植物 > 被子植物 > クスノキ目 > クスノキ科 > シロダモ属
分布1,2,4,5,8,9,10):本州(東北以南)、四国、九州、琉球(奄美群島、沖縄諸島、先島諸島)。北限は宮城・山形とされるが5)、秋田県南部の海岸クロマツ林には本種が確認されており8,9,10)、自生であればここが北限となる。岩手県の記録は不明。国外では朝鮮半島南部、中国東部。
本州以南で普通に見られるクスノキ科の常緑樹。葉裏が白いことが大きな特徴。秋に黄色い花を咲かせ、翌年の秋に赤く熟した果実は鳥によって散布される。
シロダモの概要
花期1) | : | 10-11月 |
希少度 | : | ★(ごく普通) |
生活形1) | : | 常緑中高木 |
生育環境 | : | 沿海~低山の林内や林縁2)。比較的湿潤なところ5)。 |
学名3) | : | sericeus「絹毛で覆われた」 |
シロダモの形態
葉
葉は互生し、枝先に集まってつく。
葉身長8-17㎝2)。
葉幅は中央~基部寄りで最大となる。
三行脈が目立つ。
葉裏が顕著に白いのが大きな特徴。
春先に展開する新葉は白~黄褐色の毛で覆われ目立つ。
毛はのちにほとんど落ち、通常は裏に多少残る程度。
葉裏の白色は蝋状物質によるもので、こすると落ちるという5)。
例外的に秋まで毛の多く残った個体。
同じ個体の葉裏。絹毛に覆われている。
花
花は秋に咲き、淡黄色。
雌雄異株で写真は雄花。
雌花。
果実
果実は12-15㎜、翌年の秋に赤く熟す。
冬芽
葉芽は長卵形。
花芽は丸い。
葉芽。黄褐色の毛に覆われ光沢がある。
樹皮
樹皮は暗褐色5)。
小さな丸い皮目が目立つ。
実生
このような段階でも葉裏は白い。
生態
種子散布
本種は日本産クスノキ科の大部分の種と同じく、主に鳥類によって種子散布される6)。
新潟県での研究では、本種は主にツグミの仲間(特にシロハラ)によって採食されていたという11)。
識別
典型的な葉は三行脈が目立つこと、枝先に集まってつくこと、葉裏が明瞭に白いことなどから識別は容易。
本土において迷うとすれば、同属のイヌガシおよびクスノキ属のヤブニッケイあたりと思われる。
シロダモとイヌガシの違い
イヌガシとの識別点は次の表の通り。
典型的なものは葉のサイズや形だけでも識別できるが、個体差があるため注意。
シロダモ | イヌガシ | |
---|---|---|
葉身長2) | 8-17㎝ | 5-12㎝ |
分布 | 東北~琉球 | 関東南部~琉球 |
花 | 黄褐色で秋に咲く | 暗紅色で春に咲く |
果実1) | 翌年秋に赤く熟す | その年の秋に黒紫色に熟す |
生育環境5) | やや湿った場所に多い | やや乾燥した場所に多い |
シロダモとヤブニッケイの違い
ヤブニッケイは①葉裏が白くならず無毛、②葉が枝先に集まらずに平面的につき、③葉幅は幅広い傾向、④初夏に咲き果実は黒紫色。
通常は迷うことはないが、ひこばえなどでは注意。
シロダモの種内変異・近縁種
変種キンショクダモ
シロダモの変種キンショクダモvar. aurataは伊豆諸島(利島)、小笠原、九州西部(福江島、甑島?)、トカラ列島以南の琉球、台湾(蘭嶼、緑島)に分布する1)。
葉裏の絹毛が遅くまで残り、花が春に咲くのが違い(変種シロダモは毛が早く落ち、秋~冬に咲く)。
ただし中間的なものも多く、明瞭に区別できない4)。
シロダモと同所的に分布するため、識別には困難を伴う。
変種ダイトウシロダモ
シロダモの変種ダイトウシロダモvar. argenteaは南大東島、北大東島に分布する。
葉は変種シロダモよりやや幅広く、葉裏の毛が銀灰色で赤みが全くないのが特徴。秋~冬に咲く。
大東諸島には変種シロダモやキンショクダモはないと思われるため、おそらく分布同定が可能と考えられる13)。
オガサワラシロダモ(ムニンシロダモ)
オガサワラシロダモ(ムニンシロダモ)N. boninensisはシロダモとは別種で、小笠原諸島の父島列島、母島列島に分布する。
同所的にキンショクダモが分布し、中間型もあるため識別は困難である。
