イトトンボ科 Coenagrionidae

昆虫 > トンボ目

イトトンボ科の概要

広義のイトトンボの仲間(均翅亜目)で最大の科。
世界に126属1370種、日本に11属27種が分布している3)
モノサシトンボ科と最も近縁2)

イトトンボ科掲載種一覧

日本産27種のうち15種を掲載。

カラカネイトトンボ属 Nehalennia

カラカネイトトンボ N. speciosa

北海道~本州北部のミズゴケ湿原に分布。
雌雄ほぼ同色で、成熟すると体色が水色に変わる。
ただしメスは老熟するとさらに褐色に変わり、別種のような体色となる。
複眼ははじめ水色だが、のちに褐色に変わる。

キイトトンボ属 Ceriagrion

キイトトンボ C. melanurum

東北~九州に分布。植生の多い環境であれば都市部にも生息する。
成熟したオスの腹端上面は黒い。
メスの体色は緑色から黄色まで個体差があり、黄色みが弱いものはベニイトトンボと酷似する。
メスについては前胸の形で識別するのが確実(キイトトンボのほうが左右の張り出しが強い)1)
非常に獰猛で、他のトンボを捕食することも多い。

ベニイトトンボ C. nipponicum

関東~九州に分布。植生豊かな池沼に生息する。
オスは未熟時から赤いが、メスは緑色~赤色まで個体差がある。
赤みの弱いメスはキイトトンボに似る。
九州ではリュウキュウベニイトトンボと分布が重なるので注意(比較画像参照)。
希少種とされ、減少していたが近年になって分布拡大している。

リュウキュウベニイトトンボ C. auranticum

九州~八重山に分布。
九州ではよく似たベニイトトンボと分布が重なる(比較画像参照)。
特に九州南部では普通に見られ、分布は北上傾向にある。
また、本州や四国でも移入と考えられる記録がある。
複眼が緑色であることが特徴の一つ。

エゾイトトンボ属 Coenagrion

エゾイトトンボ C. lanceolatum

北海道~北陸に分布。
他種との識別点については個別ページ、または下記キタイトトンボの項を参照。

キタイトトンボ C. ecornutum

北海道に分布。
同属のエゾイトトンボ、オゼイトトンボとよく似ている(いずれも北海道~中部地方北部)。
また、ルリイトトンボやクロイトトンボ、オオイトトンボとも似ており注意が必要。

●オスの識別
①腹部第2節の斑紋:キタ・オゼではワイングラス型。エゾ・ルリはスペード型。オオは変異があるが面積が大きい。
②尾部付属器:エゾ・クロは上、オゼ・ルリ・オオは下付属器が長い。キタはいずれも突出しない。
③成熟個体の色:キタは胸部の緑色みが強い(青くなる個体もいる)。エゾ・オゼ・オオは胸部まで青くなる。ルリは唯一複眼まで青くなる。クロは粉を吹く。

●メスの識別
①腹部上面の黒条:キタは第9節まで明瞭で第10節にはない。エゾは第8節前半で狭まるが第10節まである。オゼは第8節後半で狭まり第10節にはない。オオは通常第10節まで途切れないようである。
②腹部第8節下面:ルリには棘がある(画像)。キタ・エゾ・オゼ・クロ・オオにはない。
③前胸の形:種によって若干異なる。ここでは図示していない。
④後頭条:クロにはない。キタ・エゾ・オゼ・オオにはある。

クロイトトンボ属 Paracercion

クロイトトンボ P. calamorum

北海道~九州に分布。最も普通に見られるイトトンボの一つ。
オスは成熟すると青白い粉を吹き、あまり似た種はいない。
オス未熟個体は色が異なるが、胸部の黒色部の面積が広く、特徴的で見分けやすい。
メスは青色の同色型と黄色の異色型があり、いずれもオオイトトンボに似ている。
オオイトトンボにある後頭条が本種にはなく、また眼後紋も本種のほうが明らかに小さいことで区別できる。

セスジイトトンボ P. hieroglyphicum

北海道~九州に分布。
ムスジイトトンボ、オオイトトンボと似る。
識別点は下表を参照。
なお希少種のオオセスジイトトンボは明らかに大きく、モノサシトンボ大。

セスジイトトンボオオイトトンボムスジイトトンボ
成熟オス複眼緑色緑色青色
オス尾部付属器(上から)ハの字状に開く開かない開かない
オス尾部付属器(横から)上が長い下が長い上下ほぼ同長
眼後紋大きい大きい細長く小さい/ない
後頭条(オス)〇/××
後頭条(メス)〇/×
肩黒条内の淡細条(オス)〇/×××/わずかにある
肩黒条内の淡細条(メス)×
メス前胸背面中央後端突出する突出する富士山型に凹む

オオイトトンボ P. sieboldii

北海道~九州に分布。
近畿や四国、九州などでは激減している。
識別は上のセスジイトトンボの表を参照。

ムスジイトトンボ P. melanotum

東北~八重山に分布。
オスは複眼まで青くなる。
識別はセスジイトトンボの表を参照。

ヒメイトトンボ属 Agriocnemis

コフキヒメイトトンボ A. femina

四国、九州~八重山に分布する小型のイトトンボ。
オスは成熟すると白い粉を帯びる。
メスは未熟時は赤色だが成熟すると緑に変わり、一部の個体は白い粉を帯びる。
奄美以南に分布するヒメイトトンボは普通白粉を吹かず、オス尾部下付属器は突出せず、メス前胸後端も突出しない。

