イヌガシ Neolitsea aciculata

植物 > 被子植物 > クスノキ目 > クスノキ科 > シロダモ属

宮崎県日向市 2022/3/13
※分布図は目安です。

分布1,2,4,5):本州(関東南部以西)、四国、九州、琉球(奄美群島、沖縄諸島、先島諸島)。国外では朝鮮半島南部、台湾。

早春に赤い花をつけるクスノキ科の常緑樹。近縁のシロダモと似るが、葉はより小さい。奈良県の春日山ではシカの忌避植物である本種を多く見ることができる。

イヌガシの概要

花期1)3-4月
希少度★★★(やや稀)
生活形1)常緑高木
生育環境照葉樹林2)。やや乾燥した場所に多い5)
学名acicularis「針のような形をした」3)と類似の意味と考えられる

イヌガシの形態

奈良市 2015/7/25

葉は互生し、葉身長5-12㎝2)
名前の通りカシ類にやや似るが、三行脈が目立つ。

高知県越知町 2015/9/12

葉裏は多少とも白みを帯びる。
若枝は緑色。

大阪府岸和田市 2014/11/8

葉の形は同属のシロダモと似るが、イヌガシのほうが一回り小さい。

奈良市 2015/7/25

個体差はあるものの、葉裏の白色が目立つ。

宮崎県日向市 2022/3/13

花は早春に咲き、鮮やかな暗紅色。

宮崎県日向市 2022/3/13

雌雄異株。写真は雄花。
シロダモは秋に咲き、淡黄色のため明瞭に異なる。

樹皮

大阪府岸和田市 2014/11/8

樹皮は灰黒色で皮目がある5)

大阪府岸和田市 2014/11/8

成木の樹形。高さ10mほどになる5)

生態

種子散布

本種は日本産クスノキ科の大部分の種と同じく、主に鳥類によって種子散布される6)

識別

葉は一見カシ類など他の常緑樹にも似るが、葉脈が三行脈になること、葉裏が白みを帯びることなどを確認すればさほど難しくない。

シロダモとの識別

同属のシロダモとは葉が似るが、シロダモのほうが通常明らかに葉が大きく質感も異なる。
また、シロダモの葉先はより細長く尖る傾向。
花は明瞭に異なり、イヌガシは早春に咲き赤いのに対して、シロダモは秋に咲き淡黄色。
またシロダモの果実は翌年の秋に赤く熟すが、イヌガシはその年の秋に黒紫色に熟す。
比較表はシロダモのページを参照。

奈良県春日山周辺のイヌガシとナギ

イヌガシはニホンジカの不嗜好性植物(食べるのを嫌う植物)として有名である7)
ニホンジカの個体密度が異常に高い奈良県の春日山周辺では、同じく不嗜好性植物である針葉樹のナギとともに本種が高密度で生育している。
春日山においてナギとイヌガシは競合しており、ナギが多い場所ではイヌガシは栄養成長に投資するためあまり開花せず(特に雌株)、ナギが少ない場所では比較的開花が多いとのこと8)
またナギも雌雄異株であり、ナギの雌株のまわりには重力散布の種子が多く落ちるためナギの実生の密度が高くイヌガシが入り込めない一方、ナギの大きな雄株のまわりにはナギの実生が少なく、鳥類散布であるイヌガシの実生が入り込むことで両種の共存が可能になっているという考察がなされている8)

文献

1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)林将之 2014.『山渓ハンディ図鑑14 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』山と渓谷社.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)林将之 2016. 『ネイチャーガイド 琉球の樹木 奄美・沖縄~八重山の亜熱帯植物図鑑』文一総合出版.
5)茂木透・勝山輝男・太田和夫・崎尾均・高橋秀男・石井英美・城川四郎・中川重年 2000. 『樹に咲く花―離弁花〈1〉 (山渓ハンディ図鑑) 改訂第3版』山と溪谷社.
6)平田令子, 畑邦彦, 曽根晃一 2006. 果実食性鳥類による針葉樹人工林への種子散布. 日本森林学会誌 88(6):515-524.
7)橋本佳延, 藤木大介 2014. 日本におけるニホンジカの採食植物・不嗜好性植物リスト. 人と自然 25:133-160.
8)Nanami S., Kawaguchi H., Yamakura T. 1999. Dioecy‐induced spatial patterns of two codominant tree species, Podocarpus nagi and Neolitsea aciculata. Journal of Ecology 87:678-687.

編集履歴

2023/11/11 公開