アオハダトンボ Calopteryx japonica

昆虫 > トンボ目 > カワトンボ科 > アオハダトンボ属

兵庫県 2018/6/5
※分布図は目安です。

分布1):本州(青森県以南)、九州。四国には分布しない。海外では朝鮮半島、中国、ロシア。

産地の限られる翅の黒いカワトンボの仲間。ハグロトンボと似るが、オスは藍色の美しい光沢があり、メスは白い偽縁紋がある。川の中流部で見られ、ユニークな求愛行動など生態面でも特徴的なトンボである。

アオハダトンボの概要

出現時期1,2)初夏。近畿では6月に多い2)。幼虫越冬。
希少度★★★★(稀)
全長1)オス57-63㎜、メス55-59㎜
生息環境平地~丘陵地の抽水植物や沈水植物が豊富な、砂底の河川中流域1,3)。ハグロトンボより清らかな水域を好む傾向が強い3)
産卵単独でヨシの根元や水草に産卵する2)。しばしば集団産卵や潜水産卵も行う1)

アオハダトンボの形態

オス

兵庫県 2018/6/5

オスは翅に藍色の光沢があり、成熟すると全身が青藍色に輝き美しい。

兵庫県 2018/6/5

腹端付近の腹部第9節から第10節にかけて腹面が白い。
この白い部分はメスに対する求愛に用いられることが知られている。

メス

兵庫県 2018/6/5

メスはオスに似るが藍色光沢がなく、白い偽縁紋が目立つ。

兵庫県 2018/6/5

メスは前翅の大部分の色が薄く、透けて見える。

偽縁紋

アオハダトンボの翅の白い部分は通常の縁紋のように翅脈で区切られて厚くなった独立した構造ではなく、単に翅の一部が白くなったものであり偽縁紋Pseudopterostigmaと呼ばれる。
縁紋は飛行を安定させるための構造であるとされるが4)、厚みのない偽縁紋はこの機能がないと考えられ、単純に生殖活動のために存在すると考えられる。
実際に偽縁紋が見られるアオハダトンボ、ミヤマカワトンボ、リュウキュウハグロトンボにおいてはメスにのみ偽縁紋が見られ、オスには縁紋も偽縁紋もない。

識別

ハグロトンボと似ておりしばしば混生するが、オスでは体や翅の光沢、メスでは偽縁紋の存在により識別できる。
なお、本種はハグロトンボよりもミヤマカワトンボと近縁である。

生態

求愛と産卵

兵庫県 2018/6/5

オスはメスが現れると翅の輝きと腹部先端下面の白い部分を見せて求愛を行う1,2)
時には水面に翅と脚を開いて着水し、数10㎝流されるフローティングと呼ばれる行動も伴う1,2)
写真のようにメスの偽縁紋を目指して翅に取り付こうとする行動もよく見られる。(この直後、メスは嫌がって飛び去った。)
同じように産卵中のメスの翅にとまって交尾後のメスを警護する行動も見られるという1)
生殖活動が活発になるのは正午前後の3時間程度2)

文献

1)尾園暁・川島逸郎・二橋亮 2021. 『日本のトンボ 改訂版』文一総合出版.
2)山本哲央・新村捷介・宮崎俊行・西浦信明 2009. 『近畿のトンボ図鑑』いかだ社.
3)川合禎次・谷田一三 2018. 『日本産水生昆虫 第二版: 科・属・種への検索』東海大学出版部.
4)Åke Norberg, R. (1972). The pterostigma of insect wings an inertial regulator of wing pitch. Journal of comparative physiology81, 9-22.

編集履歴

2024/2/4 公開