アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa

昆虫 > トンボ目 > カワトンボ科 > カワトンボ属

京都市左京区 2015/6/18
※分布図は目安です。

分布1):本州(新潟県以南)~九州。日本固有種。関東西部以西にはほぼ全域に分布する。

関東以西に分布するカワトンボの仲間。ニホンカワトンボと極めてよく似ており、識別には細心の注意を払う必要がある。メスはすべて翅が透明だが、オスには地域によって3つの翅色のパターンが知られている。

アサヒナカワトンボの概要

出現時期1,2)晩春~初夏。近畿では5-6月に多い2)。高地では夏まで残っていることもある2)。幼虫越冬。
希少度★★(普通)
全長1)オス43-66㎜、メス42-58㎜
生息環境平地~山地の清流。山間の渓流に限って生息する地域もある3)。ニホンカワトンボよりも上流側の閉鎖的な環境に出現する傾向1,2)
産卵1)単独で朽木などに産卵する。産卵中オスが近くに静止し警護を行うことも多い。まれに潜水産卵を行う。

アサヒナカワトンボの形態

オス

京都市左京区 2015/6/18

無色翅型オス(成熟個体)。
オスの翅色には多型があり、①橙色翅型、②無色翅型、③褐色翅型の3パターンがある1)
地域によって出現する翅色が異なる。

滋賀県高島市 2014/8/2

無色翅型オス(成熟個体)。
中部地方の大部分~近畿地方にかけての個体群は無色翅型のみが出現し、成熟すると腹部背面全体に白粉を帯びる(旧ヒウラカワトンボ)。
しかしその他の(橙色翅型や褐色翅型と共存する)地域の無色翅型では成熟してもほとんど白粉を帯びない個体が多く、逆に橙色翅型や褐色翅型オスが白粉を帯びる1)

大阪府茨木市 2013/5/12

無色翅型オス(未熟個体)。
未熟個体には白粉がなく、縁紋が白い。

大阪府茨木市 2013/5/12

同一個体。

京都市左京区 2015/4/27

無色翅型オス。
白粉をやや帯びており、縁紋が白くないので、成熟しつつある個体と考えられる。

宮崎市 2022/6/4

褐色翅型オス(成熟個体)。
この型は九州南西部のみに生息する。

メス

佐賀県唐津市 2020/6/6

メスは無色翅型のみが出現する。

兵庫県豊岡市 2015/7/4

別個体。
メスは成熟しても縁紋が白い。

識別

ニホンカワトンボと極めてよく似ており、正確な同定には細部まで慎重に観察する必要がある。
ただし、地域によっては出現する翅色パターンが限られており、簡易的に同定できる場合もある(後述)。
ニホンカワトンボとの識別の詳細についてはニホンカワトンボのページを参照。

地域別の翅色出現パターン

本種は地域により翅色の出現パターンが異なる。
ニホンカワトンボとの識別の大きな助けとなるため、分布も考慮して識別するのが現実的。

なお、本表はあくまで目安であるため注意。
アサヒナカワトンボの白濁翅型「シロバネカワトンボ」も除外してある。
詳細な分布地図は引用元1)を参照されたい。

伊豆半島の個体群

伊豆半島周辺の個体群は両種の雑種由来と考えられ、中間的な形態を示す1)
他の地域でも交雑個体が見られる可能性があるため注意が必要である。

房総半島の個体群

房総半島にはかつて、雌雄ともに翅の全体が白濁するアサヒナカワトンボの特殊な型(シロバネカワトンボ)が通常の型に混じって出現していた1)
しかし近年では全く確認されておらず、おそらく絶滅したと考えられる。
この原因は採集者による乱獲であろうといわれている。

分類

アサヒナカワトンボはニホンカワトンボと酷似しており、分類には混乱がみられた。
かつてニシカワトンボ(またはニシカワトンボおよびヒウラカワトンボ)と呼ばれていたものにほぼ相当する(一部、ヒガシカワトンボと呼ばれていたものも含む)1)
単にカワトンボという和名で呼ばれていた時期もあった1)

生態

オスの翅色多型と繁殖戦略

本種のオスには前述の通り、橙色翅型・無色翅型・褐色翅型の3型が見られる。
このうち橙色翅型オスは縄張り占有を行い、メスに対して求愛を行ったうえで交尾し、その後多くの場合産卵するメスを警護する1)
この警護には、後からやってきたオスにメスを奪われることを防ぐ効果があると考えられる4)
一方の無色翅型オスは縄張り占有をせず、産卵中のメスに近づき求愛もせずに交尾に至る、いわゆるスニーカーオスとしての戦略をとる1,4)
無色翅型オスはメスの警護も行わないため、橙色翅型オスが警護している場合と比べてメスの産卵の持続時間が半分以下になったという研究結果がある(福岡での例)4)

大阪府茨木市 2018/5/11

連結する無色翅型オスとメス。

文献

1)尾園暁・川島逸郎・二橋亮 2021. 『日本のトンボ 改訂版』文一総合出版.
2)山本哲央・新村捷介・宮崎俊行・西浦信明 2009. 『近畿のトンボ図鑑』いかだ社.
3)川合禎次・谷田一三 2018. 『日本産水生昆虫 第二版: 科・属・種への検索』東海大学出版部.
4)Nomakuchi, S. (1988). Reproductive behavior of females and its relation to the mating success of two male forms in Mnais pruinosa (Zygoptera: Calopterygidae). Ecological research3, 195-203.

編集履歴

2024/1/24 公開