植物 > 被子植物 > アウストロバイレヤ目 > マツブサ科 > シキミ属
分布1,4):本州(宮城県以南)、四国、九州、琉球(沖縄諸島以北)。国外では済州島。
葉をちぎると強い香りがする常緑樹。被子植物の中では原始的な部類に入る。果実は香辛料の八角に似ているが、アニサチンという毒を含んでおり食べられない。寺社や墓地などに植えられることも多く、目にする機会の多い植物である。
シキミの概要
花期1) | : | 3-5月 |
希少度 | : | ★★(普通) |
大きさ1) | : | 2-5(10)m |
生活形 | : | 常緑小高木 |
生育環境2) | : | 山地寄りのカシ林やモミ・ツガ林内 |
学名3) | : | anisatus「アニスの香りがする」 |
和名1) | : | 「悪しき実」より転じたといわれる |
シキミの形態
葉
葉は長さ5-11㎝2)、鋸歯はない。
葉先寄りが最も太くなる。
ちぎると甘い香りがするのが大きな特徴。
表裏とも葉脈はあまり目立たない。
幼木。葉は枝先に集まってつく。
縁は時にやや波打つ。
幼木。
特徴に乏しいので初めのうちは難しいが、葉脈の見え方や光沢感が独特で慣れると見分けやすい。
虫こぶ(シキミハコブフシ)。
シキミタマバエの仲間によって形成されるもので、本州~屋久島で見られる5)。
作者がごく初心者の頃、これがついていることがシキミを見分けるよい目印になった。
冬芽は小型。
花
花は直径2.5-3㎝。
花被片はふつう黄白色で(12)16-24(28)枚1)。
雄しべは15-28本、雌しべはふつう8個の心皮よりなる1)。
花は早春、葉腋につく。
果実
果実は8角形、突起がある。
同属の中国~ベトナム原産のトウシキミの果実(香辛料の八角)とよく似た形。
アニサチンを含み猛毒。「しきみの実」として劇物に指定されている7)。
樹皮
樹皮は暗褐色でやや平滑、縦筋が入る1,2)。
シキミの生育環境
カシ林やモミ・ツガ林の林床でよく見られる。
本種はアニサチンという毒素を有し、ニホンジカの忌避植物であるため6)、シカの多い地域においても残りやすい傾向にある。
また、寺社や墓地でよく植栽される2)。
シキミの種内変異
沖縄諸島のものは葉が細く、変種オキナワシキミvar. masa-ogataeとされることがあるが、奄美諸島のものは中間的で、明瞭に区別できない4)。
また、花被片の色が淡紅色のものを品種ウスベニシキミf. roseumと呼ぶ。
識別
ヤエヤマシキミとの識別
同属のヤエヤマシキミは石垣島、西表島にあり、分布が重ならない。
花被片が白く、心皮の数が多いのが違いである。葉はよく似る。
シキミ | ヤエヤマシキミ | |
---|---|---|
葉の長さ4) | 5-12㎝ | 6-14㎝ |
花被片の色1,4) | ふつう黄白色 | ふつう白色 |
雌しべ(心皮)の数1) | (7)8(-10)個 | 11-13個 |
その他常緑樹との識別
鋸歯がなく、表裏の葉脈が目立たないその他の常緑樹とは、慣れるまでは間違えやすい。
分類的には離れているが、やや似ているものにモチノキ、サカキ、ミヤマシキミ、タブノキなどがある。
モチノキは葉がやや小型で、葉柄が時に紫色となり、枝に稜がある。ちぎっても香りはしない。
サカキは葉が枝先に集まってつくことはなく、冬芽が鎌型で目立ち、ちぎっても香りはしない。
ミヤマシキミはミカン科で、ちぎるとシキミとは違う柑橘系の香りがする。樹形は地を這い高さ1m程度まで。葉はシキミにやや似るが、葉先にしばしば目立たない小さな鋸歯がある。また、葉表はシキミほど光沢がなく、表面がややざらざらして見えることが多い。
タブノキは葉形が似るが、冬芽が大きく目立つ。また、葉裏は白みを帯びて大きく印象が異なる(シキミは緑色)。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編)2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)林将之 2014.『山渓ハンディ図鑑14 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』山と渓谷社.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)林将之 2016. 『ネイチャーガイド 琉球の樹木 奄美・沖縄~八重山の亜熱帯植物図鑑』文一総合出版.
5)湯川淳一・桝田長 1996. 『日本原色虫えい図鑑』全国農村教育協会.
6)高槻成紀 1989. 植物および群落に及ぼすシカの影響. 日本生態学会誌 39(1): 67-80.
7)国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部 『毒物及び劇物取締法(毒劇法)』 http://www.nihs.go.jp/law/dokugeki/dokugeki.html. 2021/7/14閲覧.
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2021/7/14 公開