サナエトンボ科の概要
不均翅亜目の中では原始的なグループで、大型の種を多く含む。
世界に103属1008種、日本に15属27種が分布している3)。
サナエトンボ科掲載種一覧
日本産27種のうち19種を掲載。
ウチワヤンマ属 Sinictinogomphus
ウチワヤンマ S. clavatus
東北~九州に分布。大型。
和名の通り、腹部後半にうちわ状の広がりがある。
うちわ部分に黄色部があることでタイワンウチワヤンマと区別できる。
タイワンウチワヤンマ属
タイワンウチワヤンマ I. pertinax
関東~八重山に分布。大型。
ウチワヤンマよりもうちわ状の広がりが小さく、黄色部がないことで区別できる。
なおメガネサナエ属やアジアサナエ属なども腹部後半が同様にやや広がるが、本種のほうが大きく、斑紋も異なる。
コオニヤンマ属
コオニヤンマ S. albardae
北海道~九州に分布。大型。
オニヤンマの名がつくがオニヤンマ科でもなければ、ヤンマ科でもない。
日本産サナエトンボ科で最大の種。
オナガサナエ属 Melligomphus
オナガサナエ M. viridicostus
東北~九州に分布。中型。
オスはその名の通り尾部付属器が長く、識別しやすい。
メスは尾毛が白いのが特徴の一つ。
ヒメサナエやオジロサナエのメスも尾毛が白いので注意。
アオサナエ属 Nihonogomphus
アオサナエ N. viridis
東北~九州に分布。中型。
成熟すると斑紋が緑色になる美麗種。
オスの尾部付属器やメスの尾毛が斑紋と同じ色になることも特徴。
ダビドサナエ属 Davidius
クロサナエ D. fujiama
東北~九州に分布。小型。
ダビトサナエ属の背面黄色部はT字にならず、逆ハの字がある。
オジロサナエ属に似るが、尾部付属器や尾毛は黒い。
ダビドサナエとよく似るが、本種は大顎の横や前脚基部に黄色斑がない。
また胸部側面の中央の黄色線は下まで伸びない個体が多く、全体的に黒化傾向が強い。
ダビドサナエ D. nanus
東北~九州に分布。小型。
ダビトサナエ属の背面黄色部はT字にならず、逆ハの字がある。
クロサナエとよく似るが、本種は大顎の横や前脚の基部に黄色斑がある。
また胸部側面の中央の黄色線は下まで伸びる個体が多い。
モイワサナエは胸部側面の斑紋が異なる。
ヒメクロサナエ属 Lanthus
ヒメクロサナエ L. fujiacus
東北~九州に分布。小型。
背面黄色部はT字+逆ハの字。
ヒメサナエに似るが、尾部付属器や尾毛は黒い。
ヒメサナエ属 Sinogomphus
ヒメサナエ S. flavolimbatus
東北~九州に分布。小型。
背面黄色部はT字+逆ハの字。
ヒメクロサナエに似るが、尾部付属器や尾毛は白い。
オジロサナエ属 Stylogomphus
オジロサナエ S. suzukii
東北~九州に分布。小型。
オジロサナエ属の背面黄色部はT字にならず、逆ハの字がある。
ダビトサナエ属に似るが、尾部付属器や尾毛は白い。
八重山諸島にはワタナベオジロサナエが分布する。
コサナエ属 Trigomphus
タベサナエ T. citimus
中部地方(福井県、静岡県以西)~九州に分布。小型。
コサナエ属の背面黄色部は逆L字型。
オグマサナエ、コサナエ、フタスジサナエによく似る。
オグマサナエ T. ogumai
中部地方(石川県、愛知県以西)~九州に分布。小型。
コサナエ属の背面黄色部は逆L字型。
タベサナエ、コサナエ、フタスジサナエによく似る。
コサナエ T. melampus
北海道~中国地方に分布。小型。
コサナエ属の背面黄色部は逆L字型。
タベサナエ、オグマサナエ、フタスジサナエによく似る。
フタスジサナエ T. interruptus
中部地方(福井県、静岡県以西)~九州に分布。小型。
コサナエ属の背面黄色部は逆L字型。
タベサナエ、オグマサナエ、コサナエによく似る。
ミヤマサナエ属 Anisogomphus
ミヤマサナエ A. maacki
東北~九州に分布。中型。
腹部先端近くが広がり、腹部背面中央には黄色線が走る。
また後脚腿節に棘が並ぶ。
メガネサナエ属 Stylurus
オオサカサナエ S. annulatus
東海地方~琵琶湖周辺に分布。中型。
ナゴヤサナエ、メガネサナエによく似る。
オスは尾部付属器が短いことで区別できる。
メスは腹部第7節の黄斑が小さく、後方に伸びない。
メガネサナエ S. oculatus
長野県諏訪湖、愛知県、琵琶湖淀川水系に分布。中型。
オオサカサナエ、ナゴヤサナエとよく似る。
オオサカサナエとの識別はオオサカサナエの項を参照。
ナゴヤサナエとは特によく似ているが、本種のオスは副性器の先端が曲がる(ナゴヤサナエは直線状)。
また本種のメスは腹部第7節の黄斑が後ろに伸び、第9節の黄斑が小さいが、ナゴヤサナエのメスでは第7節の黄斑は後ろに伸びず、第9節の黄斑が大きい。
ホンサナエ属 Shaogomphus
ホンサナエ S. postocularis
北海道~九州に分布。中型。
雌雄ともに太短い体型が独特で識別しやすい。
腹部第9節の下側が黄色い。
オスの尾部上付属器が強く曲がる。
アジアサナエ属 Asiagomphus
