植物 > 被子植物 > コショウ目 > ウマノスズクサ科 > ウマノスズクサ属
分布1):本州(関東地方以西)、四国、九州。国外では中国。
筒状の独特な花を咲かせるつる植物。堤防などの草地に生える。花の内面には毛が生えており、送粉者であるハエを内部に閉じ込めて受粉させるための構造をしている。ジャコウアゲハの食草としても有名であり、アリストロキア酸と呼ばれる毒素を含んでいる。
ウマノスズクサの概要
花期1) | : | 6-8月 |
希少度 | : | ★★★(やや稀) |
生活形 | : | 多年生の草本性つる植物 |
巻き方 | : | Z巻き(右上) |
生育環境 | : | 河川堤防、路傍などの草地 |
学名2) | : | debilis「弱く壊れやすい」 |
ウマノスズクサの形態
葉
葉は無毛、狭い三角形で長さ3-9㎝1)。
葉身基部は湾入する(心形)。
葉裏は白みを帯びる。
葉は互い違いにつく(互生)。
花
花は独特な筒状で、筒の長さ3-4㎝1)。
筒の部分は黄緑色で、反り返る部分(舷部)は紫褐色。
舷部の上部、花の上端は細長く伸びて反り返る。
基部に近い部分(室部)は球状に膨らむ。
蕾。
ウマノスズクサの送粉戦略
送粉者は主に小さなハエ
ウマノスズクサの仲間の独特な形の花は、内部に昆虫を閉じ込めて受粉させるためのものであるとされている。
Sugawara et al.(2016)3)は、長野県内でウマノスズクサの送粉様式について調べている。
それによると、本種の花にはクロコバエ科やキモグリバエ科の小さなハエが訪花し、
花粉を運んでいることが分かった。
ハエは花の内部にトラップされる
また、花は雌性先熟(雌しべが先)で、開花後約1日経ってから葯が開いて花粉が出てくるが、
花粉が出る前の雌性期には内部の毛が直立してハエが抜け出しにくくなっており、
ハエが運んできた花粉を雌しべが受け取りやすいようになっていた。
雄しべの時期になるとハエは解放される
さらに、花の内部で雄しべが開き、ハエに自らの花粉が付着する時期になると、
今までハエを閉じ込めていた内部の毛がしぼんでハエが解放され、
次の花へと向かっていくという仕組みになっている。
識別
ウマノスズクサ属の他種との識別
日本産ウマノスズクサ属7種のうち、オオバウマノスズクサ亜属の4種(アリマウマノスズクサ、オオバウマノスズクサ、タンザワウマノスズクサ、リュウキュウウマノスズクサ)は木本で、葉裏や葉柄に毛が生えることなどから簡単に除外できる。
本種と同じウマノスズクサ亜属のうち、コウシュンウマノスズクサは国内では宮古島のみに分布し、花被と子房の間に短い柄がある。
また、マルバウマノスズクサは山形~島根の日本海側と群馬、長野に分布し、葉が丸みを帯び、花は全体が淡緑色で舷部の先が糸状に伸びる。
アオツヅラフジとの識別
ツヅラフジ科のアオツヅラフジは北海道~先島諸島に分布する木本で、葉は広卵形~3裂するものまでありやや似ている。
ウマノスズクサの葉は無毛であるが、アオツヅラフジの葉には毛が多いことなどから識別できる。
ジャコウアゲハとアリストロキア酸
ウマノスズクサは本土におけるジャコウアゲハの食草として有名である。
ウマノスズクサの仲間にはアリストロキア酸と呼ばれる有毒のアルカロイドが含まれているが、ジャコウアゲハはこれを食べることでその後の一生にわたり、鳥などの天敵からの捕食を防いでいるとされる4)。
ジャコウアゲハ幼虫は驚かすと臭角と呼ばれる黄色い器官を頭の上から出す。
ジャコウアゲハの臭角にはアリストロキア酸に由来する強い苦みのある成分が含まれており、天敵に対する忌避効果がある4)。
なお、同じくウマノスズクサ類を食べるベニモンアゲハや外来種のホソオチョウも同様に体内にアリストロキア酸を蓄積することが知られている4)。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編)2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
3)Sugawara T., Hiroki S., Shirai T., Nakaji M., Oguri E., Sueyoshi M., Shimizu A. 2016. Morphological change of trapping flower trichomes and flowering phenology associated with pollination of Aristolochia debilis (Aristolochiaceae) in central Japan. 植物研究雑誌 91:88-96.
4)西田律夫 1989. 昆虫と植物二次代謝成分 その特異な化学生態学. 化学と生物 27(4):228-235.
編集履歴
2021/7/18 公開