植物 > 被子植物 > オモダカ目 > サトイモ科 > ハンゲ属
分布1,2):本州(関東以西)~琉球。岐阜・福井以西とする記述2)もあるが、栃木県4)、埼玉県5)のRDBに記載がある。沖縄県では伊平屋島、沖縄島北部、久米島、宮古島、伊良部島に稀に分布6)。海外では香港に隔離分布し、ヨーロッパ、北米、オーストラリアに帰化7)。
カラスビシャクと同属で似た花を咲かせる多年草。カラスビシャクと異なり、むかごはつけない。花粉はタマバエなどの小昆虫により送粉され、種子は主にアリによって散布されると考えられている。
オオハンゲの概要
花期1) | : | 6-8月。 |
希少度 | : | ★★(普通) |
生活形1) | : | 球茎のある多年草 |
生育環境1) | : | 山地の常緑樹林下 |
学名3) | : | tripartita「3部分に分かれた(3深裂の)」 |
オオハンゲの形態
花
花序は肉穂花序で、葉と同じ~やや高い位置につく。
付属体は非常に長く、15-25㎝1)。
仏炎苞は全体緑色、ときに紫色を帯びる1)。
雄しべ・雌しべは仏炎苞の内部にあり、外からは見えない。
葉
葉は長さ8-20㎝、3深裂する1)。
葉は1株あたり1-4個1)。
カラスビシャクと異なり、むかごをつけない。
ムサシアブミやミツバテンナンショウと異なり、葉は完全に分離せず、3小葉とはならない。
識別
カラスビシャクとの識別
同属のカラスビシャクはオオハンゲよりも人里に近い環境で雑草として見られ、花がよく似る。
葉はオオハンゲと異なり完全に3分裂し3出複葉となるほか、オオハンゲには無いむかごがつく。
葉の質感も大きく異なるため迷うことはあまりない(下記比較画像参照)。
また、同属のショウヨウハンゲが時に帰化しているが、葉が全く異なり鳥足状に裂ける。
ムサシアブミ・ミツバテンナンショウとの識別
ムサシアブミとミツバテンナンショウはテンナンショウ属で花の構造が大きく異なるが、葉のみだと特にムサシアブミはよく似ている。
オオハンゲの葉は完全には裂けず3深裂となるが、ムサシアブミは完全に分裂し3小葉となる1)。
またムサシアブミはより大型となり、オオハンゲの葉が全体で8-20㎝なのに対しムサシアブミでは頂小葉だけで30㎝を超えることがある8)。
オオハンゲの生態
ポリネーターと開花特性
オオハンゲのポリネーター(送粉者)としてはタマバエの仲間が知られている9)。
本種は雌性先熟で、雌性期にポリネーターが訪花した際には花から出られない構造をしており、雄性期になると花に隙間ができてポリネーターを解放するという戦略をとっている9)。
またポリネーター排除実験からは、自殖と他殖の両方が行われていることが示されている9)。
種子散布
オオハンゲの種子はアリによって散布される可能性が指摘されている9)。
同研究によるとオオハンゲの種子は同じくアリ散布植物として知られるスミレViola mandshuricaよりもアリに好まれる傾向があったという。
分類
本種の属するハンゲ属はテンナンショウ属と姉妹群を形成するとされ、互いに非常に近縁である8,10)。
テンナンショウ属とは、ハンゲ属の肉穂花序の軸が仏炎苞と合着する(テンナンショウでは分離する)点において区別される8)。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)林弥栄・門田裕一・平野隆久 2014. 『山渓ハンディ図鑑1 野に咲く花 増補改訂新版』山と渓谷社.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)NPO法人野生動物調査協会・NPO法人Envision環境保全事務所 『日本のレッドデータ検索システム』http://jpnrdb.com/index.html 2024年4月1日閲覧.
5)埼玉県 2011. 『埼玉県レッドデータブック2011植物編』https://www.pref.saitama.lg.jp/b0508/saitamakennoyseiseibutu/reddatabook2011-plants.html 2024年4月1日閲覧.
6)沖縄県 2017. 『レッドデータおきなわ 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版(菌類編・植物編)』
7)Yi, T. S., Li, H., & Li, D. Z. (2005). Chromosome variation in the genus Pinellia (Araceae) in China and Japan. Botanical journal of the Linnean Society, 147(4), 449-455.
8)邑田仁 2018. 『日本産テンナンショウ属図鑑』北隆館.
9)Matsumoto, T. K., Onoue, M., Miyake, T., Ohnishi, K., Takazoe, K., Hirobe, M., & Miyazaki, Y. (2023). Gall midge pollination and ant-mediated fruit dispersal of Pinellia tripartita (Araceae). Plant Ecology, 224(1), 59-72.
10)Cui, N., Chen, W., Li, X., & Wang, P. (2022). Comparative chloroplast genomes and phylogenetic analyses of Pinellia. Molecular Biology Reports, 49(8), 7873-7885.
編集履歴
2024/4/1 公開
2024/12/25 識別用比較画像の差し替え