ユモトマムシグサ Arisaema nikoense subsp. nikoense var. nikoense

植物 > 被子植物 > オモダカ目 > サトイモ科 > テンナンショウ属

岩手県 2023/6/10
※分布図は目安です。

分布(変種ユモトマムシグサに限る)1,2):本州(東北~中部)。分布の中心は長野・群馬・山梨とその周辺。種単位で日本固有。

山地に生えるテンナンショウの仲間。葉は通常2枚で、それぞれ通常5枚の小葉に分裂し、ときに鋸歯がある。似た種も多いため識別には注意が必要である。

ユモトマムシグサの概要

花期2)5月ごろ
希少度★★★(やや稀)
生活形多年草
生育環境1,2)山地のブナ帯~亜高山帯の林下
学名3)nikoense「栃木県日光の」

ユモトマムシグサの形態

岩手県 2023/6/10

花序は葉身より先に展開し、葉よりも高い位置につく2)
仏炎苞は通常緑色で白条が目立たないが、稀に紫褐色2)
写真のものは岩手県産で、花色が本変種の典型からは外れる。

岩手県 2023/6/10

花序付属体は棒状~根棒状2)
口部はやや開出する2)

岩手県 2023/6/10

葉は通常2個、時に1個2)
小葉は5(-7)個で葉軸は発達しない(小葉の付け根が近接する)2)
時に不規則な鋸歯があるが全縁のこともある2)

果実

果実は9-10月に熟す2)

識別

本変種(ユモトマムシグサ)の特徴は①花序が葉よりも高い位置につくこと、②葉がふつう2枚で、小葉が5(-7)枚と少なく葉軸が発達しない(=小葉の基部が互いにほとんど離れない)こと、③偽茎部の開口部(葉柄の付け根付近)が襟状に開出しないこと、など。また、仏炎苞は通常緑色(紫褐色のものもある)。
ただし個体差・地域差があるため、識別には慎重を期す必要がある。
また、ユモトマムシグサの種内分類群とされるもの(後述)との識別にも注意が必要である。

オドリコテンナンショウは静岡・神奈川に分布し、ユモトマムシグサに極めてよく似ている。しかし系統的にはさほど近縁ではなく(むしろ遠縁)、偽茎部の開口部が襟状に開出することが明瞭な識別点。他にも発芽第1葉がユモトでは単葉なのに対して3小葉である点、果実の熟期が12月頃と非常に遅い点なども異なる。
ヒロハテンナンショウはより近縁だが、小葉に鋸歯はなく、花序は葉よりも低い位置につく。ユモトマムシグサの葉が全縁の株とは、若い時期には区別が難しい1)
ヒガンマムシグサも似るが、花期がやや早く、偽茎部の開口部は襟状に開出する。仏炎苞は紫褐色~黄褐色で、緑色のものは極めて稀。ミミガタテンナンショウも同様。
イシヅチテンナンショウは四国に分布し、分布は被らないがよく似る。葉が通常1枚(ユモトマムシグサは通常2枚)。仏炎苞は紫色。
カントウマムシグサなどの狭義マムシグサ群の種では、葉軸が発達するため草姿が一見して異なる。

種内分類群

邑田ほか(2018)2)は、ユモトマムシグサの種内分類群として以下の5つを認めている。
ユモトマムシグサsubsp. nikoense var. nikoenseは本ページで解説しているもの。
ヤマナシテンナンショウsubsp. nikoense var. kaimontanumはユモトマムシグサより高標高地で見られ、仏炎苞が紫褐色のものはオオミネテンナンショウに似る。
オオミネテンナンショウsubsp. australeはときにユモトマムシグサと区別が困難。
カミコウチテンナンショウsubsp. brevicollumは花序が葉よりも明らかに低い位置につく。
ハリノキテンナンショウsubsp. alpicolaはカミコウチテンナンショウに似て小型、仏炎苞も最も小さい。

ユモトマムシグサヤマナシテンナンショウオオミネテンナンショウカミコウチテンナンショウハリノキテンナンショウ
分布東北~中部山梨県北岳周辺紀伊半島、静岡長野、岐阜、福井新潟、富山、長野、岐阜、石川、福井
花序柄(花時)葉柄より長い葉柄よりやや短い葉柄より長い葉柄より短い葉柄より短い
果序の位置葉より高い葉と同じか低い葉より高い葉より低い葉より低い
仏炎苞の色ふつう緑色、稀に紫褐色緑色または紫褐色ふつう紫褐色、ときに緑色を交える赤紫褐色ふつう淡紫褐色でやや緑色を帯びる
仏炎苞の長さ大きめ大きめ6-12㎝4-9㎝3.5-6㎝
花序付属体太い棒状棒状棒状、直径5㎜以上細い棒状、直径3㎜以下
邑田ほか(2018)2)、大橋ほか(2015)1)より作成。

また、仏炎苞が濃紫色の個体群が変種ユモトマムシグサの品種クボタテンナンショウf. kubotaeとして長野県から報告されている1,2)

ユモトマムシグサの生態

性転換

雌雄偽異株で、株の成長に伴い雄株から雌株に性転換する2)

分類

カミコウチテンナンショウとハリノキテンナンショウはイシヅチテンナンショウの種内分類群とされてきたが、系統解析からユモトマムシグサに含められるようになった1,2)
イシヅチテンナンショウ自体を種としてのユモトマムシグサに含める意見もあった4)

なお、形態的なグループ分けではいわゆるユモトマムシグサ群に含められる(テンナンショウ属のページを参照)。

文献

1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)邑田仁・大野順一・小林禧樹・東馬哲雄 2018. 『日本産テンナンショウ属図鑑』北隆館.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)芹沢俊介. (1981). 日本産テンナンショウ属の再検討 (3) ユモトマムシグサ群. 植物研究雑誌56(3), 90-96.

編集履歴

2024/12/19 公開