イワショウブ Triantha japonica

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岩手県八幡平市(標高約900m) 2023/7/23
※分布図は目安です。

分布1):本州(西限は広島県)。日本固有種。

亜高山帯の湿原に分布するチシマゼキショウ科の多年草。花が各節に3個ずつ付く点や、花序に腺状突起があって粘る点に注目して観察すると面白い。北米産の同属種は食虫植物であることが最近確かめられており、本種ももしかすると食虫植物なのかもしれない。

イワショウブの概要

花期1,2)(7下)8-9月(10上)
希少度★★★(やや稀)
生活形1)草丈20-50㎝程度の多年草
生育環境2)亜高山帯の湿原。一部低標高の産地もある
学名3)japonica「日本の」

イワショウブの形態

愛知県豊橋市(標高約70m) 2018/9/24

花序は長い花茎の先につき、側枝が退化した複総状花序1)
各節に花が3個ずつ付くのが特徴である。

愛知県豊橋市(標高約70m) 2018/9/24

花は両性で3数性、放射相称(本科共通)1)
花被片は6個、雄蕊も6個、花柱は3本。

岐阜県飛騨市(標高約1400m) 2014/9/21

花柄や花茎上部に腺状突起が多くあり、粘つくのも大きな特徴である。
花が3個ずつ出ている点にも注目。

岐阜県飛騨市(標高約1400m) 2014/9/21

葉は線形で長さ5-40㎝1)
「ショウブ」と和名にあるように、ショウブやアヤメの仲間に似た形をしている。

識別

イワショウブ属は日本に本種のみ。
ヒメイワショウブやチシマゼキショウ(いずれもチシマゼキショウ属)とやや似ている。

ヒメイワショウブやチシマゼキショウとの識別

イワショウブでは花序や花柄に腺状突起があって粘つくが、ヒメイワショウブなどチシマゼキショウ属にはそのような特徴はない。
またイワショウブの花は各節に3個ずつ付くのに対し、チシマゼキショウ属では1個ずつ付く1)
種子にも違いがあり、イワショウブの種子には尾があるがチシマゼキショウ属の種子には尾がない1)

イワショウブ属について

イワショウブ属はかつてチシマゼキショウ属に含められていたが、それぞれの単系統性が示されており4)、また形態的にも異なることから現在では別属とされる1)

食虫植物?

北米に分布するイワショウブ属のTriantha occidentalisは花茎の腺状突起でハエやコウチュウを捕らえることが知られており、2021年に同位体分析の結果から食虫性が確かめられた5)
ポリネーターとして重要な大型のハチやチョウなどはトラップされないことから、送粉には影響のないようになっていると考察されている。
日本産の本種(イワショウブ)の食虫性に関しては未解明である。

文献

1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)門田裕一・永田芳男・畔上能力 2013. 『山渓ハンディ図鑑2 山に咲く花 増補改訂新版』山と溪谷社.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)TAMURA, M. N., AZUMA, H., YAMASHITA, J., FUSE, S., & ISHII, T. (2010). Biosystematic studies on the family Tofieldiaceae II.: Phylogeny of species of Tofieldia and Triantha inferred from plastid and nuclear DNA sequences. Acta Phytotaxonomica et Geobotanica60(3), 131-140.
5)Lin, Q., Ané, C., Givnish, T. J., & Graham, S. W. (2021). A new carnivorous plant lineage (Triantha) with a unique sticky-inflorescence trap. Proceedings of the National Academy of Sciences118(33), e2022724118.

編集履歴

2025/2/9 公開