ヒガンマムシグサ Arisaema aequinoctiale

植物 > 被子植物 > オモダカ目 > サトイモ科 > テンナンショウ属

静岡県裾野市 2023/5/4
※分布図は目安です。

分布1,2):本州(関東、中部、中国)、四国。日本固有種。房総半島では海岸付近を含む照葉樹林に生え、カントウマムシグサとほぼ置換する2)。それ以外では低山地に分布し数が少ない2)。筑波山や妙義山など、関東の一部ではミミガタテンナンショウと混生する2)

葉よりも早く花序を展開する、いわゆる「早咲き」のテンナンショウの仲間。ミミガタテンナンショウなどと共に「ヒガンマムシグサ群(ナガバマムシグサ群)」と呼ばれるグループの一員として認識されている。

ヒガンマムシグサの概要

花期2)3~4月ごろ
希少度★★★(やや稀)
生活形多年草
生育環境2)低山地~海岸付近の林床
学名3)aequinoctiale「赤道地域の」

ヒガンマムシグサの形態

静岡県裾野市 2023/5/4

花序は葉より先に展開し、花序柄は少なくとも花時には葉柄より長い2)
仏炎苞は紫褐色~黄褐色、ごく稀に黄緑色2)
口部は耳状に開出するが、ミミガタテンナンショウよりも開出幅は狭い2)
付属体は棒状。

葉は通常2枚、小葉は(5-)7-13枚で葉軸はやや発達する2)
小葉には時に鋸歯があり、しばしば白斑が入る。

果実

果実は7-8月に熟す2)

識別

本種はテンナンショウ属の例にもれず、形態的な変異が大きいため種同定には慎重になる必要がある。

ミミガタテンナンショウとの識別

葉より花序が先に展開する点や花序の形態など、ミミガタテンナンショウと非常によく似ている。
仏炎苞口部の耳状部の発達度合いが異なり、検索表では8㎜より広ければミミガタテンナンショウ、狭ければヒガンマムシグサとされているが、小型の株では識別は困難2)

早咲きテンナンショウ属との識別

他に早咲き(小葉より花序の方が先に展開する)の種としてはマムシグサやウワジマテンナンショウ、イシヅチテンナンショウ、ユモトマムシグサなどがある。
マムシグサは四国~九州に分布し、形態的に変異に富む。偽茎部の斑が赤紫褐色で目立つ傾向。小葉は9-17枚2)。染色体数や胚珠数が異なる2)
ウワジマテンナンショウは四国南西部に限って分布し、小葉が9-21枚と多い2)
イシヅチテンナンショウは四国の高標高地に生え、花序の付属体は太く、葉はふつう1枚、小葉は5(-7)枚と少ない2)
ユモトマムシグサやその亜種は小葉間の葉軸が発達せず、偽茎部の開口部が襟状に開出しない2)
なお、ムロウテンナンショウ、ホソバテンナンショウ、ウメガシマテンナンショウなども花序が葉よりやや早く展開する傾向があるが、これらの種の仏炎苞は通常緑色である2)

ヒガンマムシグサの生態

性転換

雌雄偽異株で、株の成長に伴い雄株から雌株に性転換する。

タカハシテンナンショウとの棲み分け

広島県では同じヒガンマムシグサ群のタカハシテンナンショウと本種がそれぞれ分布しているものの、分布は重ならず、西にヒガンマムシグサ、東にタカハシテンナンショウという棲み分けがなされていることが報告されている5)

分類

邑田ほか(2018)2)におけるヒガンマムシグサは、西日本の「ヨシナガマムシグサ」および箱根地域の「ハウチワテンナンショウ」を含む。
ヨシナガマムシグサA. yosinagaeとハウチワテンナンショウA. stenophyllumはそれぞれ徳島県産、箱根産の標本をもとに記載されたもので、形態的に区別できないとしてのちにヒガンマムシグサと同種とされた(Kobayashi et al. 2003)。

なお、本種(ヒガンマムシグサ)はミミガタテンナンショウやタカハシテンナンショウ、ナガバマムシグサ、ハリママムシグサと共にヒガンマムシグサ群(ナガバマムシグサ群)というグループとして認識されており、早咲きや、葉軸があまり発達しないといった特徴を共有している。

文献

1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)邑田仁・大野順一・小林禧樹・東馬哲雄 2018. 『日本産テンナンショウ属図鑑』北隆館.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)KOBAYASHI, T., MURATA, J., SUZUKI, T., & WATANABE, K. (2003). Taxonomic revision of the Arisaema undulatifolium group (Araceae). Acta Phytotaxonomica et Geobotanica54(1), 1-17.
5)小林禧樹, 池田博, 渡辺邦秋, 山本伸子, & 邑田仁. (2008). 中国地方におけるナガバマムシグサ群 (サトイモ科) の地理的分布: 広島県内でみられるヒガンマムシグサとタカハシテンナンショウの棲み分け. 分類8(2), 149-156.

編集履歴

2024/12/15 公開