植物 > 被子植物 > オモダカ目 > サトイモ科 > テンナンショウ属
分布1,2):本州(愛知県・福井県以西)、四国、九州、琉球(~八重山)。関東地方でも栽培からの逸出帰化が見られる。国外では韓国南部、台湾、中国。
3小葉に分かれる大きな葉を持つテンナンショウの仲間。暖地の海岸付近に多く、葉に隠れるようにして特殊な形態の花を咲かせる。葉の似ているオオハンゲと間違えないように注意。
ムサシアブミの概要
花期2) | : | 2-4月ごろ |
希少度 | : | ★★(普通) |
生活形 | : | 多年草 |
生育環境1,2) | : | 暖帯~亜熱帯の沿海地のやや湿った林下など |
学名3) | : | ringens「口を大きく開けた」 |
和名1) | : | 花序が武蔵国で作った鐙(あぶみ)の形に似ていることから |
ムサシアブミの形態
花
仏炎苞は外面が緑色、内面が黒紫色または緑色。
口部は著しく耳状に張り出し、内面と同色。
琉球には仏炎苞全体が緑色のものが多い2)。
舷部は中央部が袋状になって湾曲する2)。
写真からは分からないが、花序付属体は純白2)。
葉
葉は2個で同大、3小葉に分裂する。
偽茎部は短く、葉柄部ははるかに長い。
類似のオオハンゲは小葉が完全に分離せず、3深裂となる。
小葉は雌株では30㎝以上となることもあり2)、非常に大型で一見して本種と分かる。
鋸歯はない(全縁)。
果実
未熟な果実。
果実は11月ごろ以降に熟す2)。
熟す頃には葉は枯れている。
識別
本種は葉・花序ともに非常に特徴的で、テンナンショウ属の中に似た種はいない。
他に葉が常に3小葉となるのはミツバテンナンショウだけだが、主に山地に生え、葉は小型で細かい鋸歯があること、花序の形態の違いなどで識別は容易。
むしろ生育環境の似る別属のオオハンゲの葉との識別に注意する必要がある。
比較画像を含む詳細はオオハンゲのページを参照。
ムサシアブミの生態
性転換
雌雄偽異株で、株の成長に伴い雄株から雌株に性転換する2)。
分類
本種(ムサシアブミ)は葉緑体DNAの解析から、マムシグサ節の中でヒロハテンナンショウの仲間とユモトマムシグサを合わせたグループと姉妹群を形成するとの結果が得られている2)。
また、マムシグサ節を形態に基づいて3つの亜節に分ける場合、ムサシアブミは発芽第1葉が単葉でありながら胚珠数が極端に少ないことから他種とは別の亜節Ringentia(裸名)とされている2,4,5)。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)邑田仁・大野順一・小林禧樹・東馬哲雄 2018. 『日本産テンナンショウ属図鑑』北隆館.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)小林禧樹. (2016). テンナンショウ属の研究ノート―発芽第一葉, 胚珠数, 染色体数と分類―. 植物研究雑誌, 91(suppl), 128-137.
5)Ohi-Toma, T., Wu, S., Murata, H., & Murata, J. (2016). An updated genus-wide phylogenetic analysis of Arisaema (Araceae) with reference to sections. Botanical Journal of the Linnean Society, 182(1), 100-114.
編集履歴
2024/12/27 公開