植物 > 被子植物 > オモダカ目 > サトイモ科 > テンナンショウ属
分布1,2):東北(太平洋側)、関東、中部(太平洋側の関東に隣接する地域)、兵庫県淡路島、高知県沖の島、大分県。日本固有種。主要な分布域は関東周辺。
その名の通り、耳状に張り出す仏炎苞口部が特徴のテンナンショウの仲間。ヒガンマムシグサ群と呼ばれるグループに含まれ、葉よりも早く花序を展開する所謂「早咲き」の特徴を有する。
ミミガタテンナンショウの概要
花期2) | : | 3~5月ごろ |
希少度 | : | ★★(普通) |
生活形 | : | 多年草 |
生育環境2) | : | 林下、林縁 |
学名3) | : | limbatum「縁どられた」 |
ミミガタテンナンショウの形態
花
花序は葉より先に展開する。
仏炎苞は黒紫色、紫褐色または黄褐色で縦の白条が目立ち、ごく稀に緑色2)。
仏炎苞の口部は耳状に広く張り出す。
花序の付属体は棒状。
葉・全草
花序が葉よりも先に展開するのが大きな特徴。
偽茎部は葉柄部より長い2)。
葉は通常2枚、小葉は7-11枚で葉軸がやや発達する2)。
しばしば中脈に沿って白斑が入る2)。
果実
果実は7-8月に熟す2)。
識別
本種は典型的なものでは仏炎苞口部の張り出しが著しく、個体差の激しいテンナンショウ属の中では比較的識別しやすい。
また葉よりも花序が先に展開するのも重要な特徴である。
ただしヒガンマムシグサとはよく似ており、また典型から外れるものではその他の種との識別にも注意する必要がある。
ヒガンマムシグサとの識別
葉より花序が先に展開する点や花序の形態など、ヒガンマムシグサと非常によく似ている。
仏炎苞口部の耳状部の発達度合いが異なり、検索表では8㎜より広ければミミガタテンナンショウ、狭ければヒガンマムシグサとされているが、小型の株では識別は困難2)。
早咲きテンナンショウ属との識別
他に早咲き(小葉より花序の方が先に展開する)の種で、かつ関東周辺で分布が重複する種としてはホソバテンナンショウ、オドリコテンナンショウ、ユモトマムシグサなどがある。
ホソバテンナンショウやオドリコテンナンショウはいずれも仏炎苞が緑色、仏炎苞口部の張り出しも弱い。
ユモトマムシグサやその亜種・変種は小葉間の葉軸が発達せず、偽茎部の開口部が襟状に開出しない。
ミミガタテンナンショウの生態
性転換
雌雄偽異株で、株の成長に伴い雄株から雌株に性転換する2)。
種子散布
本種はテンナンショウ属の中では早い夏季に果実が熟し、ヒヨドリが重要な種子採食者であることが分かっている4,5)。
果実が夏季に熟す本種や他のヒガンマムシグサ群ではヒヨドリがほぼ唯一の採食者となっているのに対し、秋に熟すカントウマムシグサではシロハラやヤマドリ、ルリビタキ等多種の鳥が採食していることが報告されている4,5)。
分類
なお、本種(ミミガタテンナンショウ)はヒガンマムシグサやタカハシテンナンショウ、ナガバマムシグサ、ハリママムシグサと共にヒガンマムシグサ群(ナガバマムシグサ群)というグループとして認識されており、早咲きや、葉軸があまり発達しないといった特徴を共有している。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)邑田仁・大野順一・小林禧樹・東馬哲雄 2018. 『日本産テンナンショウ属図鑑』北隆館.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)小林禧樹, 北村俊平, & 邑田仁. (2017). 日本産テンナンショウ属 (サトイモ科) の果実熟期の分化と鳥類による種子散布. 植物研究雑誌, 92(4), 199-213.
5)Suzuki, T., & Maeda, N. (2014). Frugivores of poisonous herbaceous plants Arisaema spp.(Araceae) in the southern Kanto district, central Japan. J. Yamashina Inst. Ornithol, 45(2), 77-91.
編集履歴
2024/12/16 公開