ヤマサナエ A. melaenops
東北~九州に分布。中型。
キイロサナエとよく似る。
本種のオスは尾部上付属器が下付属器と同長(キイロサナエでは下の方が長い)。
また本種のオスの副性器はキイロサナエより強く前方に曲がる。
メスでは産卵弁が突出しないことによりキイロサナエと区別できる。
日本産サナエトンボ科一覧
15属27種が分布している。
属名 | 種名1,3) | 国内分布1,4) |
---|---|---|
ウチワヤンマ属 | ウチワヤンマ Sinictinogomphus clavatus | 東北~九州 |
タイワンウチワヤンマ属 | タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax | 関東~八重山 |
コオニヤンマ属 | コオニヤンマ Sieboldius albardae | 北海道~九州 |
オナガサナエ属 | オナガサナエ Melligomphus viridicostus | 東北~九州(固有) |
アオサナエ属 | アオサナエ Nihonogomphus viridis | 東北~九州(固有) |
ホソサナエ属 | ヒメホソサナエ Leptogomphus yayeyamensis | 石垣島、西表島(固有) |
ダビドサナエ属 | クロサナエ Davidius fujiama | 東北~九州(固有) |
ダビドサナエ Davidius nanus | 東北~九州(固有) | |
モイワサナエ Davidius moiwanus (亜種ヒラサナエ、亜種ヒロシマサナエを含む) | 北海道~中国(固有) | |
ヒメクロサナエ属 | ヒメクロサナエ Lanthus fujiacus | 東北~九州(固有) |
ヒメサナエ属 | ヒメサナエ Sinogomphus flavolimbatus | 東北~九州(固有) |
オジロサナエ属 | オジロサナエ Stylogomphus suzukii | 東北~九州(固有) |
ワタナベオジロサナエ Stylogomphus shirozui | 石垣島、西表島 | |
チビサナエ Stylogomphus ryukyuanus (亜種オキナワオジロサナエを含む) | 九州南部~沖縄諸島(固有) | |
コサナエ属 | タベサナエ Trigomphus citimus | 中部~九州 |
オグマサナエ Trigomphus ogumai | 中部~九州(固有) | |
コサナエ Trigomphus melampus | 北海道~中国(固有) | |
フタスジサナエ Trigomphus interruptus | 中部~九州(固有) | |
ミヤマサナエ属 | ミヤマサナエ Anisogomphus maacki | 東北~九州 |
メガネサナエ属 | オオサカサナエ Stylurus annulatus | 東海~近畿 |
ナゴヤサナエ Stylurus nagoyanus | 北海道~九州(固有) | |
メガネサナエ Stylurus oculatus | 中部~近畿(固有) | |
ホンサナエ属 | ホンサナエ Shaogomphus postocularis | 北海道~九州 |
アジアサナエ属 | キイロサナエ Asiagomphus pryeri | 関東~九州(固有) |
ヤエヤマサナエ Asiagomphus yayeyamensis | 石垣島、西表島(固有) | |
ヤマサナエ Asiagomphus melaenops | 東北~九州(固有) | |
アマミサナエ Asiagomphus amamiensis (亜種オキナワサナエを含む) | 奄美諸島、沖縄島(固有) |
文献
1)尾園暁・川島逸郎・二橋亮 2021. 『日本のトンボ 改訂版』文一総合出版.
2)Bybee S. M., Kalkman V. J., Erickson R. J., Frandsen P. B., Breinholt J. W., Suvorov A. et al. 2021. Phylogeny and classification of Odonata using targeted genomics. Molecular Phylogenetics and Evolution 160:107115.
3)Paulson D., Schorr M., Deliry C 2022. 『World Odonata List 20220526』https://www2.pugetsound.edu/academics/academic-resources/slater-museum/biodiversity-resources/dragonflies/world-odonata-list2/ 2022/6/10閲覧.
4)尾園暁・渡辺賢一・焼田理一郎・小浜継雄 2007. 『沖縄のトンボ図鑑』いかだ社.
5)山本哲央・新村捷介・宮崎俊行・西浦信明 2009. 『近畿のトンボ図鑑』いかだ社.
6)広瀬良宏・伊藤智・横山透 2007. 『北海道のトンボ図鑑』いかだ社.
編集履歴
2022/8/7 公開