ヒメカイウ Calla palustris

植物 > 被子植物 > オモダカ目 > サトイモ科 > ヒメカイウ属

北海道鶴居村 2016/6/25
※分布図は目安です。

分布1,2,4,5,6,7):北海道、本州(東北~中部)。北海道が分布の中心であり、本州では局地的。少なくとも東北6県と群馬県、新潟県、長野県、富山県には分布するようである。福島県でも確認されている7)。国外では北半球の冷温帯に広く分布。

ミズバショウを小さくしたような花序が特徴的なサトイモ科の多年草。北半球の冷温帯に広く分布し、日本でも寒冷地の湿地で観察できる。実はミズバショウとはあまり近縁ではなく、サトイモ科の進化を考えるうえで重要な存在でもある。

ヒメカイウの概要

花期1)6-7月。
希少度★★★(やや稀)
生活形1)長い根茎のある多年草
生育環境1,2)低地から山地の水湿地
学名3)palustris「沼地の」

ヒメカイウの形態

北海道鶴居村 2016/6/25

ミズバショウと異なり、葉と同時に展開するのが特徴である。
花はサトイモ科特有の肉穂花序で、白い仏炎苞が目立つ。

北海道鶴居村 2016/6/25

白い仏炎苞は長さ4-6㎝、肉穂花序は1.5-3㎝。
ミズバショウより明らかに小さい。
ミズバショウにあるような仏炎苞の筒部はヒメカイウにはない。

北海道鶴居村 2016/6/25

ミズバショウやザゼンソウとは別属であり、花の構造もある程度異なる。
個々の花にはミズバショウやザゼンソウにあるような花被がなく、6個の雄しべが緑色の子房を囲んでいる。
花は両性で、花序の頂部のみ雄性の場合がある。

北海道鶴居村 2016/6/25

葉は心形で、ミズバショウよりむしろザゼンソウに近い形。
葉身長は7-14㎝でザゼンソウよりかなり小さい。

北海道鶴居村 2016/6/25

葉柄は長さ10-25㎝。

識別

ミズバショウとの識別

花は一見ミズバショウに似るが、はるかに小型であり葉も異なるため識別は容易。
花の構造も異なる。
また、葉の形はむしろザゼンソウに似るが、大きさが異なるため通常迷うことはない。

ヒメカイウの生態

ポリネーターと開花特性

海外の例では、ヒメカイウの送粉者の候補としてハナアブ科のハエやハムシ科のコウチュウの報告がある8)
一方で自家受粉またはアポミクシス(無融合生殖)も可能なようである8)
花は雌性先熟だが、雌しべの時期と雄しべの時期には時にオーバーラップがある8)
なお、本種ではザゼンソウで知られるような花序の発熱はなく、ヒトに感じられるレベルの臭気もないという8)

種子散布

海外の観察例ではヒメカイウの種子は30日以上水面に浮遊するという9)
これによってヒメカイウは種子を水流によって散布すると考えられている。

分類

ヒメカイウ属はヒメカイウ1種からなる単型属である1)
サトイモ科内におけるヒメカイウ属の系統的な位置については考察が難しく、時代によって扱いが大きく変わってきた10,11)
サトイモ科には原始的な両性花のグループと、進化の進んだ単性花のグループが存在するが、ミズバショウザゼンソウが両性花のグループに属するのに対し、ヒメカイウは両性花でありながら単性花のグループであるサトイモ亜科に属するとされる11)
すなわち、ヒメカイウはミズバショウに一見似ているが、系統的にはかなり離れた植物であるといえる。

文献

1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)門田裕一・永田芳男・畔上能力 2013. 『山渓ハンディ図鑑2 山に咲く花 増補改訂新版』山と溪谷社.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)NPO法人野生動物調査協会・NPO法人Envision環境保全事務所 『日本のレッドデータ検索システム』http://jpnrdb.com/index.html 2024年8月3日閲覧.
5)石沢進, 佐藤政二, & 中沢英正. (2006). 新潟県南部で分布限界の植物および南部に偏在する植物. じねんじょ= じねんじょ, (26), 70-86.
6)姉崎智子, 古木達郎, & 木口博史. (2019). 日本の貴重なコケの森 「群馬県奥利根水源の森と 田代湿原」. 蘚苔類研究12(2), 62-64.
7)関東森林管理局 2011. 平成22年度保護林の設定に向けた調査事業報告書. 林野庁ホームページ.
8)Jiménez, P. D., Hentrich, H., Aguilar-Rodríguez, P. A., Krömer, T., Chartier, M., & Gibernau, M. (2019). A Review on the Pollination of Aroids with Bisexual Flowers1. Annals of the Missouri Botanical Garden104(1), 83-104.
9)Belyakov, E. A., Lapirov, A. G., & Lebedeva, O. A. (2017). Ecology of seed germination and features of ontogeny of floating mat-forming hygrogelophyte Calla palustris (Araceae) under laboratory conditions. Biosystems Diversity25(4), 282-288.
10)Henriquez, C. L., Arias, T., Pires, J. C., Croat, T. B., & Schaal, B. A. (2014). Phylogenomics of the plant family Araceae. Molecular phylogenetics and evolution75, 91-102.
11)Haigh, A. L., Gibernau, M., Maurin, O., Bailey, P., Carlsen, M. M., Hay, A., … & Forest, F. (2023). Target sequence data shed new light on the infrafamilial classification of Araceae. American Journal of Botany110(2), e16117.

編集履歴

2024/9/23 公開