コナカハグロトンボ Euphaea yayeyamana

昆虫 > トンボ目 > ミナミカワトンボ科 > ミナミカワトンボ属

沖縄県西表島 2016/8/13
※分布図は目安です。

分布1,2):石垣島、西表島。日本固有種。

山地の渓流などに生息するトンボの仲間。オスは後翅先端寄りに濃褐色の部分があり非常に特徴的。ハグロトンボの名がつくが、カワトンボ科とは別のミナミカワトンボ科に属している。

コナカハグロトンボの概要

出現時期3)3月下旬-11月下旬。
希少度★★(普通)
全長1)オス41-46㎜、メス35-42㎜
生息環境2)平地の川幅が広く明るい河川下流域から山間の森林に囲まれた陰湿な渓流の源流域に至るかなり広範な流水域に生息する。

コナカハグロトンボの形態

オス

沖縄県西表島 2016/8/13

オスは成熟すると斑紋が赤く変化する1)

沖縄県西表島 2016/8/13

オス(別個体)。
オスは後翅の先寄りに濃褐色の部分があり、表面は光が当たると赤紫色に見える1)

メス

沖縄県西表島 2016/8/13

メス(交尾中;左側)。
メスは腹部が赤くならず、翅は薄い褐色。
後翅先寄りの褐色部分の発達具合は様々だが、オスと同程度まで発達することはない。

識別

オスは体色や翅の斑紋から識別は容易。
メスを間違うとすれば同じく石垣島・西表島に分布するチビカワトンボだが、チビカワトンボのメスは翅が透明で胸部が黒化傾向。
また、産卵管がチビカワトンボでは腹端に届くのに対し、コナカハグロトンボでは届かない。

西表島に分布するヤエヤマハナダカトンボは体形が大きく異なる。

生態

繁殖行動

オスは水辺にとまって縄張りを持つ。
交尾後は連結態のまま水面付近の朽木などに産卵を開始する1,3)
メスが潜水産卵に移った場合は連結が解かれ、オスは警護に移る1,3)

幼虫期

幼虫(ヤゴ)は比較的流れの速い場所を好み、やや大きめの石の裏などで生活している2)
なお、ミナミカワトンボ科の幼虫は日本産トンボ類で唯一、腹部に糸状の鰓を持つ仲間である6)

近縁種

台湾には同属のEuphaea formosaが分布し、コナカハグロトンボよりも体サイズがやや大きく、翅の形状やオスの濃褐色斑の形もやや異なっている4)
遺伝的多様性を調べた論文では、分布面積の広いE. formosaよりもコナカハグロトンボのほうが遺伝的多様性が高かったことが分かっている5)

文献

1)尾園暁・川島逸郎・二橋亮 2021. 『日本のトンボ 改訂版』文一総合出版.
2)川合禎次・谷田一三 2018. 『日本産水生昆虫 第二版: 科・属・種への検索』東海大学出版部.
3)尾園暁・渡辺賢一・焼田理一郎・小浜継雄 2007. 『沖縄のトンボ図鑑』いかだ社.
4)Lee, Y. H., & Lin, C. P. (2012). Morphometric and genetic differentiation of two sibling gossamer–wing damselflies, Euphaea formosa and E. yayeyamana, and adaptive trait divergence in subtropical East Asian islands. Journal of Insect Science12(1), 53.
5)Kanke, E., Suzuki, K., Sekiné, K., Suzuki, T., Hatta, K., Yang, M. M., & Tojo, K. (2021). Unexpected population genetic structure in two closely related euphaeid damselflies from the Yaeyama and Taiwan Islands (Odonata: Euphaeidae). Biological Journal of the Linnean Society134(1), 214-228.
6)Bybee S. M., Kalkman V. J., Erickson R. J., Frandsen P. B., Breinholt J. W., Suvorov A. et al. 2021. Phylogeny and classification of Odonata using targeted genomics. Molecular Phylogenetics and Evolution 160:107115.

編集履歴

2024/3/9 公開