分布1,3,4,5,6,7,17):日本では全国で観察される。主に北海道~中部地方で繁殖するが、西南日本でも局所的ながら各地で繁殖例が知られ5)、繁殖南限は沖縄島4)。越冬期には主に関東以西で見られ、東北では少なく、北海道では夏鳥6)。海外ではアムール、ウスリー、サハリンから朝鮮半島で繁殖し、中国南部で越冬する3)。台湾でも留鳥7)。ヨーロッパの温暖地域では外来種17)。
日本のカモの中でも1、2を争う派手な羽衣が特徴的なカモの仲間。ただし派手なのは冬季のオスのみで、夏にはオスもメスとよく似た見た目となる。西日本では主に冬に、北日本では主に夏に観察される。
オシドリの概要
希少度 | : | ★★★(やや稀) |
全長1) | : | 41-47㎝ |
生息環境3) | : | 山間の渓流や池の近くの樹洞で繁殖する。非繁殖期は低山の渓流や平地の木に囲まれた池など。冬季のガンカモ調査ではダム湖で確認される割合が突出して多い8)。ダム湖においては周囲の水際を樹林が覆っていることが生息に重要とされる10)。 |
学名2) | : | galericulata…ラテン語”galericulum”(かつら、帽子)から |
英名5) | : | Mandarin Duck |
オシドリの形態
※この項の記述は少ない観察経験に基づいており、誤りや不正確な表現を含む可能性があります。
その点ご了承の上ご覧ください。
オス生殖羽
生殖羽のオスは非常に鮮やかで特徴的な外見をしている。
特に内側三列風切が変形した通称「銀杏羽」と呼ばれる大型で橙色の羽は極めて特異である。
冬の間はこのように派手な生殖羽であるが、6月ごろから秋口にかけてはメスとほぼ同じような見た目の「エクリプス」と呼ばれる羽衣になる。
水に浮いたオス生殖羽。
幼鳥も最初の冬のうちに生殖羽に換羽し、成鳥との区別がつかなくなる。
正面から見たオス生殖羽。
嘴は赤く、嘴爪(嘴先端の突起)は白い。
オス生殖羽の羽ばたき。
この写真では分かりづらいが、翼鏡(内側次列風切)は青緑色。
メスにあるような翼鏡基部の白斑はない19)。
オス生殖羽の羽ばたき。
翼下面は灰色。
メス生殖羽
メスはオス生殖羽ほど派手ではないが、目の後ろに白線が伸びるなど特徴的で見分けやすい。
ただし、幼鳥やオスのエクリプスもメスによく似ている。
メス(別個体、年齢不明)。
メス成鳥羽の特徴は、脇の淡色斑が丸いこと。
幼羽では淡色斑がより細長い19)。
ただし、幼鳥も最初の冬のうちに生殖羽に換羽し、成鳥との区別がつかなくなる。
メス生殖羽の羽ばたき(年齢不明)。
翼鏡(内側次列風切)基部に白斑がある点に注目。
この白斑はメスにしか見られない特徴である19)。
同一個体。
オス幼羽・メス幼羽
夏には雌・雄、成鳥・幼鳥ともに非常によく似ており識別には注意する必要がある。
幼鳥は6月ごろに巣立ってメス親と共に行動し、8月中には親離れする11)。
幼羽の特徴は、①脇の淡色斑が細長いこと、②胸~脇下部にかけて小斑が整然と並ぶこと、③肩羽や雨覆の先端がバフ色を帯びること、など19)。
幼羽では雌雄の識別は難しいが、内側次列風切(翼鏡)の基部に白斑があればメス、なければオスである。
なお嘴は幼鳥でもオスのほうが赤い傾向だが、個体差も大きい。
年齢の識別
幼羽は上述の通り、①脇の淡色斑が細長く、②胸~脇下部にかけて小斑が整然と並び、③肩羽や雨覆の先端がバフ色を帯びる19)。
幼羽は夏から秋口にかけて見られるため、メス成鳥だけでなくオス成鳥のエクリプスとの識別が問題となる。
成鳥では①脇の淡色斑がメスでは丸くオスでは太い直線状、②胸~脇下部の斑は明瞭で大きく、③肩羽や雨覆の先端はバフ色を帯びない19)。
雌雄の識別
シーズンを通して、また成鳥幼鳥を問わず、翼鏡(内側次列風切)基部の白斑の有無で雌雄を識別することができる19)。
羽ばたきや飛翔時に確認できるほか、姿勢によっては陸上での静止時にも確認できる。
識別
特に似た種はいない。
近縁のアメリカオシAix sponsaは飼育されていたものが逸出定着した例があるが、稀1)。
アメリカオシのメスはオシドリのメスと似ているが、アメリカオシのほうが目のまわりの白色部が太い1)。
分類
亜種はない(単型種)。
本属はバリケン属Cairinaと姉妹群を形成し、近縁であることが知られている7)。
オシドリ属には本種と北米のアメリカオシAix sponsaの2種のみが含まれる20)。
生態
営巣環境
本種は樹洞に営巣し、メスだけで抱卵する11,14)。
そのため繁殖には樹洞のある大型の樹木が必要である。
北海道札幌市では市街地における繁殖例が知られており、中学校校庭のハルニレや国道沿いのセイヨウハコヤナギ(ポプラ)など、胸高直径1mを超える樹木での営巣が報告されている9)。
また、北海道・本州の双方において、クマゲラの営巣跡を利用した例が知られている15)。
繁殖スケジュール
本種は冬の間、遅くとも5月までにはつがい形成し、5月上-中旬から6月下旬ごろまで抱卵する11)。
オスは抱卵期前半までは巣の近くにいて、朝夕の採餌の際はメスに付き添う14)が、6月上旬の換羽開始ごろにはつがいを解消し、以降はメスだけで子育てする11)。
雛は6月中-下旬に孵化し、樹洞から巣立った後は親子で行動するが、8月中には親離れする11)。
食性
本種の食性は主に植物質で、シイカシ類の堅果(どんぐり)や各種草本植物の種子などを食べるが、ときに水生生物も捕食する11)。
特に春から初夏にかけてはオタマジャクシやカエルをよく食べるとされる11,12)。
