分布3,4,6,7,8):留鳥として全国に飛来する。ただし北海道の個体は冬に南へ渡るものが多い。沖縄では主に冬鳥だが一部が繁殖する。海外では東アジアの中~低緯度地域に分布する3)。
身近な環境で多く見られるカモの仲間で、多くの種と異なり周年観察でき、親子連れも見ることができる。雌雄の見た目はそっくりだが、野外でも識別可能な程度の差異がある。マガモとごく近縁で、マガモやアイガモとの交雑個体がしばしば観察される。
カルガモの概要
希少度 | : | ★(ごく普通) |
全長1) | : | 58-63㎝ |
生息環境4) | : | 河川、湖沼、沿岸、河口、水田など |
学名2,9) | : | zonorhyncha…ギリシャ語zone「帯」+rhunkhos「嘴」 |
英名5) | : | Eastern Spot-billed Duck「東の、嘴に斑のあるカモ」 |
カルガモの形態
※この項の記述は少ない観察経験に基づいており、誤りや不正確な表現を含む可能性があります。
その点ご了承の上ご覧ください。
オス
オス。
オスは周年羽衣に目立った違いが見られない4)。
オス(別個体)。
翼鏡の青色、三列風切の白色が目立つ。
オス(別個体)。
オスはメスよりも全体に黒っぽく、羽縁が細い傾向。
同一個体。
大雨覆先端はこのように白い帯になる個体と、白くない個体がいる4)。
翼のパターンは雌雄、年齢にかかわらずほぼ同じ4)。
オス(別個体)。
換羽が早い種のため、冬に幼羽が残っていない場合でも成鳥と判断することは難しい。
同一個体。
翼下面は白っぽく、飛翔時にも腹部とのコントラストが目立ち、遠くからでもカルガモだと分かる。
オス(別個体)。
全体的に摩耗の進んだ初夏の個体。
オス(別個体)。
同じ6月だが、この個体はあまり摩耗していない。
メス
メス。
メスは全体にオスより明るい褐色。
メス(別個体)。
メスは非生殖羽と生殖羽で見た目に若干の違いがあり、特に三列風切には生殖羽でこの個体のような淡褐色斑が現れる4)が、非生殖羽との違いが分かりづらい場合もある。
メス(別個体)。
オスより羽縁が太く、全体に明るい色合い。
上尾筒、下尾筒がオスほど黒くないことが多い。
メス(別個体)。
雌雄ペア
左がメス、右がオス。
オスのほうが体サイズが大きく、体羽の地色が濃く、上尾筒・下尾筒の色が黒に近い。
別ペア。
右がオス。メスの方が淡色の羽縁が太い。
別ペア。
右がオス。
体サイズ、体色の濃さ、尾の周辺の色合いに注目。
別ペア。
右がオス。
羽縁の太さや上尾筒の色の違いが分かりやすい。
雛
雛は母親と行動を共にする。
生後間もない雛。
カモ類の孵化後の雛ははじめ第1幼綿羽を纏い、すぐに完全換羽してより長い第2幼綿羽となる4,20)。
この写真の個体は第1幼綿羽に相当する可能性がある。
ある程度成長した雛。
右奥は母親。
同一家族。
嘴もかなり大きくなっているが、黄色部が成鳥より広い傾向。
年齢・雌雄の識別
オスはメスと比べ、①体サイズが大きく、②体羽の羽縁が細く、③全体に羽色が濃い4)。
特に上尾筒や下尾筒はオスで黒に近い傾向があり、メスではより褐色の傾向。
ただし個体差があり、また換羽の状態によっても識別が難しい場合もある。
幼羽の特徴
幼羽は①脇の最上列の羽がやや尖り気味、②肩・脇の羽縁の先端が欠けることが多く、③胸~腹に小斑が整然と並ぶ、等が特徴4)。
また幼羽の段階では蹼が灰色であることが多い(成鳥では脚全体が橙色)4)。
ただし羽・蹼ともに個体差が大きく、また早い段階で換羽が進み成鳥と見分けがつかなくなる個体もいるため注意4)。
幼羽の雌雄
幼羽の雌雄識別はよほど条件がよくないと難しい4)。
オスでは①体サイズが大きく、②体色が濃く、③嘴が長い傾向4)。
他種との識別
特に似た種はいない。
ただし、マガモと非常に近縁で、様々なタイプの交雑個体(通称「マルガモ」)が観察される(例えば21))。
特に家禽マガモ(いわゆるアヒルやアイガモ)が絡んでいる場合には非常に複雑で、考察が難しくなる。
中には外見はほとんどカルガモだが、マガモの影響が少なからず現れているような個体もいる。
京都の鴨川はアイガモが繰り返し放逐されたことから交雑が進み、混沌とした様相を呈している。
マガモとの雑種(「マルガモ」)
きわめて多様。いくつかの例を紹介する。
雑種オス。
典型的な「マルガモ」。
マガモとカルガモの中間的な見た目となる。
雑種オス。
マガモに近い外見の個体。
雑種メス(左)と雑種オス(右)。
いずれもマガモとカルガモの中間的な特徴が見られる。
雑種オス。
見た目はほぼカルガモだが、嘴の黄色部が通常よりやや発達し、中央尾羽がやや反り返るなどマガモの影響が見られる。
雑種メス。
全体的にカルガモに近いが、上尾筒・下尾筒付近に黒みがない。
雑種メス。
全体の雰囲気はマガモに近いが、嘴の色彩はカルガモの影響が出ており、また顎線が明瞭な点もカルガモ的。
分類
亜種はない(単型種)5)。
なお、カルガモは以前アカボシカルガモAnas poecilorhynchaの亜種zonorhynchaとされたことがあったが、現在では独立種とされる。
マガモおよび近縁種との関係
カルガモは新マガモ属(Mareca、Spatula、Sibirionettaを分離して残った群)に属し、マガモと非常に近縁である5,10,11)。
外見は大きく異なるが、両者の鳴き声やディスプレイがほぼ同じであることからも近縁であることが伺える。
世界的には東アジアに分布の限られる種であるが、極東ロシアにおいてもカルガモの繁殖分布拡大に伴いマガモとの交雑が進行しているとの報告がある12)。
ロシアの同地においてはマガモの繁殖地に少数のカルガモ(主にオス)が侵入することで、カルガモのオスからマガモのメスへの方向で遺伝子流入が起こっていることを示すデータが得られている12)。
なお、中国では一部の家禽マガモ(アヒル)の先祖にはカルガモも含まれていたことが分かっており、両者の遺伝的な近縁さを物語っている19)。
