植物 > 被子植物 > オモダカ目 > サトイモ科 > テンナンショウ属
分布1,2):静岡県、山口県、四国、九州。分布の中心は四国。日本固有種。
3枚の小葉に分かれる特徴的な葉をつけるテンナンショウの仲間。地下に走出枝を出して群生するなど、生態的にも特殊な性質を持った種である。
ミツバテンナンショウの概要
花期2) | : | 4-5月ごろ |
希少度 | : | ★★(普通) |
生活形 | : | 多年草 |
生育環境1,2) | : | 山地の林下。急傾斜の岩礫地に多い。四国ではブナ帯の沢沿いの急斜面でよく見られる。 |
学名3) | : | ternatipartitum「3つに分かれた(深裂の)」 |
ミツバテンナンショウの形態
花
仏炎苞は紫褐色で、口部はミミガタテンナンショウと同じように幅広く開出する。
花序付属体は仏炎苞と同色、棒状~太棒状で直立する2)。
花序は葉身より先に展開する2)。
仏炎苞舷部は卵形2)。
偽茎部、花序柄、葉柄の長さはそれぞれほぼ同じ2)。
地下に走出枝を出して子株を形成し、群生する。
葉
葉は1個または2個で、3小葉に分裂する。
葉がすべて3出複葉となるテンナンショウ属は日本では本種とムサシアブミだけである。
微細な鋸歯。
よく見ないと気付きづらいが、本種の葉の大きな特徴のひとつである。
果実
若い果実。
果実は10月ごろに熟す2)。
若い果実。
識別
ムサシアブミとの識別
テンナンショウ属には識別の難しい種が多いが、本種は葉が3小葉という特徴のため非常に見分けやすい。
ムサシアブミも葉が3小葉だが、全体的により大型になり、葉に鋸歯はなく、仏炎苞は地際につき形態が大きく異なる。
また、同じサトイモ科のオオハンゲとも葉が一見似ているため注意。
早咲きテンナンショウ属との識別
なお、本種は葉身よりも花序の方が先に展開するが、葉が展開前で花序のみだと識別の難易度が上がる。
同様に早咲き(花序が先)の種としては以下のようなものがある。葉があれば識別は容易。
ミミガタテンナンショウはほぼ分布が被らないが、花の形態が似ている。仏炎苞筒部に縦の白条が目立つ点が異なる。
ヒガンマムシグサも仏炎苞筒部に縦の白条が目立つ。
ホソバテンナンショウは静岡のみ分布が被るが、仏炎苞が緑色、仏炎苞口部の張り出しも弱い。
ユモトマムシグサやその亜種・変種も仏炎苞口部が耳状に張り出さない。
マムシグサは四国・九州の広い範囲に分布し、変異が大きいが、仏炎苞口部はあまり開出せず、四国では仏炎苞が緑色の株が多い。
ミツバテンナンショウの生態
性転換
雌雄偽異株で、株の成長に伴い雄株から雌株に性転換する2)。
走出枝による栄養繁殖
本種は花後、球茎からいわゆる「地下走出枝(匍匐枝)」1,2)を出して先端に小イモを作ることで栄養繁殖を行う。
そのため群生状態となっていることが多い。
ウラシマソウなども小イモで盛んに栄養繁殖するが、球形に直接小イモをつける点が異なっており2)、ミツバテンナンショウのような小イモの作り方は独特である。
斜面に群生するミツバテンナンショウ。
分類
本種(ミツバテンナンショウ)はマムシグサ節の中でも形態的に特殊であり、葉緑体DNAの解析においても他の大部分のマムシグサ節の種と系統的に離れていることが示唆されている2)。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)邑田仁・大野順一・小林禧樹・東馬哲雄 2018. 『日本産テンナンショウ属図鑑』北隆館.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
編集履歴
2024/12/25 公開