昆虫 > トンボ目 > モノサシトンボ科 > モノサシトンボ属
分布1,2):北海道、本州、四国、九州。沖縄を除く全都道府県に分布する。海外では朝鮮半島、中国。
腹部の斑紋を物差しの目盛りに例えて名付けられたトンボ。北海道から九州まで広く分布する身近な種で、植生の豊富な池の周囲の薄暗い場所などで夏場によく見かける。オスの脚の一部が白く広がって目立ち、スマートな体型も相まって優美な外見のトンボである。
モノサシトンボの概要
出現時期 | : | 4月下旬-10月中旬3)。近畿では6-7月に多い3)。 |
希少度 | : | ★★(普通) |
全長1) | : | オス39-50㎜、メス38-51㎜ ※春~夏の個体は秋の個体よりも体サイズが大きい1,3)。 |
生息環境1,2) | : | 平地~丘陵地の池沼や、流れの緩やかな河川。抽水植物や浮葉植物の繁茂する植物性沈積物の多い環境を好み、特に岸辺近くに木立のあるやや暗い場所に多い。 |
モノサシトンボの形態
オス
腹部には各節に環状紋があり、和名の通り物差しのように見える。
オスは成熟に伴い、体色が黄色から淡青色に変化する。
成熟オス(別個体、上側)。
メスにもオスのように青くなる個体がいる。
オス。
グンバイトンボほどではないが、中・後脚の脛節が白くて若干扁平になる。
オス(別個体)。
複眼に沿うように斑紋があり、本種の特徴となっている(雌雄共通)。
羽化直後のオス。
脛節の広がりなど、本種の特徴が現れている。
オス(左側)。
メスとの脚の形状の違いが分かりやすい。
メス
未熟メス。
メスは成熟に伴い体色が黄色から淡緑色または淡青色に変わる。
成熟メス。
餌を捕らえたところ。
識別
イトトンボ科やアオイトトンボ科の他種に体型が似るが、比較的大型な体型や「物差し」状の腹部の斑紋、オスの白くやや広がる脛節、複眼基部の斑紋等を確認すれば識別は難しくない。
ただし同じモノサシトンボ科にはよく似た種がいるため注意。
グンバイトンボ・アマゴイルリトンボとの識別
同じモノサシトンボ科で、より分布の限られるグンバイトンボやアマゴイルリトンボと混生する場合がある。
成熟オス以外での識別は下記画像を参照。
オオモノサシトンボとの識別
オオモノサシトンボはモノサシトンボと酷似する希少種で、利根川流域や新潟県などに限って分布する。
モノサシトンボと比較し、胸部や腹端が黒化傾向だが中間的な個体もいる1)。
典型的なオスのオオモノサシトンボでは翅胸上方の淡色条が消失する傾向1)。
典型的なメスのオオモノサシトンボでは背面の黒色部が腹部第10節まで及ぶ(モノサシトンボはふつう第9節まで)1)。
未成熟メスではモノサシトンボよりも脚の赤みが強い1)。
モノサシトンボの生態
成熟に伴う移動
本種は羽化後、未熟個体が近くの薄暗い林床に移動して過ごし、成熟後に水辺へ戻ってくる3)。
繁殖行動
オスは水辺に静止して縄張りを持つ。
交尾後は連結態のまま、水面付近の植物組織内に産卵する1)。
単独産卵も行われる1)。
分類
本種は以前はCopera属に属するとされていたが、均翅亜目全体の系統解析を行った2014年の論文で別属とされ、Pseudocoperaとなった1,4)。
オオモノサシトンボP. rubripesとは遺伝的差異が不明瞭で、混生地では交雑と考えられる中間的な個体も見られる1)。
なお、オオモノサシトンボの学名はP. tokyoensisとされてきたが、2021年にP. rubripesのシノニムとされている5)。
文献
1)尾園暁・川島逸郎・二橋亮 2021. 『日本のトンボ 改訂版』文一総合出版.
2)川合禎次・谷田一三 2018. 『日本産水生昆虫 第二版: 科・属・種への検索』東海大学出版部.
3)山本哲央・新村捷介・宮崎俊行・西浦信明 2009. 『近畿のトンボ図鑑』いかだ社.
4)DIJKSTRA, K. D. B., Kalkman, V. J., Dow, R. A., Stokvis, F. R., & Van Tol, J. A. N. (2014). Redefining the damselfly families: a comprehensive molecular phylogeny of Zygoptera (Odonata). Systematic entomology, 39(1), 68-96.
5)Yu, X., & Hämäläinen, M. (2021). Longinos Navás’s Odonata species from China: Notes on three synonymies in Platycnemididae, including the synonymy of Pseudocopera tokyoensis (Asahina, 1948). Odonatologica, 50(1-2), 115-129.
編集履歴
2024/3/24 公開