分布1,2):九州、天草諸島、屋久島。日本固有種。
九州で初夏のころに発生するトゲオトンボの仲間。本土産と屋久島産では遺伝的にも形態的にも差があることが知られている。2012年にヤエヤマトゲオトンボと別種とされ、独立種となった。
ヤクシマトゲオトンボの概要
出現時期1) | : | 5月中旬-7月下旬。時に4月や8月。 |
希少度 | : | ★★★(やや稀) |
全長1) | : | オス41-51㎜、メス37-44㎜ |
生息環境1,2) | : | 樹林に囲まれた河川源流域。山間の森林に囲まれた陰湿な澤の水が滴り落ちるような苔むした岩場など。 |
ヤクシマトゲオトンボの形態
オス
体色は独特で、九州産の他のトンボとは明らかに異なる。
一方で琉球列島の他のトゲオトンボ類とはよく似ている。
オス(別個体)。
翅の先端はわずかに色づく。
オス(別個体)。
写真は九州本土産だが、屋久島産のものは①腹部の黄色い環状紋が不明瞭で、②胸部前肩の細い黄色線が上縁に届く個体が多く、③体サイズが小さい、という違いがある(メスも同様)。
オス腹端の拡大。
「トゲオトンボ」の由来となった腹部第9節の突起が目立つ。
メス
メスはオスに似る。
オスと連結したメス(下、同一個体)。
識別
九州本土、天草諸島、屋久島に分布するトゲオトンボ科は本種のみのため、識別に迷うことはない。
トゲオトンボ科以外で特に似た種もいない。
生態
産卵
メスは単独でわずかに水の流れる植物組織内に産卵する1)。
幼虫期
弱鈴幼虫は岩盤上のコケや草の根の間に潜み、終齢幼虫は濡れた岩盤上のコケや落葉の下、岩の裂け目に体を密着させて生活している2)。
分類
本種は分布の離れたヤエヤマトゲオトンボRhipidolestes aculeatusの亜種とされてきたが、核DNAおよびミトコンドリアDNA解析のそれぞれにおいてヤエヤマトゲオトンボとは大きく離れていることが分かり、独立種とされた3)。
また種内においても九州本土個体群と屋久島個体群とで遺伝的分化が確認されており、形態的にも違いが見られる(上記参照)3)。
上記論文の研究成果により、日本産トゲオトンボ科は7種(+1亜種)となった3)。
文献
1)尾園暁・川島逸郎・二橋亮 2021. 『日本のトンボ 改訂版』文一総合出版.
2)川合禎次・谷田一三 2018. 『日本産水生昆虫 第二版: 科・属・種への検索』東海大学出版部.
3)Futahashi, R., & Sasamoto, A. (2012). Revision of the Japanese species of the genus Rhipidolestes (Megapodagrionidae) based on nuclear and mitochondrial gene genealogies, with a special reference of Kyushu-Yakushima population and Taiwan-Yaeyama population. Tombo, 54, 107-122.
編集履歴
2024/3/3 公開