ヒメイワショウブ Tofieldia okuboi

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富山県立山町(北アルプス室堂平) 2017/7/22
※分布図は目安です。

分布1):北海道、本州(中部地方以北)。南千島にも分布する。

亜高山帯~高山帯に生えるチシマゼキショウの仲間。花の色のほか、葉の尖り具合が識別のポイントとなる。イワショウブとは近年では別属とされる。

ヒメイワショウブの概要

花期1,2)7-8月
希少度★★★(やや稀)
生活形2)草丈5-15㎝程度の多年草
生育環境2)亜高山帯~高山帯
学名3)okuboi…東京帝国大学大久保三郎氏への献名

ヒメイワショウブの形態

富山県立山町(北アルプス室堂平) 2017/7/22

花は両性、放射相称の3数性(本科共通)1)
花被片は淡緑白色で6個、外片3個と内片3個は同質1)
雄蕊は6個、花柱は3本。

北海道東川町(旭岳) 2020/7/25

葉はアヤメ属に似た剣状で、中央脈で折りたたまれて裏側が外を向いている1)
葉先が急に細くなって尖る(先端ぎりぎりまで幅広い)のがチシマゼキショウとの識別点の一つ。
鋸歯があることがハナゼキショウの仲間との識別点とされるが、よく見ないと確認しづらい。

識別

チシマゼキショウ属には12種があるとされ1)、日本には本種を含め5種が分布する(一覧は科のページを参照)。
最も似ているのはチシマゼキショウである。
また別属ではあるが、イワショウブとも似る。
まったく近縁ではないが、オゼソウやネバリノギランと間違えないように注意。

チシマゼキショウとの識別

チシマゼキショウは北海道から九州(一部)にかけて分布し、変異が多い。
花序の見た目としては、ヒメイワショウブの花被片が緑色を帯びるのに対し、チシマゼキショウの花被片は白に近い。
また葉に違いがあり、ヒメイワショウブでは葉幅が2-6㎜と太く、先端付近で急に狭まるのに対し、チシマゼキショウの葉は幅が2-3(4)㎜と細く、先が徐々に細まり鋭くとがる1,2,4)
なお、蒴果が花被片より明らかに長く直立するのがヒメイワショウブで、わずかに長い程度でしばしば下を向くのがチシマゼキショウ1)

ハナゼキショウの仲間との識別

ハナゼキショウ、ヤクシマチャボゼキショウ、ヤシュウハナゼキショウおよびそれらの変種はいずれも花柄が長く、花被片も白いため一見して見た目が異なる。
また葉に鋸歯がないのもチシマゼキショウやヒメイワショウブとの識別点とされるが、よく見ないと確認しづらいため注意。

イワショウブとの識別

ヒメイワショウブはチシマゼキショウ属、イワショウブはイワショウブ属であり属が異なる(同属とされたこともあり近縁な属ではある)。
イワショウブでは花序や花柄に腺状突起があってねばつくのが顕著な特徴。
またイワショウブの花は各節に3個ずつ付くのに対し、ヒメイワショウブなどチシマゼキショウ属では1個ずつ付く1)

オゼソウとの識別

オゼソウは目レベルで異なるやや縁遠い種であるが、一見して草姿がやや似る。
オゼソウのほうが明らかに花数が多く、内花被片が外花被片より長い(ヒメイワショウブでは同長)。
北海道~本州中部の限られた山に自生する。

分類

葉緑体(trnK)および核DNA(ITS)を用いた系統解析の結果、本種は地理的に離れた北米のT. glabraと近縁であることが示唆され、また北米~ヨーロッパ北部にかけて分布するT. pusillaを加えて3種で1つのクレードを形成するとの結果が示された4)
これら3種は葉が先端で急に細くなる(一方のチシマゼキショウT. coccineaなどでは葉先が徐々に細くなって鋭くとがる)という形質を共有しており、本属においては葉先の形態が分類形質として重要であると考えられた4)

文献

1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)清水建美・門田裕一・木原浩 2014. 『山渓ハンディ図鑑8 高山に咲く花 増補改訂新版』山と渓谷社.
3)牧野富太郎 1940. 『牧野日本植物図鑑』北隆館.
4)TAMURA, M. N., AZUMA, H., YAMASHITA, J., FUSE, S., & ISHII, T. (2010). Biosystematic studies on the family Tofieldiaceae II.: Phylogeny of species of Tofieldia and Triantha inferred from plastid and nuclear DNA sequences. Acta Phytotaxonomica et Geobotanica60(3), 131-140.

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2025/2/8 公開