カラスビシャク Pinellia ternata

植物 > 被子植物 > オモダカ目 > サトイモ科 > ハンゲ属

京都市左京区 2015/4/22
※分布図は目安です。

分布1,2,4,5,6):北海道~琉球。琉球では少なくとも沖縄島ではサトウキビ畑の雑草として見られる6)。沖永良部島や与那国島でも標本記録があるようだが現状不明4,5)。奄美群島や先島諸島のその他の島には知られていない模様4,5)。自然帰化植物ともされる1)。国外では朝鮮半島、中国。

畑や路傍などに生えるサトイモ科の多年草。葉柄にむかごをつけるほか、地下に球茎をつけ、種子でも繁殖するなど多様な繁殖戦略を持つ。ポリネーターはハエの仲間で、果実はアリなどによって散布される。

カラスビシャクの概要

花期1)5-8月。
希少度★★(普通)
生活形1)球茎のある多年草
生育環境1)畑に雑草として見られる
学名3)ternata「3つずつになった(3出の)」

カラスビシャクの形態

京都市左京区 2015/4/22

花序は肉穂花序で、葉より高い位置につく。
付属体(糸状の器官)は6-10㎝1)、基部が暗紫色のことが多い。

大阪府茨木市 2014/7/19

仏炎苞は全体緑色、ときに紫色を帯びる1)

京都市左京区 2016/7/15

雄しべ・雌しべは仏炎苞の内部にあり、外からは見えない。
上部に雄花群、下部に離れて雌花群がつく。
画像では分かりにくいが雄花群は花軸が仏炎苞から離れている部分につき、雌花群は花軸が仏炎苞と合着している部分の片側のみにつく2)
花被はなく、雄しべは葯のみからなる2)

大阪府茨木市 2014/7/19

仏炎苞は内面が有毛、外面は無毛1)

大阪府茨木市 2014/7/19

葉は3小葉からなる。
小葉は長さ3-12㎝、短い柄がある1)

大阪府茨木市 2014/7/19

葉は表裏とも無毛。

京都市左京区 2014/5/25

葉は3つに分裂するが、はじめは単葉。

京都市左京区 2014/7/18

葉を1枚付けた株。

むかご(珠芽)

京都市左京区 2016/7/15

小葉の基部または葉柄下部にむかごをつける。
むかごは栄養繁殖器官の一種である。

京都市左京区 2016/7/15

葉柄下部にむかごをつけた株。

識別

葉は独特の形状で見分けやすく、識別に困ることはふつうない。
花は同属のオオハンゲと似る。

オオハンゲとの識別

同属のオオハンゲはカラスビシャクよりも山地寄りで見られ、花がよく似る。
オオハンゲの葉はカラスビシャクと異なり完全に分裂せず3深裂となるほか、むかごはつけない。
葉の質感も大きく異なるため迷うことはあまりない(下記比較画像参照)。

また、同属のショウヨウハンゲが時に帰化しているが、葉が全く異なり鳥足状に裂ける。

カラスビシャクの生態

複数の繁殖様式

カラスビシャクは葉柄につくむかご(珠芽)、地下につく球茎、そして種子という3つの繁殖様式を有している。
これらの繁殖様式の使い分けとしては、主にむかごと球茎によって栄養繁殖し、球茎の重量が一定以上になると花をつけることが知られている7)

ポリネーターと開花特性

カラスビシャクの花は雌性先熟で、雌性期と雄性期が重なる場合に自殖が可能であるとされるが、その結実率はポリネーター(送粉者)に大きく依存している。
福島県における研究では、タマバエ科およびヌカカ科の3種のハエが訪花し、ポリネーターとして機能していることが報告されている8)
花序から伸びる糸状の付属体を切除するとこれらのハエは訪花しなかったことから、付属体がハエを誘引する機能を誘引していることが示唆されている8)

種子散布

福島県での研究で、カラスビシャクの果実がクロヤマアリによって運搬され、クサノオウと同程度の嗜好性を示したことが報告されている9)
また果実が水に浮くことから、降雨によって運ばれる可能性も指摘されている9)
なお、同属のオオハンゲにおいてもアリ散布の可能性が指摘されている10)

種内変異

変異が多く、品種がいくつか知られる1)
シカハンゲ(ホソバハンゲ) f. angustataは小葉が線形のもの。
ヤマハンゲ f. subcuspidataは小葉の先が長く伸びるもの。
ムラサキハンゲ f. atropurpureaは苞の内面が暗紫色のもの。

分類

本種の属するハンゲ属はテンナンショウ属と姉妹群を形成するとされ、互いに非常に近縁である11,12)
テンナンショウ属とは、ハンゲ属の肉穂花序の軸が仏炎苞と合着する(テンナンショウでは分離する)点において区別される11)

文献

1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)林弥栄・門田裕一・平野隆久 2014. 『山渓ハンディ図鑑1 野に咲く花 増補改訂新版』山と渓谷社.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)琉球の植物研究グループ 国立科学博物館 2018-.『琉球の植物データベース』 https://www.kahaku.go.jp/research/activities/project/hotspot_japan/ryukyus/db/ 2021/8/21閲覧.
5)堀田満, & ホッタミツル. (2004). 奄美群島の稀少・固有植物種の分布地域について.
6)石嶺行男. (1990). 沖縄県におけるサトウキビ畑の雑草相と雑草群落.
7)冨永達, & 中垣明子. (1997). Corm Weight-Dependent Reproduction of Pinellia ternata. 雑草研究42(1), 18-24.
8)志田隆文, & 冨永達. (2016). カラスビシャクの送粉者とその行動特性. 東北の雑草15, 1-5.
9)志田隆文, & 冨永達. (2014). カラスビシャク (Pinellia ternata) 果実のアリ散布と水散布の可能性. 東北の雑草= Tohoku weed journal/東北雑草研究会 編, (13), 20-22.
10)Matsumoto, T. K., Onoue, M., Miyake, T., Ohnishi, K., Takazoe, K., Hirobe, M., & Miyazaki, Y. (2023). Gall midge pollination and ant-mediated fruit dispersal of Pinellia tripartita (Araceae). Plant Ecology224(1), 59-72.
11)邑田仁 2018. 『日本産テンナンショウ属図鑑』北隆館.
12)Cui, N., Chen, W., Li, X., & Wang, P. (2022). Comparative chloroplast genomes and phylogenetic analyses of Pinellia. Molecular Biology Reports49(8), 7873-7885.

編集履歴

2024/4/1 公開