ハクガン Anser caerulescens

野鳥 > カモ目 > カモ科 > マガン属

島根県出雲市 2016/12/24
※分布図は目安です。

分布1):北日本に冬鳥として渡来する。北海道では基本的に旅鳥。秋田県の越冬個体数が最も多い。

その名の通り白い体をしたガンの仲間。日本に渡来する個体群はかつて絶滅の危機に瀕していたが、保護活動の甲斐あって復活した。近年国内の越冬個体数も急激に増加している。

ハクガンの概要

希少度★★★(やや稀)
全長2)67㎝
生息環境3)湖沼や広い農耕地
英名Snow Goose「雪のようなガン」

ハクガンの形態

中~小型のガン類。成鳥では体羽の大部分が白く、翼の外側だけが黒い。
ただし俗にアオハクガンと呼ばれる青色型(国内では稀)では大部分が暗青灰色。

第1回冬羽

島根県出雲市 2016/12/24

コハクチョウの群れと共に見られた幼鳥3羽。
換羽の進行には個体差がある。
左から個体A、B、Cとする。トップ画像は個体B。

島根県出雲市 2016/12/24

同じ3羽の反対側。
左から個体B、A、C。

島根県出雲市 2016/12/23

個体A。
幼羽は羽縁がバフ色~白色のため、雨覆は鱗模様に見える4)

島根県出雲市 2016/12/24

個体A。
幼羽では次列風切も黒いが、成羽では白い(矢印)。

島根県出雲市 2016/12/24

下から個体B、A、C。
飛翔時には翼外側の黒色が目立つ。

識別

白色型は羽の大部分が白く、国内に似た種はいない。
青色型は迷鳥として記録のあるミカドガンにやや似るが、ミカドガンでは喉が黒いなどの点から区別は容易。
青色型についてはむしろマガンの部分白化との識別が問題となった例があるが、嘴の形、足の色、三列風切などから識別が可能6)

年齢の識別

白色型成鳥では翼の外側以外の羽毛が真っ白であるため、灰褐色の幼羽を残す第1回冬羽と区別できる。
青色型では、第1回冬羽の場合ほぼ全身が暗青灰色に見えるため、頭部周辺が白い成鳥とは一見して区別可能7)
また、嘴の色はいずれも幼鳥のほうが鈍い色をしている4)

第2回冬羽はほぼ成鳥と見分けがつかないが、中には中雨覆に旧羽を残す個体が少数見られる4)

ヒメハクガンについて

北米には一回り小さなヒメハクガンAnser rossiiが分布する。
日本では未記録。
ハクガンと似るが大きさはマガモ程度で、首は短く頭は丸く、嘴も相対的に小さい7)
幼鳥は灰色みを帯びるが、成鳥との差はハクガンより小さい。
また青色型もあるがごく稀。
地域によりハクガンと交雑する場合があるという。

亜種について

亜種ハクガンcaerulescensと亜種オオハクガンatlanticusの2亜種がある。
国内で見られるものはほとんどが亜種ハクガンで、オオハクガンはごく稀と考えられる。

亜種名繁殖分布越冬分布
ハクガンA. c. caerulescensシベリア北東部、アラスカ北部、カナダ北西部アメリカ南部、メキシコ北部、日本
オオハクガンA. c. atlanticusカナダ北東部、グリーンランド北西部アメリカ北東部
分布はIOC5)より引用。

オオハクガンは亜種ハクガンより全体に大きく、嘴が太くて長い。
ただし亜種ハクガンとの間でオーバーラップがあるため総合的な判断が必要である4)
北海道での観察例8)では下記を識別点として挙げている。

  • 体の大きさがマガンより大きい。
  • 嘴は亜種ハクガンより太く長い。
  • 嘴の会合線部のグリニング・パッチ(櫛状の部分)がより大きい。
  • 声がより太く低い。

‘アオハクガン’について

ハクガンには白色型と青色型(アオハクガン)の2タイプがあり、青色型は国内での記録は稀。
佐場野ら(2012)6)で報告された、2006-2007年に飛来した個体が最初の確実な記録と思われる。
近年アオハクガンは分布を西に広げているようで、ハクガンの渡来数増加と共に記録も増えていく可能性がある。
識別の項でも述べたが、マガンの部分白化と思われる個体との誤認の例もある6)ので注意が必要。

アオハクガンの個体差について

アオハクガンには暗青灰色の部分の広がりの程度にかなり個体差があるようである6,7)
白い部分の多い個体は中間型と呼ばれているようだが、これが白色型との交雑によるものなのかは不明。

アオハクガンと亜種について

青色型はほぼ亜種ハクガンのみで見られ、オオハクガンの青色型と思われるものについては亜種ハクガンとの交雑が疑われるとされている4,7)

個体数の増加について

ハクガンはシジュウカラガンと同じく、絶滅の危機から復活した野鳥として知られている。
江戸時代には東京湾で普通に越冬していたというが、その後乱獲や繁殖地の破壊で激減した。
1993年からマガンを仮親として増殖させる計画が始まり、個体数は徐々に回復3,9)
近年飛来数は急激に増加し、2020-2021年には1ヶ所で2,000羽以上を記録するに至っている。

ギャラリー

島根県出雲市 2016/12/24

個体A、B。
早朝、ねぐらと思われる河川でコハクチョウやマガンなどと共に見られた。

宮城県蕪栗沼 2016/12/26

東北の越冬地でねぐらに集まってきたガンの群れ。
ハクガンは3羽のみであったが、白いためよく目立っていた。

文献

1)2021年度モニタリングサイト1000 ガンカモ類調査2020/21年 調査報告書. 環境省自然環境局生物多様性センター 2021. https://www.biodic.go.jp/moni1000/findings/reports/
2)真木広造・大西敏一・五百澤日丸 2014. 『決定版 日本の野鳥650』平凡社.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)Jeff Baker 2016. Identification of European Non-Passerines. Second Edition. British Trust for Ornithology.
5)Gill F, D Donsker & P Rasmussen  (Eds). 2022. IOC World Bird List (v12.1). doi :  10.14344/IOC.ML.12.1.
6)佐場野裕, 上村左知子, 呉地正行 2012. アオハクガンAnser caerulescens caerulescens(blue morph)の日本初記録. 山階鳥類学雑誌 43(2):177-183.
7)Jon L. Dunn, Jonathan Alderfer 2011. National Geographic Field Guide to the Birds of North America, Sixth Edition. National Geographic Society.
8)星子廉彰 1993. 日本におけるオオハクガン Anser caerulescens atlanticus の初記録. 山階鳥類研究所研究報告 29(2):108-110.
9)雁の里親友の会 詳しく読むシリーズ2 ハクガン. http://shibalabo.eco.coocan.jp/goose/2-1/2-1-2/ac.htm 2022年2月25日閲覧.

編集履歴

2022/2/26 公開
2024/3/3 分布図を差し替え