昆虫 > トンボ目 > アオイトトンボ科 > オツネントンボ属
分布1):北海道、本州、四国、九州(北部)。国外では朝鮮半島、中国、ロシア、ヨーロッパ。
北海道~九州に分布するアオイトトンボの仲間。トンボとしては珍しく成虫で越冬することが知られており、和名は「越年」に由来している。
オツネントンボの概要
出現時期1) | : | 成虫越冬のためほぼ周年見られる(ただし年1化) |
希少度 | : | ★★★(やや稀) 北方でより普通に見られる |
全長1) | : | オス37-41㎜、メス35-41㎜ |
生息環境1) | : | 平地~山地の抽水植物が繁茂する池沼 |
和名 | : | 成虫越冬であることから「越年トンボ」。 |
オツネントンボの形態
オス
体は褐色で、雌雄で体色に大きな差はない。
アオイトトンボ科だが、アオイトトンボやオオアオイトトンボなどのように翅を開いて止まることはない。
オスは成熟すると複眼上部が青みを帯びるほか、翅の付け根付近に青白い粉を帯びる(写真の個体はまだ成熟しきっていない)。
同一個体。
胸部側面の濃色部は直線状になる(雌雄共通)。
メス
メスも褐色で、一見オスと似る。
オスには副性器があること、メスのほうが腹部が太いこと、腹部先端の形の違いなどで識別できる。
別個体。以下3枚は同じ個体である。
腹部先端が太くなっていることが分かる。
同一個体。
翅を開いた瞬間を撮ったものだが、静止する場合は基本的に翅を閉じている。
同一個体。
2つの複眼をつなぐように、頭部後縁に淡色線があるのがわかる。
ホソミオツネントンボにはないため、本種の識別点の一つとなる。
羽化
成虫越冬であるが、発生は年1回。
羽化は6-9月に見られ、7-8月に多い1)。
同一個体の12分後。翅が伸びている。
識別
ホソミオツネントンボとの識別
ホソミオツネントンボは東北~九州に土着分布しており、オツネントンボとは別のホソミオツネントンボ属に属する。
体形が似るが、注意して細部を確認すれば問題なく同定できる。
主な違いは以下の通りである。
- 胸部側面の模様が異なる(下記参照)。
- 翅を閉じて静止している際、前翅と後翅の縁紋(色のついた部分)がずれるのがオツネントンボ、重なるのがホソミオツネントンボである(下記参照)。
- ホソミオツネントンボのオス、および一部のメスは成熟すると体全体が青くなる。オツネントンボはほぼ褐色のままである。
オツネントンボの胸部側面の濃色部は直線的で斑紋状にならない。
ホソミオツネントンボの胸部側面の濃色部は斑紋状になる。
オツネントンボの前翅・後翅の縁紋はずれる。
ホソミオツネントンボの縁紋はすべて重なる。
アオイトトンボ属との識別
同じアオイトトンボ科に属するアオイトトンボ属(アオイトトンボ、オオアオイトトンボなど)は、静止時に翅を開いてとまることから識別できる(オツネントンボは翅を閉じてとまる)。
オツネントンボは全体褐色のため、慣れれば一見して区別できる。
イトトンボ科などとの識別
イトトンボ科など他の均翅亜目のトンボは体形が似る場合があるが、オツネントンボの褐色の体色、胸部側面の模様などを確認すれば識別できる。
より専門的には翅脈を確認することで科の同定が可能である(別途資料作成予定)。
オツネントンボの生態
オツネントンボはその名の通り、成虫で冬を越す(越年=おつねん)ことが知られている。
樹皮下や建物の隙間などを越冬場所として利用し、氷点下の気温にも耐えることができる1)。
成虫越冬のトンボはごく少数で(多くの種は卵か幼虫)、日本には3種(オツネントンボ、ホソミオツネントンボ、ホソミイトトンボ)が知られるのみである。
文献
1)尾園暁・川島逸郎・二橋亮 2021. 『日本のトンボ 改訂版』文一総合出版.
編集履歴
2021/9/3 公開
2021/9/6 識別点の表記を修正・追記