分布1,3,4,7,8):冬鳥として全国に飛来し7)、北海道では少数が繁殖する3,4,8)。本州でも繁殖記録がある4,8)。海外ではユーラシア大陸東部の中緯度地域で繁殖し、冬は中国東部や朝鮮半島などで越冬する3,4)。
世界的には東アジア周辺に分布が限られるカモの仲間。オス生殖羽は緑色の頭や鎌状の三列風切が特徴的。水草を好んで食べるため、水草の多い環境で見られることが多い。
ヨシガモの概要
希少度 | : | ★★★(やや稀) |
全長1) | : | 46-54㎝ |
生息環境4) | : | 池、湖沼、河川、海岸など |
学名2) | : | falcata…ラテン語「鎌状の」から(三列風切の形状から) |
英名5) | : | Falcated Duck「鎌状の(羽をした)カモ」 |
ヨシガモの形態
※この項の記述は少ない観察経験に基づいており、誤りや不正確な表現を含む可能性があります。
その点ご了承の上ご覧ください。
オス生殖羽(年齢不明)
オス生殖羽。
ナポレオン帽に形容される緑色の頭部と、鎌状に垂れ下がる長い三列風切、下尾筒の脇にある淡黄色斑などが特徴で分かりやすい。
オス生殖羽(別個体)。
オカヨシガモのような分かりやすい羽色の個体差は見られず、体色は比較的安定している4)。
オス生殖羽(別個体)。
時期によっては鎌状の三列風切が短め(伸長中)の個体が見られる。
この個体のように雨覆などが見えない状態では、成鳥かどうかは判断できない。
オス生殖羽(別個体)。
上嘴基部には白斑がある。
オス成鳥
オス成鳥生殖羽
オス成鳥生殖羽。
雨覆が褐色みのない明るい灰白色であることで、オス幼鳥と識別できる4)。
オス成鳥(ほぼ)生殖羽(別個体)。
見えている雨覆の色から成鳥と判断できる。
なおこの個体は換羽が完了しておらず、一部にエクリプスの羽が残り、三列風切はまだ短い。
オス成鳥エクリプス→生殖羽移行中
オス成鳥エクリプス→生殖羽移行中。
成鳥エクリプスは肩羽の斑が細い横斑になる傾向があり、脇羽は幅広く先が丸い4)。
同一個体。
見えている雨覆の色が明るい灰白色であることからも成鳥と推測できる。
オス幼鳥
オス幼羽→第1回生殖羽移行中
オス幼羽→第1回生殖羽移行中。
三列風切が褐色みを帯びた幼羽であること(エクリプスではオス生殖羽に似る)、雨覆が褐色みを帯びて羽縁が白いことから幼鳥と判断できる4)。
同一個体。
雨覆の色が暗く、白い羽縁が目立つ点に注目。
オス幼羽→第1回生殖羽移行中(別個体)。
三列も落ち、幼羽はもうあまり残っていないが、雨覆の色が褐色みを帯びた灰色で細い羽縁があることから幼鳥と判断できる4)。
同一個体。
雨覆の色が暗く、羽縁が目立つ。
オス幼羽→第1回生殖羽移行中(別個体)。
三列風切が褐色の幼羽。
目先の部分については、例外的に遅くまで残った退色した幼羽であろうと教えて頂いた。
メス成鳥
メス成鳥非生殖羽→生殖羽移行中
メス成鳥非生殖羽→生殖羽移行中。
生殖羽は非生殖羽よりも羽縁や斑の橙褐色の部分が増え、全体に明るい羽衣になる4)。
完全な生殖羽では三列風切にも橙褐色斑が入るが4)、この個体はまだ三列風切が旧羽(非生殖羽)のままである。
三列風切の基部が白いことでメス幼羽と識別できる4)。
メス成鳥非生殖羽→生殖羽移行中(別個体)。
三列風切は旧羽(非生殖羽)。
一般的なメス成鳥よりも三列風切の白みが強いが、個体差と考えられる。
メス幼鳥
メス幼羽→第1回生殖羽移行中。
三列風切が根元まで褐色なのはメス幼羽のみ4)。
メス幼羽→第1回生殖羽移行中(同一個体)。
雨覆はオス幼羽やメス成鳥よりも白色部が狭く、大雨覆先端を除いて褐色みが強い4)。
メス幼羽→第1回生殖羽移行中(同一個体)。
次列風切の後方あたりに波状斑があるが、他に雄化的要素は見当たらないため特に異常ではないのかもしれない。
この位置の波状斑は成幼ともにしばしば見られるようだ。
メス幼羽→第1回生殖羽移行中(別個体)。
三列風切と雨覆がメス幼羽の分かりやすい特徴。
年齢・雌雄の識別
旧羽が残っている場合、三列風切が識別の大きなポイントとなる。
ただし春にかけて三列風切が脱落したり、その後生殖羽に換羽した場合には三列による性齢の識別はできなくなる。
雨覆も重要で、オス成鳥>オス幼羽>メス成鳥>メス幼羽の順で白みが強い4)。
雨覆は常に見えるわけではないが、越冬地で換羽しないため春まで使える識別点である。
他種との識別
オス生殖羽の識別は容易。
それ以外の羽衣では他のカモに似る。
ヨシガモとヒドリガモ(メスタイプ)の識別
ヒドリガモは嘴が短く、嘴基部が青灰色(ヨシガモは嘴がより長く、全体黒色)。
ただしヒドリガモでも幼羽では嘴が黒っぽく見えることがあるため注意4)。