パンに餌付いた例もあるという11)。
奄美大島においては、アマミシリケンイモリを捕食しテトロドトキシンの影響で死亡したと思われるメスのオシドリが発見されている13)。
これについてはカシ類の堅果(どんぐり)の不作により食糧不足であったことが背景としてあったのではないかと考察されている13)。
性比
オシドリの性比は明らかにオスに偏っており、国内の越冬期における調査ではオスの割合がおよそ6割となっている16)。
本種が留鳥である台湾や外来種であるドイツにおける研究では、これは繁殖期におけるメスの死亡率が高いことに起因することが示唆されている17,18)。
個体数の動向
ガンカモ調査における近年の冬季の確認個体数は20,000~30,000羽前後で極端な増減なく推移している8)。
越冬分布にも大きな変化はないが6)、繁殖分布は拡大しているとされる5)。
これについては、森林の成熟に伴って本種の営巣する樹洞が増えている可能性が指摘されている5)。
「おしどり夫婦」
本種は仲良し夫婦の象徴として語られ、「おしどり夫婦」という言葉がよく使われる。
しかし本種が鳥類の中で特にペア間のつながりが強いということはない。
むしろ毎年ペアは解消するうえ、雛が生まれるまでにオスは立ち去り、その後はメスのみで子育てを行う11)。
文献
1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)沖縄県 2017. 『レッドデータおきなわ 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版(動物編)』
5)鳥類繁殖分布調査会 2021. 『全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう 2016-2021年』
6)バードリサーチ・日本野鳥の会 2023. 『全国鳥類越冬分布調査報告 2016-2022 年』
7)廖本興 2012. 『台湾野鳥図鑑・水鳥編』晨星出版有限公司.
8)環境省自然環境局生物多様性センター 2023. 第 53 回ガンカモ類の生息調査報告書.
9)新田啓子, & 早川いくこ. (2013). オシドリ雌の行動パターンから営巣木を発見する方法と巣立ち日予測に関して. 山階鳥類学雑誌, 44(2), 102-106.
10)Mahaulpatha, D., MAHAULPATHA, T., Nakane, K., & FUJII, T. (2001). Factors affecting mandarin ducks (Aix galericulata) wintering at dam lakes in the Chugoku district. Ecology and Civil Engineering, 4(2), 147-152.
11)藤巻裕蔵 2013. バードリサーチニュース 2013年 10月号. Downloaded from https://www.bird-research.jp/1_newsletter/ 2024年3月3日閲覧.
12)中野晃生. (2004). オシドリがオタマジャクシを捕食か?. Strix: journal of field ornithology= 野外鳥類学論文集, 22, 207-209.
13)井口恵一朗, & 太田貴大. (2021). アマミシリケンイモリを砂嚢に飲み込んで死んでいたオシドリ. Nature of Kagoshima= カゴシマネイチャー: an annual magazine for naturalists, 47, 215-217.
14)新田啓子. (2015). オシドリ雄の雌への付き添い行動. 山階鳥類学雑誌, 46(2), 141-145.
15)藤井忠志. (2021). クマゲラの生態と本州における研究小史. 日本鳥学会誌, 70(1), 1-18.
16)バードリサーチ 2015. カモの性比国際調査調査報告書 Downloaded from https://www.bird-research.jp/1_katsudo/kamo_osu_mesu/kekka.html. 2024/3/3閲覧.
17)Bellebaum, J., & Mädlow, W. (2015). Survival explains sex ratio in an introduced Mandarin Duck Aix galericulata population. Ardea, 103(2), 183-187.
18)Sun, Y. H., Bridgman, C. L., Wu, H. L., Lee, C. F., Liu, M., Chiang, P. J., & Chen, C. C. (2011). Sex ratio and survival of Mandarin Ducks in the Tachia River of central Taiwan. Waterbirds, 34(4), 509-513.
19)氏原巨雄・氏原道昭 2015. 『決定版 日本のカモ識別図鑑』誠文堂新光社.
20)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2023. IOC World Bird List (v13.2). doi : 10.14344/IOC.ML.13.2.
編集履歴
2024/3/3 公開
2024/3/4 形態の項を修正