アカハシハジロ Netta rufina

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大阪府門真市 2023/1/3
※分布図は目安です。

分布3,4):稀な冬鳥として各地から記録があり、主に西日本での観察例が多い。国外では南ヨーロッパからモンゴルにかけての地域で繁殖し、冬季はインド北部やアフリカ北部へ渡る。

稀な冬鳥として渡来するカモの仲間。オスは頭や嘴が派手な赤色になり非常に特徴的な外見をしている。分布の中心はユーラシア大陸の西寄りの地域で、国内では数が少なく見つかると話題になることが多いが、琵琶湖では毎年少数が越冬している。

アカハシハジロの概要

希少度★★★★(稀)
全長1)53-57㎝
生息環境4)湖沼、河川など
学名2)rufina…ラテン語rufinus「赤金色の」から
英名5)Red-crested Pochard「赤い冠毛のハジロ」

アカハシハジロの形態

オス生殖羽

大阪府門真市 2023/1/3

オス生殖羽。
特異な色彩で他種との識別は容易。

大阪府門真市 2023/1/3

同一個体。
嘴はほぼ全体赤く、先端(嘴爪)は淡色。
なお、渡来初期の幼鳥は嘴に黒色部が目立つ4)

大阪府門真市 2023/1/3

同一個体。
上尾筒、下尾筒は黒い。
風切の大部分は灰白色。

滋賀県長浜市 2018/11/16

オス生殖羽(別個体)。
琵琶湖の沖に浮かんで休んでいた個体。
周囲のホシハジロより一回り大きいことが分かる。
琵琶湖では毎年数羽のオスが越冬しており、ホシハジロなどと共に行動していることが多い。

スペイン Delta del Llobregat 2019/3/19

オス生殖羽(別個体、海外)。
雨覆は褐色。

スペイン Delta del Llobregat 2019/3/19

同一個体。
腹は黒く、黒色部が胸から下尾筒までつながっている。

メス生殖羽

スペイン Delta del Llobregat 2019/3/19

メス生殖羽(海外)。
メスは頬から前頸にかけて灰白色である。
正式なデータは確認していないが、国内で観察される個体はオスの方が多くメスは稀であるように感じる。

天王寺動物園 2018/2/4

メス生殖羽(別個体;飼育個体)。
メスの嘴は先端付近や会合部に肉色~桃色部が出るが、個体差が大きい4)

年齢・雌雄の識別

雌雄の識別

国内では比較的換羽が進んだ状態で観察されることが多いため、雌雄の識別に迷うことは少ないと思われる。
夏に見られるオス成鳥エクリプスではメスや幼鳥に似るが、嘴は大部分が赤く、虹彩も赤い点が分かりやすい違い4)
翼のパターンが確認できれば、前縁雨覆marginal covertsの白色帯が幅広いのがオス6)

オスの年齢の識別

1年目冬のオスでは嘴に黒色部が残りやすく、褐色の体羽が残るのが分かりやすい特徴。虹彩の色も鈍い4)
成鳥エクリプスでは嘴の大部分が赤く、虹彩も赤い。

メスの年齢の識別

メスの年齢は野外での識別が難しい。
いわゆる三列雨覆greater tertial covertsは雌雄ともに幼羽では先が狭くなる形で摩耗しており、幅広の成鳥羽と形状が明瞭に異なる6)
ただし三列雨覆は秋の早い時期にすでに換羽している場合がある6)
脇に先端の尖った幼羽が確認できれば幼鳥と分かるが、確認しづらい場合も多い4)

他種との識別

オス生殖羽には似た種はいない。
メスは頭部の色彩がクロガモのメスに似るが、クロガモでは翼に灰白色部がないこと、嘴が太短いこと、頭部の羽毛が短いことなどから容易に識別できる。

分類

亜種は認められていない5)
本種はハジロ属Aythyaとは別のアカハシハジロ属Nettaに属しており、本属はハジロ属と姉妹群を形成すると考えられている7,8)

アカハシハジロ属の他種

IOC13.25)において、アカハシハジロ属には本種のほかに以下の2種が認められている。
・ベニハシガモ(Rosy-billed Pochard)Netta peposaca:南米
・ネッタイハジロ(Southern Pochard)N. erythrophthalma:アフリカと南米

アカハシハジロの生態

食性と採食行動

食性は主に植物食で、水草を中心に採食する10)
アカハシハジロは潜水採餌ガモのグループに属するが、水面採餌ガモに近い採餌方法を取ることも多い4)
ホシハジロとの比較研究では、ホシハジロよりもアカハシハジロのほうが特に春で水面採餌を行う割合が高かったことが報告されている9,10)
採餌方法は水深に依存しており、浅い水域では水面で採餌するが、深い場所では積極的に潜水する9,10)

文献

1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)氏原巨雄・氏原道昭 2015. 『決定版 日本のカモ識別図鑑』誠文堂新光社.
5)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2023. IOC World Bird List (v13.2). doi : 10.14344/IOC.ML.13.2.
6)Mouronval, J.B. 2016. Guide to the sex and age of European ducks. Office national de la chasse et de la faune sauvage, Paris – 124 pages
7)Livezey, B. C. (1996). A phylogenetic analysis of modern pochards (Anatidae: Aythyini). The Auk, 113(1), 74-93.
8)Huang, Z., Yang, C., & Ke, D. (2016). DNA barcoding and phylogenetic relationships in Anatidae. Mitochondrial DNA Part A, 27(2), 1042-1044.
9)Mukherjee, A., Pal, S., & Mukhopadhyay, S. K. (2020). Diurnal time-activity budget and foraging techniques of red-crested pochards (Netta rufina) wintering at the wetlands of West Bengal, India. Turkish Journal of Zoology44(5), 424-439.
10)Amat, J. A. (1984). Ecological segregation between Red-crested Pochard Netta rufina and Pochard Aythya ferina in a fluctuating environment. Ardea72, 229-233.

編集履歴

2024/10/9 公開