またヒドリガモのほうが体羽の赤橙色みが強い。
ヒドリガモの脇羽は一様に橙褐色で斑紋が目立たないが、ヨシガモの脇羽は斑紋が明瞭。
分類
亜種はない(単型種)5)。
属の分類について
本種はマガモ属Anasに分類されてきたが、最近の分類ではAnas属が細分化され、本種はヨシガモ属Marecaに含まれるようになった5,14)。
ヨシガモ属Marecaはヨシガモのほかオカヨシガモやヒドリガモなど5種からなる属となっている(絶滅種を除く)5)。
ヨシガモの生態
食性
越冬個体数
ガンカモ調査における近年の日本国内の越冬個体数は11,000~15,000羽で推移している9)。
世界的には減少傾向にあることが報告されており、2007年時点における全世界の個体数は78,000~89,000羽と見積もられている6)。
国内における冬季の確認個体数が多い都道府県は茨城県、次いで滋賀県である11,12)。
オカヨシガモとの関係
オカヨシガモはヨシガモとごく近縁で、交雑個体もしばしば観察されている4)。
オカヨシガモのオスは体色に個体変異が多いが、これはヨシガモとの過去の交雑に由来する可能性が指摘されている。
ミトコンドリアDNAを調べた北米の研究では、ヨシガモからオカヨシガモの方向に一方的な遺伝子浸透(introgression)が生じていることが示唆されている10)。
オカヨシガモのオスで、①頭部の色彩が2色に分かれる、②白い首輪がある、③三列風切が長い、といった特徴を持った個体はヨシガモの遺伝子の影響が強く出ていると考えられている4)。
文献
1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)氏原巨雄・氏原道昭 2015. 『決定版 日本のカモ識別図鑑』誠文堂新光社.
5)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2023. IOC World Bird List (v13.2). doi : 10.14344/IOC.ML.13.2.
6)Zhang, B., Wang, X., Meng, F., Kharitonov, S., Hu, B., Gao, D., … & Fox, A. D. (2020). Contrasting changes in abundance of Falcated Duck Mareca falcata wintering in the Yangtze River floodplain and on the eastern coast of China. Wildfowl, 6, 267-292.
7)バードリサーチ・日本野鳥の会 2023. 『全国鳥類越冬分布調査報告 2016-2022 年』
8)鳥類繁殖分布調査会 2021. 『全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう 2016-2021年』
9)環境省自然環境局生物多様性センター 2023. 第 53 回ガンカモ類の生息調査報告書.
10)Peters, J. L., Zhuravlev, Y., Fefelov, I., Logie, A., & Omland, K. E. (2007). Nuclear loci and coalescent methods support ancient hybridization as cause of mitochondrial paraphyly between gadwall and falcated duck (Anas spp.). Evolution, 61(8), 1992-2006.
11)環境省 2022. 第53回ガンカモ類の生息調査 都道府県別羽数 確定値. https://www.biodic.go.jp/gankamo/gankamo_top.html 2024年2月5日閲覧.
12)環境省 2023. 第54回ガンカモ類の生息調査 都道府県別羽数 確定値. https://www.biodic.go.jp/gankamo/gankamo_top.html 2024年2月5日閲覧.
13)渡辺朝一. (2014). 外来沈水植物ハゴロモモが繁茂するため池で見られた水鳥の採食行動. Bird Research, 10, S5-S11.
14)日本鳥学会 2024. 『日本鳥類目録改訂第8版 掲載鳥類リスト』https://ornithology.jp/checklist.html 2024/11/26ダウンロード.
編集履歴
2024/3/17 公開
2024/11/28 分類の項をアップデート。