また、マガモやカルガモを含むマガモ種群(世界に13種とされる)の内部の系統関係は未だ結論を見ず、形態・ミトコンドリアDNA・核DNAのそれぞれで異なる系統樹が得られるとの結果が出ている10,11)。
形態的に区別可能であっても、遺伝的分化が不十分な分類群であると考えられる。
新世界におけるマダラガモ、アメリカガモ、メキシコガモとも近縁である10,11)。
カルガモの生態
食性
カルガモは主に植物食で、イネ科植物の種子、植物片、どんぐりなどを食べる4)。
国内ではイネの葉および籾13,14)、オオムギ15)、コアマモ16)等で採食の報告がある。
動物質としては1羽の体内から見つかった30尾のオイカワ17)、飼育下で摂食したカエルの幼生(オタマジャクシ)18)等の報告があるが、基本的には植物質が食餌の中心と考えられる。
個体数について
冬季のガンカモ調査におけるカルガモの確認個体数は近年20万羽前後で推移している7)。
2021年度のガンカモ調査においては190,110羽が確認されており、水面採餌ガモでマガモについて2番目に多い種となっている。
文献
1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)氏原巨雄・氏原道昭 2015. 『決定版 日本のカモ識別図鑑』誠文堂新光社.
5)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2023. IOC World Bird List (v13.2). doi : 10.14344/IOC.ML.13.2.
6)バードリサーチ・日本野鳥の会 2023. 『全国鳥類越冬分布調査報告 2016-2022 年』
7)環境省自然環境局生物多様性センター 2023. 第 53 回ガンカモ類の生息調査報告書.
8)鳥類繁殖分布調査会 2021. 『全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう 2016-2021年』
9)黒田長禮. (1968). 日本産ガン・カモ類の学名の解釈. 鳥, 18(84), 267-271.
10)Lavretsky, P., Hernández-Baños, B. E., & Peters, J. L. (2014). Rapid radiation and hybridization contribute to weak differentiation and hinder phylogenetic inferences in the New World Mallard complex (Anas spp.). The Auk: Ornithological Advances, 131(4), 524-538.
11)Lavretsky, P., McCracken, K. G., & Peters, J. L. (2014). Phylogenetics of a recent radiation in the mallards and allies (Aves: Anas): inferences from a genomic transect and the multispecies coalescent. Molecular Phylogenetics and Evolution, 70, 402-411.
12)Kulikova, I. V., Zhuravlev, Y. N., & McCracken, K. G. (2004). Asymmetric hybridization and sex-biased gene flow between Eastern Spot-billed Ducks (Anas zonorhyncha) and Mallards (A. platyrhynchos) in the Russian Far East. The Auk, 121(3), 930-949.
13)庄司定克. カルガモ Anas poecilorhyncha zonorhyncha SWINHOE によるイネ Oryza sativa L. の被害について. 仙台大学紀要, 2, 8.
14)佐藤太郎, & 東淳樹. (2003). 東北地方の湛水直播栽培農家へのアンケート調査によるカルガモ被害の実態解析. 農村計画学会誌, 22, 13-18.
15)薮哲男, 澤本和徳, & 菅野広士. (2002). 河北潟干拓地におけるカモ被害の軽減 (1): 大麦を加害するカモ種と好適な代替餌場の条件.
16)伊藤龍星. (2011). ノリ養殖漁場に飛来したカモ類の消化管内容物.
17)水野千代. (2006). カルガモの魚類捕食に関する事例報告. Strix: journal of field ornithology= 野外鳥類学論文集, 24, 201-203.
18)大澤啓志, & 葉山嘉一. (2000). 救護された野生生物を用いたカエル卵塊・幼生の食行動観察. 爬虫両棲類学会報, 2000(2), 81-84.
19)Zhang, Y., Bao, Q., Cao, Z., Bian, Y., Zhang, Y., Cao, Z., … & Xu, Q. (2023). Chinese domestic ducks evolved from mallard duck (Anas Platyrhynchos) and spot-billed duck (A. zonorhyncha). Animals, 13(7), 1156.
20)山階鳥類研究所 2008. 鳥類標識マニュアル. 山階鳥類研究所.
21)室伏友三 1984. 酒匂川で観察されたマガモとカルガモの自然交雑. 神奈川自然誌資料 5:54-56.
編集履歴
2024/3/29 公開
2024/4/9 交雑個体の画像と関連文献を追加