日本に最も多く飛来するガンの仲間。特に宮城県で越冬する個体が多く、伊豆沼周辺は本種をはじめとするガン類の観察地として有名である。
マガンの概要
希少度 | : | ★★(やや普通) |
全長1) | : | 65-86㎝ |
生息環境1,4) | : | 湖沼、農耕地。 |
学名2) | : | albus「白い」+frons「額」 |
英名 | : | Greater White-fronted Goose「大きいほうの、額の白いガン」 |
マガンの形態
成鳥
※例外的に換羽の早い幼鳥の存在を否定はできないため、この項の個体全てを成鳥と断定するものではありません。

細いアイリングのある成鳥。
このような個体はカリガネと誤認されることが多い。
嘴の形状を注意して比較すれば間違えることはないと考えられる。
幼鳥
年齢の識別
上述の通り、幼鳥は①額が白くなく、②腹に黒い羽がなく、③肩羽や雨覆は幼羽で先がやや尖り、④胸~腹も幼羽でうろこ状に見える。
ただし、これらの特徴はすべて春にかけて換羽が進むにつれ分かりづらくなり、注意深い観察が必要となる。
マガンの幼鳥は越冬中に徐々に成羽に生え変わるものの、特に雨覆については幼羽が遅くまで残る傾向がある6)。
また、春までに多くの幼鳥は額の白色部や体前面の黒い羽が出現するが、腹部の黒い帯はふつう出現しないという6)。
なお、ごく少数の個体は2回目の冬の時期まで中雨覆に幼羽を残すことがある6)。
識別
マガンとヒシクイの識別
ヒシクイは①ふつう嘴の先端付近のみ黄色で、②腹部に黒い羽はなく、③額は白くない。
マガン幼鳥とヒシクイ幼鳥は一見似て見えるかもしれないが、嘴の色を見ると識別しやすい。
また、亜種ヒシクイはマガンよりやや大きい程度であるが、亜種オオヒシクイはマガンより顕著に大きく、そのサイズ差は明瞭である。


マガンとカリガネの識別
カリガネはマガンよりも渡来数が圧倒的に少ないガンで、マガンの群れの中に混じって見られる場合が多い。
マガンよりも一回り小さく、額の白色部が広い傾向がある。
最も分かりやすい違いは嘴の形状で、マガンよりもカリガネのほうが短い。
また嘴の色についても、個体差はあるもののカリガネのほうがピンク色味が強いことが多いようである。


中央手前とその右隣の2個体がカリガネ(いずれも成鳥)で、残りはマガン。
体サイズ、アイリング、嘴の色と形、額の白色部の広さに注目。
分類と亜種について
日本に渡来する亜種はAnser albifrons frontalisとされることもあったが、IOC ver.13.2(2023)7)では本亜種を認めておらず、東アジアで越冬するものを基亜種A. a. albifronsに含めている。
日本鳥類目録第7版(2012)8)においても亜種マガンはA. a. albifronsとされている。
Banks(2011)における亜種区分
IOC ver.13.2はBanks(2011)9)に従い、次の5亜種を認めている。
A. a. flavirostris:グリーンランド西部で繁殖し、アイルランドやスコットランドで越冬する。
A. a. albifrons(マガン):ロシア北部で繁殖し、ヨーロッパ西部から東アジアにかけての地域で越冬する。
A. a. elgasi:アラスカ南部で繁殖し、カリフォルニア北部~中部で越冬する。
A. a. gambelli:アラスカやカナダ北西部~北中部で繁殖し、アメリカ南部やメキシコ北部で越冬する。本亜種はfrontalisと呼ばれることもある10)。
A. a. sponsa:アラスカ西部で繁殖し、カリフォルニアやメキシコ西部で越冬する。
なお基亜種albifronsの分布域においては、東へ行くほど体サイズが大きい傾向があるという9)。
各亜種の大まかな繁殖分布や渡り経路についてはWilson et al. (2022)10)の図を参照。
“オオマガン”について
国内では亜種マガンよりも明らかに大型の個体が稀に観察され、亜種オオマガンgambelliとして話題になることがある。
国内で観察されるこうした個体はアラスカで繁殖している亜種と考えられるが、上記3亜種(elgasi, gambelli, sponsa)のうちいずれに該当するかは現状不明であるため(3亜種とも亜種マガンより大きい9))、日本鳥類目録第8版においてはオオマガンは「検討種」となる見込みである11)。
ギャラリー
文献
1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)環境省自然環境局生物多様性センター 2023. 第53回ガンカモ類の生息調査報告書. https://www.biodic.go.jp/gankamo/gankamo_top.html 2023/12/11閲覧.
5)Wilson, R. E., Sonsthagen, S. A., DaCosta, J. M., Sorenson, M. D., Fox, A. D., Weaver, M., … & Talbot, S. L. (2022). As the Goose Flies: Migration Routes and Timing Influence Patterns of Genetic Diversity in a Circumpolar Migratory Herbivore. Diversity, 14(12), 1067.
6)Jeff Baker 2016. Identification of European Non-Passerines. Second Edition. British Trust for Ornithology.
7)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2023. IOC World Bird List (v13.2). doi : 10.14344/IOC.ML.13.2.
8)日本鳥学会 2012. 『日本鳥類目録 改訂第7版』 掲載鳥類リスト.http://ornithology.jp/katsudo/Publications/Checklist7.html
9)Banks, R. C. (2011). Taxonomy of greater white-fronted geese (Aves: Anatidae). Proceedings of the Biological Society of Washington, 124(3), 226-233.
10)Wilson, R. E., Sonsthagen, S. A., DaCosta, J. M., Sorenson, M. D., Fox, A. D., Weaver, M., … & Talbot, S. L. (2022). As the Goose Flies: Migration Routes and Timing Influence Patterns of Genetic Diversity in a Circumpolar Migratory Herbivore. Diversity, 14(12), 1067.
11)日本鳥学会 2023. 日本鳥類目録改訂に向けた第一回パブリックコメント. https://ornithology.jp/iinkai/mokuroku/index.html 2023/12/12閲覧.
編集履歴
2023/12/12 公開
2024/3/3 分布図を差し替え
2024/10/21 識別の項の記述を修正