花のついた枝では葉がキンショクダモより小さく(長さ4-9㎝、幅2-4㎝)、花や果実もやや小さいとされる。
また小笠原ではもう1種、ナガバシロダモ(ハハジマシロダモ)N. gilvaを認める見解があるが、オガサワラシロダモと同種として扱われることが多い14)。
日本の野生植物1)等では母島の分布が記載されていないが、ナガバシロダモを無効とする場合は母島にも分布するとするのが適切と考えられる。
シロダモハコブフシ
シロダモの葉にはシロダモタマバエによる虫こぶ(ゴール)が形成されることがある。
シロダモハコブフシという和名のこの虫こぶには、葉表に突き出るタイプと葉裏に突き出るタイプの2種類が知られている。
両タイプとも同種のタマバエによる虫こぶとされるが、九州における研究12)では九州北部で葉裏のタイプ、九州南部で葉表のタイプが見られ、分布が明瞭に分かれていたという。
著者はシロダモの倍数性との関連も検討したものの、シロダモのサンプルはほぼすべて2倍体であり倍数性とは関係がないとみられると結論している。
葉表に突き出るタイプ
葉表に突き出るタイプ(upper type)のシロダモハコブフシ。
upper typeの葉裏。
葉裏に突き出るタイプ
葉裏に突き出るタイプ(lower type)。
lower typeの葉裏。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)林将之 2014.『山渓ハンディ図鑑14 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』山と渓谷社.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)林将之 2016. 『ネイチャーガイド 琉球の樹木 奄美・沖縄~八重山の亜熱帯植物図鑑』文一総合出版.
5)茂木透・勝山輝男・太田和夫・崎尾均・高橋秀男・石井英美・城川四郎・中川重年 2000. 『樹に咲く花―離弁花〈1〉 (山渓ハンディ図鑑) 改訂第3版』山と溪谷社.
6)平田令子, 畑邦彦, 曽根晃一 2006. 果実食性鳥類による針葉樹人工林への種子散布. 日本森林学会誌 88(6):515-524.
7)橋本佳延, 藤木大介 2014. 日本におけるニホンジカの採食植物・不嗜好性植物リスト. 人と自然 25:133-160.
8)大橋広好, 佐々木豊, 大橋一晶 2006. シロダモの分布と太平洋側における北限. 植物研究雑誌 81(4):248-249.
9)阿部裕紀子 2002. 秋田県のクロマツ植林の植生学的研究. 秋田県立博物館研究報告 27:1-18.
10)秋田県 2014. 『秋田県の絶滅のおそれのある野生生物 ―秋田県版レッドデータブック2014― 維管束植物』秋田県生活環境部自然保護課.
11)金子尚樹, 中田誠, 千葉晃, 伊藤泰夫 2012. 新潟市の海岸林における鳥類による秋季の果実利用. 日本鳥学会誌 61(1):100-111.
12)Mishima M., Yukawa J. 2007. Dimorphism of leaf galls induced by Pseudasphondylia neolitseae (Diptera: Cecidomyiidae) on Neolitsea sericea (Lauraceae) and their distributional patterns in Kyushu, Japan. 九州大学総合研究博物館研究報告 5:57-64.
13)琉球の植物研究グループ 国立科学博物館 2018-.『琉球の植物データベース』 https://www.kahaku.go.jp/research/activities/project/hotspot_japan/ryukyus/db/ 2021/8/21閲覧.
14)豊田武司 2014. 『小笠原諸島 固有植物ガイド』ウッズプレス.
編集履歴
2023/11/18 公開