モートンイトトンボ属 Mortonagrion

モートンイトトンボ M. selenion

東北~九州に分布する希少なイトトンボ。
オスは三日月型の眼後紋、オレンジの腹部が特徴的で見分けやすい。
メスは未熟時は橙黄色だが成熟すると緑色に変わり、腹部背面が黒くなる。
メスは複眼に沿って淡色の縦斑があるのが識別のポイント。

ヒヌマイトトンボ M. hirosei

東北~九州に分布する極めて稀なイトトンボ。四国にはいない。
汽水域に生息する。
オスは4つの斑紋が目立ち非常に特徴的。
メスは成熟するにつれてオレンジから褐色に変化するほか、一部地域ではオス型のメスも見られる。

ホソミイトトンボ属 Aciagrion

ホソミイトトンボ A. migratum

関東~九州に分布する細身のイトトンボ。
成虫越冬することで知られる。
一見して細いので識別は難しくないが、眼後紋と後頭条が繋がって直線をなすのも特徴的。
越冬型と夏型があり、近畿地方では夏型が6月中旬~8月、越冬型が8月上旬~翌年6月ごろに出現する。
夏型のほうが翅胸側面の黒条が太い。

ルリイトトンボ属 Enallagma

ルリイトトンボ E. circulatum

北海道~中部地方に分布する。
オスは複眼まで青くなることからエゾイトトンボなどと見分けられる。
メスはエゾイトトンボなどと似るが、腹部第8節下面に棘があることが大きな特徴。
詳細についてはエゾイトトンボの項を参照。

アオモンイトトンボ属 Ischnura

アオモンイトトンボ I. senegalensis

東北~八重山に分布。最も普通に見られるイトトンボの一つ。
メスは成熟するにつれオレンジ色から褐色に変化するもの(異色型)と、オスとよく似た色になるもの(同色型)が存在する。
雌雄ともにアジアイトトンボに似る(比較画像参照)。

アジアイトトンボ I. asiatica

北海道~九州に分布。琉球でも秋に季節風に乗って飛来する。
メスは未熟→成熟→老熟と色が変わり、アオモンイトトンボのようなオス型は見られない。
雌雄ともにアオモンイトトンボに似る(比較画像参照)。

類似種の見わけかた

ベニイトトンボとリュウキュウベニイトトンボ

ベニイトトンボは関東~九州、リュウキュウベニイトトンボは九州~八重山に分布。

アオモンイトトンボとアジアイトトンボ

日本産イトトンボ科一覧

11属27種が分布している。

属名種名1,3)国内分布1,4)
カラカネイトトンボ属カラカネイトトンボ Nehalennia speciosa北海道~本州北部
キイトトンボ属キイトトンボ Ceriagrion melanurum東北~九州
ベニイトトンボ Ceriagrion nipponicum関東~九州
リュウキュウベニイトトンボ Ceriagrion auranticum九州~八重山
エゾイトトンボ属エゾイトトンボ Coenagrion lanceolatum北海道~中部
カラフトイトトンボ Coenagrion hylas北海道
オゼイトトンボ Coenagrion terue北海道~中部固有
キタイトトンボ Coenagrion ecornutum北海道
ナガイトトンボ属アカナガイトトンボ Pseudagrion pilidorsum沖縄~八重山
アオナガイトトンボ Pseudagrion microcephalum与那国島
アカメイトトンボ属アカメイトトンボ Erythromma humerale北海道
クロイトトンボ属オオセスジイトトンボ Paracercion plagiosum東北、新潟、関東
クロイトトンボ Paracercion calamorum北海道~九州
セスジイトトンボ Paracercion hieroglyphicum北海道~九州
オオイトトンボ Paracercion sieboldii北海道~九州
ムスジイトトンボ Paracercion melanotum東北~八重山
ヒメイトトンボ属ヒメイトトンボ Agriocnemis pygmaea奄美~八重山
コフキヒメイトトンボ Agriocnemis femina四国、九州~八重山
モートンイトトンボ属モートンイトトンボ Mortonagrion selenion東北~九州
ヒヌマイトトンボ Mortonagrion hirosei東北~中国、九州
ホソミイトトンボ属ホソミイトトンボ Aciagrion migratum関東~九州
ルリイトトンボ属ルリイトトンボ Enallagma circulatum北海道~中部
アオモンイトトンボ属アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis東北~八重山
マンシュウイトトンボ Ischnura elegans北海道、青森
キバライトトンボ Ischnura aurora硫黄島
アジアイトトンボ Ischnura asiatica北海道~九州(琉球)
オガサワライトトンボ Ischnura ezoin小笠原固有

文献

1)尾園暁・川島逸郎・二橋亮 2021. 『日本のトンボ 改訂版』文一総合出版.
2)Bybee S. M., Kalkman V. J., Erickson R. J., Frandsen P. B., Breinholt J. W., Suvorov A. et al. 2021. Phylogeny and classification of Odonata using targeted genomics. Molecular Phylogenetics and Evolution 160:107115.
3)Paulson D., Schorr M., Deliry C 2022. 『World Odonata List 20220526』https://www2.pugetsound.edu/academics/academic-resources/slater-museum/biodiversity-resources/dragonflies/world-odonata-list2/ 2022/6/10閲覧.
4)尾園暁・渡辺賢一・焼田理一郎・小浜継雄 2007. 『沖縄のトンボ図鑑』いかだ社.
5)山本哲央・新村捷介・宮崎俊行・西浦信明 2009. 『近畿のトンボ図鑑』いかだ社.
6)広瀬良宏・伊藤智・横山透 2007. 『北海道のトンボ図鑑』いかだ社.

編集履歴

2022/6/26 公開