キイトトンボ Ceriagrion melanurum

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京都市 2016/7/23
※分布図は目安です。

分布1,2):本州、四国、九州。北海道と沖縄を除く全県に分布する。国外では朝鮮半島、台湾、中国。

オスの鮮やかな黄色が印象的なイトトンボの仲間。植生豊かな湿地に生息するため、地域によっては減少している。メスを探して水際の植物の隙間を飛ぶ姿は独特で愛らしいが、他のイトトンボを襲って食べてしまうなど獰猛な性格の持ち主でもある。

キイトトンボの概要

出現時期6月上旬-10月上旬1)。近畿では6月から8月に多い3)
希少度★★(普通)
全長1)オス31-44㎜、メス33-48㎜
生息環境1,2)平地~山地の抽水植物の繁茂する池沼や湿地の浅い滞水など。高標高地の湿原でも見られる。

キイトトンボの形態

オス

京都市 2016/7/23

成熟オス。
オスは成熟すると腹部が鮮やかな黄色に、胸部が緑色になる。
腹端付近の黒色部も顕在化する。

佐賀県唐津市 2020/6/6

未熟オス。
成熟個体よりも全体に色が鈍い。

兵庫県宝塚市 2014/9/10

成熟オス(別個体)。
腹部第7節~第10節上面の黒斑が目立つ。

メス

京都市 2015/5/24

メスには黄色みの強いものと、緑色みの強いものがいる。
本種は非常に獰猛で、他のイトトンボを捕食する様子がよく観察されるほか、共食いをすることもある3)

京都市 2018/7/1

黄色みの強いメス(別個体)。
この個体はハッチョウトンボを捕食していた。
オスに似るが副性器がなく、腹端の構造も異なる。黒い斑も出ない。

識別

オスは黄色みが強く、国内に似た種はいないため識別は容易。
一方、メスの黄色みが弱い個体はベニイトトンボ、リュウキュウベニイトトンボのメスによく似ている。
確実な識別点としては、前胸の形を真上から観察するとよい(キイトトンボのほうが他2種より左右の張り出しが強い)1)

キイトトンボの生態

繁殖行動

交尾後は連結態で産卵することが多いが、メス単独での産卵も見られる1,3)

同属のベニイトトンボとの比較研究では、ベニイトトンボのオスがメスの飛来を待つのに対し、キイトトンボは水辺を積極的に飛翔してメスを探索することが分かっている4)
その分、ベニイトトンボよりも集団内の個体の密集程度が低いようだ4)

分類

本種の属するキイトトンボ属Ceriagrionは、国内の属ではカラカネイトトンボ属Nehalenniaと形態的に類似している1,2)
これら2属は前額が丸く突出せず、触角の間に横方向の隆条がある点で日本産の他のイトトンボ科と異なる1,5)
形態のみならず分子系統学的解析によっても、これら2属を含むグループは科に相当するレベルで残りのグループと差異があると考えられている2)

なおキイトトンボ属には世界に約50種が知られており、国内には本種とベニイトトンボ、リュウキュウベニイトトンボの3種が産する1,6)

文献

1)尾園暁・川島逸郎・二橋亮 2021. 『日本のトンボ 改訂版』文一総合出版.
2)川合禎次・谷田一三 2018. 『日本産水生昆虫 第二版: 科・属・種への検索』東海大学出版部.
3)山本哲央・新村捷介・宮崎俊行・西浦信明 2009. 『近畿のトンボ図鑑』いかだ社.
4)Mizuta, K. (1988). Adult ecology of Ceriagrion melanurum Selys and C. nipponicum Asahina (Zygoptera: Coenagrionidae). 2. Movements and distribution. Odonatologica, 17(4), 357-364.
5)Dijkstra, K. D., & Kalkman, V. J. (2012). Phylogeny, classification and taxonomy of European dragonflies and damselflies (Odonata): a review. Organisms Diversity & Evolution12(3), 209-227.
6)Paulson D., Schorr M., Deliry C 2022. 『World Odonata List 20220526』https://www2.pugetsound.edu/academics/academic-resources/slater-museum/biodiversity-resources/dragonflies/world-odonata-list2/ 2022/6/11閲覧

編集履歴

2024/8/2 公開