ミズバショウ Lysichiton camtschatcense

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岐阜県郡上市 2016/4/24
※分布図は目安です。

分布1,2):北海道、本州(兵庫県、および中部以北の日本海側)。海外ではカムチャツカ、サハリン、ウスリー1)

寒冷地の湿原で初夏に特徴的な花を咲かせるサトイモ科の植物。白いものは仏炎苞と呼ばれる部分である。蜜を作らず主にハエによって花粉媒介される植物で、種子は水流やツキノワグマによって散布される。

ミズバショウの概要

花期1)5-7月。
希少度★★★(やや稀)
生活形1)多年草
生育環境1,2)湿原やまばらな林下の湿地に群落を作る。
学名3)camtschatcense「カムチャツカ半島の」

ミズバショウの形態

長野県大町市 2015/5/2

花序は葉に先立って開き、花茎は10-30㎝1)
仏炎苞は筒部が長く、舷部は白色で長さ8-15㎝1)

長野市 2015/5/2

花は肉穂花序に多数つき、個々の花は径3.5-4㎜。

長野県大町市 2015/5/1

花は両性花で雌性先熟、下から咲き上がる4)
写真のものは上部が雌性期、下部が両性期。

長野県木曽町 2015/5/1

全体に葯が裂開した花序。
雌しべは1個、雄しべは4個1,4)

長野県木曽町 2015/5/1

葉は花より後に展開する。

北海道豊富町 2016/6/22

葉は花後に大きく生長し、長さ80㎝になる1)

識別

日本で見られる近似種としてヒメカイウがあるが、亜科レベルで異なる植物。
ヒメカイウはミズバショウより全体小型で、花には花被がなく、葉は心形。
ザゼンソウとは混生する場合があるが、仏炎苞が暗紫褐色で、葉はやや光沢があり心形。

ミズバショウとザゼンソウの比較

ミズバショウの生態

生育環境

岐阜県郡上市 2016/4/24

ある程度明るい環境の湿原に群生する。

ポリネーター

本種は自家受粉のほか、主にハエ目昆虫によって花粉が媒介されると推定されている4,7)
本種は蜜を作らないため7)、香りによって送粉者を誘引していると考えられる。
また福島県の宮床湿原においては、複数のキヌツヤミズクサハムシがミズバショウを訪花し、全身に花粉がついていたとの報告がある9)

ただし花粉は小さく風によっても飛散することが知られており、短距離ながら風媒花としての性質も併せ持つ可能性が指摘されている7)

花序の温度

本種と同じサトイモ科ミズバショウ亜科に属するザゼンソウは、花序が発熱することが知られている8)
一方のミズバショウは花序が自ら発熱することはないが、日光の当たる場所において花序の温度が周囲より高かったことが報告されており7)、これによって低温から花序を守るなど何かしらの利益を得ているのかもしれない。

種子散布

流水散布

本種の種子は全体が透明なゼリー状の物質に包まれており、雨水や湿原を流れる水などの流水により散布される5)

ツキノワグマによる散布

ツキノワグマは本種の果序を食べることが知られている6)
糞から取り出された種子が10個のうち7個発芽した例があることから、ツキノワグマによる被食散布が本種の分布拡大に重要な役割を担っている可能性が指摘されている5)

成長速度

居谷里湿原の個体を用い、現地の条件を模して栽培した実験から、発芽から開花まで8年を要した例が報告されている4)

近縁種

ミズバショウ属には、本種とアメリカミズバショウLysichiton americanusの2種のみが属する1)
アメリカミズバショウは北米西部に分布し、仏炎苞の舷部が黄色いことからキバナミズバショウとも呼ばれる。

文献

1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)門田裕一・永田芳男・畔上能力 2013. 『山渓ハンディ図鑑2 山に咲く花 増補改訂新版』山と溪谷社.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)千葉悟志, & 尾関雅章. (2017). 居谷里湿原 (長野県大町市) におけるミズバショウの生活史について 日本産草本植物の生活史研究プロジェクト報告第 8 報. 市立大町山岳博物館研究紀要2, 27-34.
5)田中肇. (1997). ミズバショウの種子散布. 植物研究雑誌72(6), 357-357.
6)金井弘夫. (1997). ミズバショウの果実の味. 植物研究雑誌72(1), 65-65.
7)田中肇. (1998). ミズバショウの受粉生態学的研究. 植物研究雑誌73(1), 35-41.
8)Ito-Inaba, Y. (2014). Thermogenesis in skunk cabbage (Symplocarpus renifolius): New insights from the ultrastructure and gene expression profiles. Advances in Horticultural Science28(2), 73-78.
9)上野隆平. (1995). 宮床湿原の訪花昆虫. 国立環境研究所研究報告, 134, 89-95.

編集履歴

2024/3/23 公開