要がある。
ヒドリガモとの交雑個体
アメリカヒドリとヒドリガモの間にはしばしば雑種が生じ、国内においては純粋なアメリカヒドリよりも交雑個体を観察する機会のほうが多いと考えられる。
アメリカヒドリに近い見た目のものから、ヒドリガモに似ているものまで様々な個体が見られる。
分類
亜種はない(単型種)5)。
属の分類について
本種はマガモ属Anasに分類されてきたが、最近の分類ではAnas属が細分化され、本種はヨシガモ属Marecaに含まれるようになった5,12)。
ヨシガモ属Marecaはアメリカヒドリのほかヒドリガモやオカヨシガモ、ヨシガモなど5種からなる属となっている(絶滅種を除く)5)。
ワキアカヒドリとの関係
Mareca属にはもう1種、南米南部にワキアカヒドリMareca sibilatrixが分布している。
ワキアカヒドリは外見ではヒドリガモやアメリカヒドリとは大きく異なっており、これら2種とワキアカヒドリが姉妹群を形成すると考えられてきた(例えば9))。
しかし、ミトコンドリアDNA解析の結果から、これら3種の中ではワキアカヒドリとアメリカヒドリが最も近縁であり、この2種とヒドリガモが姉妹群を形成することが報告されている10)。
アメリカヒドリの生態
食性
アメリカヒドリはヒドリガモと同様、主に植物食である4)。
国内においてはヒドリガモの群れに混じって見られる場合が多く、人間が与えるパンに餌付いている様子(写真)も見られる。
アメリカ合衆国オンタリオ州における秋季の食物を調べた研究では、水生植物の茎や葉が乾物重で92%を占めており、種子が7.8%、動物質(主にトビケラの幼虫)が0.6%であった11)。
同研究では水生植物種としてシャジクモ属Chara、カナダモElodea canadensis、イバラモ属Najasを特に多く食べていることが分かっており、特に後2者は優占種ではなかったため、選択的に摂食しているものと考えられるとしている11)。
文献
1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)氏原巨雄・氏原道昭 2015. 『決定版 日本のカモ識別図鑑』誠文堂新光社.
5)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2023. IOC World Bird List (v13.2). doi : 10.14344/IOC.ML.13.2.
6)バードリサーチ・日本野鳥の会 2023. 『全国鳥類越冬分布調査報告 2016-2022 年』
7)環境省自然環境局生物多様性センター 2023. 第 53 回ガンカモ類の生息調査報告書.
8)Samuel M. Carney 1992. Species, Age and Sex Identification of Ducks Using Wing Plumage. U.S. Department of the Interior / U.S. Fish and Wildlife Service.
9)Livezey, B. C. (1991). A phylogenetic analysis and classification of recent dabbling ducks (Tribe Anatini) based on comparative morphology. The Auk, 108(3), 471-507.
10)Peters, J. L., McCracken, K. G., Zhuravlev, Y. N., Lu, Y., Wilson, R. E., Johnson, K. P., & Omland, K. E. (2005). Phylogenetics of wigeons and allies (Anatidae: Anas): the importance of sampling multiple loci and multiple individuals. Molecular Phylogenetics and Evolution, 35(1), 209-224.
11)Knapton, R. W., & Pauls, K. (1994). Fall food habits of American wigeon at Long Point, Lake Erie, Ontario. Journal of Great Lakes Research, 20(1), 271-276.
12)日本鳥学会 2024. 『日本鳥類目録改訂第8版 掲載鳥類リスト』https://ornithology.jp/checklist.html 2024/11/26ダウンロード.
編集履歴
2024/3/24 公開
2024/11/28 分類の項をアップデート。