昆虫 > トンボ目 > モノサシトンボ科 > グンバイトンボ属
分布1,2,5):本州、四国、九州。全国的に産地は限られ、特に東日本では分布が局限される。日本固有種。
オスの中脚・後脚の脛節が白く広がっている様子が非常に特徴的なモノサシトンボの仲間。全国的に数の少ない希少なトンボで、生息地は湧水のある植生豊かな環境に限られる。脚の白い部分は主にオス同士の闘争や威嚇に使われており、メスへの求愛には関与しないのではないかと考えられている。
グンバイトンボの概要
出現時期 | : | 5月上旬-8月上旬。近畿では5月下旬-7月上旬が最盛期3)。 |
希少度 | : | ★★★★(稀) |
全長1) | : | オス37-41㎜、メス37-41㎜ |
生息環境2) | : | 丘陵地や低山地の、抽水植物や沈水植物の繁茂する湧水のある緩やかな清流。清冽な水が常に補給される止水域に生息する例もある。幼虫は流れのよどんだ場所で水底付近の植物などにつかまって生活している。 |
グンバイトンボの形態
オス
オスは中脚と後脚の脛節が白く扁平で、和名の由来となっている。
オス(別個体)。
脛節の「軍配」状構造は国産種では本種とチョウセングンバイトンボでのみ見られる。
メス
メスの脛節にはオスのような白く目立つ「軍配」はない。
メスは同じ科のモノサシトンボとよく似るが、後頭条があることで識別できる1)。
分類
本種は従来シナグンバイトンボPlatycnemis foliaceaの日本固有亜種sasakiiとされてきたが(和名は例えば4))、2021年の論文で独立種とされた5)。
それによると翅の形状、翅脈の密度、オス脛節の扁平構造の形状等が両種間で明瞭に異なっているとされる5)。
またシナグンバイトンボのオスは成熟すると体の大部分に粉を吹くなど、一見して異なるようである5,6)。
識別
オスは脛節の扁平な白い構造が独特で、同所的に似た種はおらず、識別は容易。
メスはモノサシトンボやアマゴイルリトンボに似るが、頭部背面の斑紋や胸部側面の色彩で識別できる(下画像参照)1,3)。
グンバイトンボの生態
繁殖行動
オスは水辺に静止して縄張りを持つ。
交尾後は連結態のまま、浅い水面の水草などに産卵する1)。
産卵時、オスは他のオスが近づくと連結態のまま脚の白い部分を広げて威嚇する1)。
「軍配」の役割
ラオスから記載され、中国南部でも見つかっているPlatycnemis phasmovolansは最も大きな「軍配」(扁平に広がった脛節)を持つとされ、未熟個体ではこの部分がピンク色、成熟すると白色になるという6)。
しかしこの種を含め、現生のグンバイトンボ属においては求愛行動などにおける明らかな役割が観察されているわけではなく、オス同士の闘争(他のオスに対する威嚇)がもっとも分かりやすい用途のようだ6)。
こうした争っているオスの姿がメスを引き付ける可能性はあるが、それについてはまだ検討されていないという6)。
2023年にスペインでPlatycnemis latipesを対象に行われた研究においても、「軍配」はオス同士の威嚇のために働いており、メスを誘惑する効果は認められなかったとしている7)。
なお、グンバイトンボ属のオスがすべてこのような扁平な脛節を持つわけではなく、国産種でもアマゴイルリトンボはオスの脛節が全く広がらない。
文献
1)尾園暁・川島逸郎・二橋亮 2021. 『日本のトンボ 改訂版』文一総合出版.
2)川合禎次・谷田一三 2018. 『日本産水生昆虫 第二版: 科・属・種への検索』東海大学出版部.
3)山本哲央・新村捷介・宮崎俊行・西浦信明 2009. 『近畿のトンボ図鑑』いかだ社.
4)守安敦 1997. 岡山県におけるグンバイトンボの分布と新産地. すずむし 132:13-15.
5)Hämäläinen, M. (2021). Platycnemis sasakii Asahina, 1949–a distinct species, endemic to Japan (Odonata: Platycnemididae). Odonatologica, 50(3-4), 251-260.
6)Hämäläinen, M. (2020). A memorable encounter with Platycnemis phasmovolans, the ‘Flying Phantom Featherleg’in Laos. AGRION, 84.
7)Yu, X., & Cordero-Rivera, A. (2023). Behavioural observation on Platycnemis latipes revealing novel function of males’ patrol. Zoological Systematics, 48(2), 140-146.
編集履歴
2024/3/19 公開