ハリママムシグサ Arisaema minus

植物 > 被子植物 > オモダカ目 > サトイモ科 > テンナンショウ属

兵庫県 2016/4/17
※分布図は目安です。

分布1,2):兵庫県固有種。

兵庫県固有のテンナンショウ属2種のうちの1種。仏炎苞がしばしば半透明となり美しい。葉が展開するよりも先に花序が出るのが大きな特徴である。

ハリママムシグサの概要

花期2)3~4月ごろ。
希少度★★★★(稀)
生活形多年草
生育環境2)低山地の林下、林縁など
学名3)minus「より小さい」

ハリママムシグサの形態

兵庫県 2016/4/17

花序は葉より先に展開する。
仏炎苞は紫褐色~黄褐色、ごく稀に緑色2)
しばしば半透明となる。

兵庫県 2016/4/17

花序付属体は棒状。

葉・全草

兵庫県 2016/4/17

葉は1-2枚で鳥足状に分裂し、葉軸がやや発達する2)
小葉は5-9枚で、時に細鋸歯や粗い波状鋸歯があり、しばしば中脈沿いに白斑が入る2)

兵庫県 2016/4/17

偽茎部は葉柄部と同長~やや長い。
花序が葉より明らかに先に展開するのが重要な特徴であるが、写真では展開しきっているためそれが伝わらない。

兵庫県 2016/4/17

偽茎部の斑紋は明瞭でない。

識別

本種は兵庫県の固有種とされているため、通常は分布から大きく絞ることができる。
本種、ハリママムシグサの主な特徴は以下。比較的特徴のはっきりした種である。

  • 花序が葉身よりも明らかに先に展開する
  • 仏炎苞が紫褐色~黄褐色でしばしば半透明
  • 付属体は棒状
  • 葉は小葉5-9枚で時に粗い波状鋸歯があり、しばしば白斑が入る

以下に、兵庫県に分布するテンナンショウ属を列挙する2,4)

ムロウテンナンショウは兵庫県で最も普通に見られるテンナンショウの一つで、仏炎苞が緑色、葉身とほぼ同時に展開する。また付属体の先が細くなってやや前に曲がり、先端が緑色の円頭となる。
キシダマムシグサ(ムロウマムシグサ)は分布西限が神戸市で、仏炎苞舷部の先が長く伸びる。果実の状態ではよく似るが、花梗(果梗)が葉柄よりも短い点で識別可能(ハリママムシグサでは葉柄よりも長くなる)6)
コウライテンナンショウも兵庫県で普通に見られ、変異が多いが、仏炎苞が基本的に緑色で葉より遅く展開する。
ホソバテンナンショウは兵庫県では六甲山の高標高地に多く、変異に富むためコウライテンナンショウなどとの識別が難しいが、いずれにせよ仏炎苞は緑色で、葉より明らかに早く展開することはない。
ウメガシマテンナンショウは花序が葉より明らかに早く展開する点が共通するが、仏炎苞が緑色。
カントウマムシグサは極めて変異に富み認識しづらい種だが、花序は葉身と同時~遅れて展開し、花序付属体の先が膨らむことが多い。仏炎苞は紫褐色~緑色。小葉は7-17枚。
ミヤママムシグサも仏炎苞が緑色で葉身より明らかに遅く展開する。
ヒロハテンナンショウは兵庫県では北部のブナ帯にあり、葉の葉軸が発達しない。
セッピコテンナンショウは極めて稀な兵庫県固有種で、花序は地表近くにつく。
他に兵庫県本土部に分布するテンナンショウ属として、ウラシマソウ、ナンゴクウラシマソウ、ムサシアブミ、ユキモチソウがある。

ハリママムシグサの生態

性転換

雌雄偽異株で、株の成長に伴い雄株から雌株に転換する。

種子散布

本種の果実はヒヨドリおよびヤマドリに食べられていることが確認されている7)
ただしヤマドリは種子をすりつぶしてしまうため、種子散布への貢献度は低いと考えられている7)
本種を含むヒガンマムシグサ群は果実が夏の速い時期に成熟し、種子散布へのヒヨドリの貢献度が高いことが推測されている7)

分類

ハリママムシグサはキシダマムシグサ(ムロウマムシグサ)A. kishidaeの変種として記載されたが5)、その後別種とされ、胚珠数が多いことからヒガンマムシグサ群(ナガバマムシグサ群)に近縁と推定されている2,4)

文献

1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)邑田仁・大野順一・小林禧樹・東馬哲雄 2018. 『日本産テンナンショウ属図鑑』北隆館.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)小林禧樹. (2004). テンナンショウ属からみた兵庫県のフロラ (Doctoral dissertation, Kanazawa University).
5)芹沢俊介. (1980). 日本産テンナンショウ属の再検討 (1) ナガバマムシグサ群. 植物研究雑誌55(5), 148-156.
6)小林禧樹. (1990). ハリママムシグサの新産地とその形質 (花梗の長さと胚珠数) について (Doctoral dissertation, Kanazawa University).

7)小林禧樹, 北村俊平, & 邑田仁. (2017). 日本産テンナンショウ属 (サトイモ科) の果実熟期の分化と鳥類による種子散布. 植物研究雑誌92(4), 199-213.

編集履歴

2024/12/13 公開
2024/12/15 種子散布に関する項目を追記